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全滅まであと何日  作者: taki
第四章〜ジャングリラ大陸編〜
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74.武器奪還

 その晩のことだった。一人の若者が水牛から降り、デルクク村の入口前の茂みに身を潜めていた。

 若者はジャカシアからきた軍人である。軍の命令で、最近はもっぱら、このベカラグアの田舎からコクジョウムカデの毒をかっぱらっている。この任務ははたから見たら完全に泥棒だが、殺人蜂の襲撃が日常茶飯事となった昨今、ジャカシアではあの毒はもはや生命線となり、日に日に重要性を増している。

 べカラグア人のようなウスノロは(あり)よけにしか使ってなくて、完全に宝の持ち腐れだと、上官達は鼻で笑った。実際、自分もそうだと思う。今日もさっさと盗んでずらかろう。もらった報酬を何に使おうか。やっぱり酒か。取らぬ狸の皮算用で、若者は浮かれた。


 いつものように、若者は松明(たいまつ)が減るのを待った。この頃は村の連中が用心して、火を消さないようにしている。だが、それも中央の広場周辺だけだ。納屋に毒が保管されているのも分かってる。広場からは少し離れてるし、そこは薄暗いから問題ない。穴だらけな警護ぶりに、本当に笑わされる。


 若者は中腰になり、なるべく茂みのなかを歩きながら、納屋に近づいた。静かに歩くのは軍で鍛えたから、得意中の得意だし、夜目(よめ)も効く。すみやかに納屋の前にたどり着くと、そこで手をのばし、その感触で壺を確認した。壺をもちあげると、納屋を出た。ほら、簡単だ。


 と思ったはずだった。若者は足首に激痛を覚え、思わず叫び声をあげた。

「捕まえた。こいつか? 毒泥棒は」

 ロイが松明を持って、地面に転がる若者の顔を照らした。若者以上に夜目が効くスカイが弓を下ろす。足首にはスカイの放った矢が突き刺さり、鮮血がしたたっている。ドミニクが若者の両手首をつかみ、縛りあげた。

「ぎゃああ! やめろ!」

「お前どこのどいつだ」

 ロイも若者に触れて尋問すると、若者は泣く泣く白状した。


 翌朝、スカイとロイとドミニク、それに人質にした若者とともにジャッキーにまたがり、村を出発した。

「あの、ジャカシアにいたヒゲの軍人、何がトップシークレットだ。俺らからも金をぶんどるし。国家ぐるみの泥棒じゃんか」

 ロイが怒って言うと、スカイは頷いた。

「でも、あいつにもらった通行許可証がある。これが使えるんじゃないかな」

 スカイが振りかえって言うと、ロイはいまいましく思いながら、それをねめつけた。

「絶対、とりかえそうぜ」


 デルクク村からおよそ百キロ離れた国境地帯で、スカイ達はジャッキーから降りた。それから人質にした若者を盾にして、すぐそばにあるジャカシア軍の駐屯地に向かった。通行許可証を見せるとすんなり入れたので、スカイは得意になった。

「もう、勘弁してくれ。さすがにあんたらにあれを返すわけには……」

 若者がびくついて、後ろのドミニクを振りかえる。

「さっさと案内しろ」

 ドミニクは若者の真後ろからナイフを突きつける。若者は冷や汗をかき、駐屯地内を歩いた。やがて、小さなほったて小屋へ向かった。

「おい。そこのお前ら。何をやっている」

 小屋の前で、そばにいた中年の軍人がとがめた。

「え、ええ。ちょっと頼まれまして……」

 若者は冷や汗をかきながら、挙動不審になる。

「頼まれたって誰にだ。そこは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

 中年兵士は手にした槍の先端をなで、ねめつけてくる。

「んー? 誰だこいつらは。外国人か?」

 一様に髪の黒いジャカシア兵達が集まり、そのうちの一人がロイの金髪を引っぱった。スカイは隣に立つドミニクが、腰から密かにナイフを出そうとしているのを見た。


 一触即発の状況を前に、スカイがドミニクの前に立ち、通行許可証をあらためて見せつけた。

「何度も言わせるな。お前らの軍隊に通行料も払ってあるし、許可証だってあるんだ」

 スカイが声を荒げ、中年兵士の眼前にかかげた。すると、彼は顔から不機嫌さを消した。かわりに目を白黒させた。徐々に顔色は青くなり、許可証をもつ手が震えた。ロイはその手に軽く触れた。

「こ、これは……ヤワン少佐の直筆サイン入り許可証……」

 中年兵士の言葉も震えた。ロイは金髪をつかむ兵士を振りはらい、すぐさま厳粛な顔をしてみせた。

「そうだ。ベカラグアの蛮族が毒を取りもどそうと画策している。ヤワン少佐は、世界一安全な我がハーパー商会の倉庫に隠すようにとのおおせだ。この鳥の背中に詰め。一刻も早くだ」

「ベカラグアが? まさか」

 中年兵士の顔は真っ青になる。

「そうだ。こいつが現地で泳がせてるスパイだ。ベカラグアの動きはすべて把握している」

 ロイがドミニクを指差し、口からでまかせを言う。ドミニクは察して、大人しくナイフをしまった。

「し、失礼しました!」

 中年兵士はビシッと敬礼した。

「さあ、どんどん運べ」

 ロイが厳粛な顔を崩さずに命じ、近くの兵士達がぞろぞろと小屋に入った。神経毒を詰めこまれたワニ皮製の袋を次々と手に取り、ジャッキーの背にくくりつけた。

「取り戻すのに半日かかった。お前が村に置いてった水牛は手間代としてもらう。それと──」ドミニクはナイフを若者に突きつける。「お前の顔は覚えた。告げ口なんてセンスのねえことすんなよ。長生きしたけりゃな」

「い、言うもんか。でもよ、俺もベカラグアに行きてえよ。は、蜂に殺されたくねえ」

 ドミニクはすがってくる若者を冷たい目で見下ろす。それから小さな綿布の包みを若者に突きだした。

「ジャングラスの種だ。すぐに発芽する。これでも()いとけ」

 若者をおいて、ドミニクはスカイ達とともにジャッキーにまたがり、駐屯地を後にした。

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