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全滅まであと何日  作者: taki
第四章〜ジャングリラ大陸編〜
73/79

73.デルクク村

 翌朝、日が高くなってから、スカイは目を覚ました。ぐっすり眠って、夢も見なかった。ロイも同じだったようで、脱力した笑いを見せ、二人でオリバーのそばに歩み寄った。オリバーはまだ寝ていて、顔色は前日よりもずっとよかった。

 そこへ、ドミニクと少女が家内に入ってきた。

「よし、二人は元気そうだな。ちょっと手伝ってくれるか。オリバーのことは、私の娘がみているから。分かったな、ゾエ」

 ゾエとよばれた少女がスカイ達を見る。スカイが水がめを奪った少女だ。少女は緊張してうなずいた。


 ツリーハウスの階段を降りながら、スカイは戸外の様子を見渡し、愕然とした。大怪我をした人間達が呻き声をあげ、広場に横たわっている。デルクク村の人間達と服装が少し違うので、別の村の人間のようだ。デルククの村人は手当てしたり、水を飲ませたり、何か唱えたりしながら、忙しくかけずり回っている。手足が一部、欠けている者もいた。

「もしかして──」

 スカイが言うと、ドミニクは頷いた。

「デカ蜂のしわざだ」

「どこ? 近くにいるの?」

 スカイは急いで背中の弓を手に取る。

「いや。ここには来ていない。ケガ人の手当てを手伝ってくれ」


 そこで、体力を回復したロイが進み出て、はりきって「蓬莱(ほうらい)」を弾いた。村人もよそ者もイーヨの音色を不審がったし、さすがに欠損した手足は戻らなかったが、それ以外の者は癒えていく体に驚嘆した。

「不思議な術だな。なんだそれは」

「サウン族? どこの部族だ」

「安らぐ音色だ、もう一回弾いてくれ」

 皆は口々に称賛した。ロイは取り囲まれ、もみくちゃにされた。そこへドミニクが割って入り、ロイの手を引いた。演奏に疲れたロイは、大勢の輪から救い出されてほっとした。ドミニクはロイとスカイを交互に見つめた。

「お前達のこと、話して聞かせろ。蜂の殺し方も、詳しく教えてくれ」


 その頃、オリバーはゾエに上体を起こされ、水を飲まされていた。

 オリバーは意識がはっきりしてから、今置かれている状況に戸惑った。デルクク村のドミニクに会ったことまではかすかに覚えている。なら、ここはデルクク村なのだろうか。この少女のことも分からない。誰かに世話をされていたのは夢うつつに分かっていたが、こいつだったのだろうか。言葉も通じないし、本人の狙いも分からない。だが、害はなさそうだ。


 オリバーはメガネをさがす。すると少女が気づき、部屋の隅からメガネをとってきた。オリバーは用心しつつも無言でそれを受け取る。さらに首からさげていた紫のヌマグチを開けた。このなかにはルビテナの図書館から役に立ちそうな本を大量につっこんできた。アイスノウ大陸の謎……違う。毒キノコ五百種……違う。ジャングリラの秘境探訪録……これはどうかな。オリバーは「ジャングリラの秘境探訪録」のページをめくった。ゾエも好奇心を駆り立てられ、それを覗きこむ。


 カメラアイのオリバーはそれらをすべて画像として認識していく。ゾエはときどき出てくる挿絵を見るたび感嘆する。

 オリバーが見つけたのは「ベカラグア人との日常会話」という見開きページだ。そこには簡単なあいさつやよく使うフレーズがグリフィダ語で書かれている。

「クンキタピア」

 オリバーがたどたどしく発話した。ベカラグア語で「ありがとう」だ。するとゾエは目を丸くし、破顔した。


 オリバーがベカラグア語と格闘している頃、スカイとロイ、ドミニクは納屋のそばにいた。そこにはたくさんの木の板が立てかけられ、ところどころに小さなナイフが刺さっている。スカイはそれを興味深く見ながら、これまでのことをドミニクに話して聞かせた。手に入れた蜂蜜の巣板や、ジャカシアで金を払ってからもらった通行許可証も見せた。だが、ところどころ詳細は伏せた。オリバーの簡単に人を信用するなという言葉と、ドミニクの信用しろという言葉が交錯する。話す言葉を選びながら、胸のなかでどす黒いものが渦巻いていた。


「そうだったんだな。うちの村にまだ被害はないが、見ての通り、他の村は襲撃されている。それ以外でもトラブルがあってな。泥棒が入ったり……。お前達もその一味かと思ったが、違ったな。昨日は村の者が手荒な真似をした。すまない」

 ドミニクが謝り、それをロイが通訳した。そこへ村の女性がやってきた。女性が持っているのは三つのコップだ。立体的な鳥の彫刻がついた土器で、茶色い液体がなみなみと注がれている。

「ううん。こっちこそオリバーのこととか、いろいろ……ありがとう」

 スカイは虚ろな目をむける。

「困難な旅だったな。飲むといい」

 ドミニクはコップを、二人の前に(きょう)する。

「何、これ」

 スカイが尋ねると、隣でロイが先に口をつけ、盛大に吐いた。

「にっっが。何これ、泥? 具合悪くなるよ」

「コーヒーだ。疲れがとれるぞ」

 ドミニクの説明に、ロイは首を横にふる。スカイも飲んでみた。ロイと同じ感想だが、吐かずに我慢した。


「私達も今後、蜂と戦う運命にあるだろう。お前達の武勇伝は非常にためになるな。ロイのような術は使えないが、ナイフだったら心得はある。蜂の額を狙えばいいわけか」

 ドミニクは言いながら、腰に下げた小さなナイフを取り出し、板に向かって投げた。ダンッと音を立て、板にナイフが刺さった。

「それでお前達は、これからどうする」

「フォールビーの蜂蜜はとれたし。オリバーがよくなったら、次の大陸に行く」

 スカイはナイフの刺さった板を見つめる。

「次とは?」

 ドミニクは新しいナイフを腰から取り出す。

「どこかは、まだよく分かんないんだ。リーダーがこうなってるから」

 スカイは意気消沈してうつむく。

「そうか。では、村を発つまでの間、それまでここで人助けをしてほしい。私はこの村の長でもあるが、この地に生かされている民の一人でもある。助けを求める者を見過ごすことはできない」

 ドミニクは再び、ナイフを投げた。

「うん、わかった」

 スカイはドミニクの横顔を見上げた。


 すでに空の半分はオレンジ色に染まり、見たこともないほど大きく真赤な太陽が、西の空に沈もうとしていた。村のあちこちに松明(たいまつ)が焚かれ、近くの大きなガジュマルのそばにジャッキーがとまり、そこへ幼い子ども達がキャッキャ言いながら群がっていた。スカイとロイはケガ人の世話に一区切りつけ、再びドミニクの後についていった。

「あれはデカい鳥だな。なんという鳥だ」

 ロイの通訳を聞きながら、スカイは急に誇らしくなる。

「テイオウワシだよ」

 本当はもっと小さくて──という言葉は飲み込んだ。なんでもペラペラ話すのは御法度だ。

「昨日、オリバーに変わった薬を煎じていたな。あれはなんだ」

 ドミニクはそんなことには気づかず、ガジュマルの大木へ近づく。

「ハラパノの薬草だよ」

 ろくに効かなかったけど、とスカイは頭のなかで舌打ちする。

「そうか。ヨルシアからきたのに、別の大陸の知識まであるのは立派だ」

 ドミニクがほめるも、スカイは何とも言えない。知識があるのはオリバーだけだ。

「異国人のお前達の、その知識にあやかりたい。もう一つ困っていることがあるんだ」

「何の?」

ありの駆除だ」


 ドミニクはガジュマルの根元を指さす。大量の蟻が群がっていて、木が朽ちてしまいそうだ。そこに大人達が棍棒(こんぼう)を手にもち、叩き殺している。

「何、この蟻」

 スカイは顔をしかめる。

「キグライアリだ。殺虫剤を使っていたんだが、それが盗まれてな」

「さっき泥棒が入ったとか言ってたね」

 ロイが突っこむと、ドミニクは頭をぽりぽり掻く。

「あんなもの盗んでどうするんだか。ほかの村の者にも聞いてみたが、どこも蟻なんて大量発生してないって言うんだ」

「へえ。その殺虫剤って、もう全然ないの」

「少しなら残ってる」


 ドミニクは再び納屋に戻り、壺を運びだした。その壺にココナツの殻でできたひしゃくを突っこみ、中の液体をすくい、木の根にかけた。真っ黒な液体を浴びたキグライアリが、いっせいに痙攣した。どの個体も不自然な角度に足の関節をねじ曲げている。曲げすぎて、やがて頭や足がもげ、次々に死んでいく。

 その光景にスカイもロイもゾッとした。だが、スカイだけはそれに既視感を覚えた。

「ねえ、この殺虫剤ってもしかして……」

 ドミニクはひしゃくでさらに液体をすくってみせる。

「コクジョウムカデの神経毒。蟻の運動神経を破壊するんだ」

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