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全滅まであと何日  作者: taki
第四章〜ジャングリラ大陸編〜
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77.報復

 スカイ達が三日かけてサンドネシアの宮殿に到着した頃、オリバーはデルクク村で養生を続けていた。この一週間で急速に言語を習得したオリバーは、日常会話はほとんどできるようになった。自分の世話をされながら、ゾエのこれまでのことをたくさん聞いた。聞けば自分と同い年だということ、母はおらず、父のドミニクと二人暮らしというところまで分かった。

「今日もタパ川に洗濯にいくのか」

 オリバーがゾエに尋ねると、ゾエは洗濯物を入れた籠を持ち、笑顔を浮かべた。

「うん」

「どれくらいで戻ってくる」

「すぐ戻ってくるよ」

 そう言って出ていくゾエを見送り、オリバーは故郷を思い出した。ロクレンの町にいたとき、友達はいなかった。自分は人づきあいが苦手だし、大好きな父にくっついて時計をいじってられればよかった。それで満たされていた。その父が亡くなってから、一人でどうにかするしかなくなった。友達をつくる暇もなかった。その寂しさを埋めてくれたのがスカイとロイだった。だけどその二人とも、ゾエに対する気持ちは違った。


 ゾエを待っている間、教わったベカラグア語の復習時間にあてた。さらに、これはベカラグア語で何と言うのかという、「聞きたいことリスト」もつくりあげた。オリバーはそのリストを上から下まで見直しして、思いきり赤面した。破ろうとするや否や、ゾエが戻ってきた。オリバーはあらためてゾエを見る。額を出し、長い黒髪を三つ編みにして、よく日に焼けたエキゾチックな顔に優しい笑みを浮かべている。

「おかえり」

「ただいま。今日は何を勉強する?」

 オリバーは顔が上気し、メガネのレンズが真っ白にくもった。そのメガネの鼻あてを押しあげ、咳払いする。

「今日は君の趣味とか、特技の話を聞かせてくれ」

 オリバーはリストを背中の後ろへ隠した。

「趣味や特技? いいよ」

 ゾエは嬉しくなって目を細める。その仕草に、オリバーは変な汗が出てくるが、頑張ってメモをとった。さも真面目に聞いてるふうに、単語の質問もその都度する。ゾエはそれを身振り手振りをまじえて説明する。オリバーはそれもメモして、話を続けさせる。だけど全然集中できなかった。

 体のしびれは早く治したい。でも、それ以上に今、このひとときを維持することを、オリバーは願うようになっていた。


 その頃、村のはずれではゲイルと部下達が様子を伺っていた。

「この村にはまだ人間(しょくりょう)があります」

 偵察を終えた部下が報告する。

「大将達がいなくなった場所もここらへんだったわね」

「はっ」

「オッケー。行くよ」

 ゲイルは低い声で言い、顎をしゃくった。


 同じ頃、スカイ達はワニ皮の袋にコクジョウムカデの神経毒を移しかえ、サンドネシアの宮殿に侵入した。

 宮殿はヤシの葉をふいた屋根の、三階建てで高床式の建物だった。正面の階段を上ると、複雑な彫刻がほどこされた木製扉があった。開けはなたれていたため、そのまま入ってしまったが、ほかの蜂が出入りする様子はない。ロイは延々(えんえん)と「ドワーフの休日」を弾きつづけた。

 屋内はスカイ達が住むグリフィダの家と異なり、細い竹を編んだ壁でしきられている。目をこらせば、その隙間から隣の部屋に蜂がいるか分かりそうなものだが、窓がほとんどなく、見通しは悪い。ときどき、小さな蜂を見かけた。ロイのイーヨで小さくなったヤバネスズメバチだが、よくいる蜂と大差ない。そのたび、村の男達が虫取り網で捕獲し、踏みつぶして殺した。

「これしかいないのかな」

 スカイがひとつひとつの部屋を見てつぶやいた。

「分かんない」

 ロイはそう言って弾きつづける。すると、正面奥にまた大きな木製扉が現れた。


「このドアを開けたら、いっせいに出てくるかもしれない」

 スカイが警戒して、大広間の観音扉をにらんだ。

「というかさ。確実にいるよ」

 ロイにはいやでも分かった。静かにしていても、ごく小さな羽音が聞こえる。それも、ものすごい数だ。皆で息をあわせ、いきおいよく開いた。その途端、いっせいにヤバネスズメバチの大群が飛び出してきた。

 ロイは演奏を「アヌミラ人の踊り」に切りかえ、そばにいた村の男が拡声器を近づけた。スカイは先頭集団に向け、矢を構えた。集団は体の自由を奪われ、続々と床にたおれている。スカイは猛然と弓を構える。

「ラコロシュテ・プロロクテ・ピカ。ランダギア」

 矢の雨が降り注いだ。先頭集団はまとめて射殺された。後続の蜂達、わずかに残る蜂人達も床に落ち、怖がって暴れた。村の男達はドミニクを筆頭にナイフを投げ、次々に殺した。スカイもひっきりなしに弓を引きつづけた。一行はじりじり大広間のなかへ侵入し、蜂の集団はじりじり後退した。スカイ達のわきをすり抜け、逃げ出そうとする個体もいた。だがイーヨの音色に反応し、バタバタと床に落ちた。


 ほんの数分で、大広間で飛ぶ個体は一匹もいなくなった。わずかに動くものはすみやかに殺された。真っ黒な蜂が床を埋めつくしている。そのおぞましい光景に、スカイは息をはずませ、きょろきょろとあたりを見まわした。

「ハラパノにも蜂人の女王蜂がいたんだ。ここにもいると思う」

「建物内を調べよう」

 ドミニクが言いながら、投げたナイフを回収した。


 スカイ達が宮殿内を探索する間、デルクク村ではゾエがオリバーに向かって、特技について熱心に話してきかせていた。

「……だから私も投げナイフが得意なんだ。村のおばさん達にはやめなさいって言われるけど」

 ゾエが誇らしくなって顔を輝かせた、そのときだった。外から痛烈な悲鳴が聞こえた。

「何?」

 ゾエは不審に思ってタペストリーを開けた。背中に八枚の羽を生やした人間、それに巨大な蜂達が、次々に村の人間達を襲っていた。

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