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全滅まであと何日  作者: taki
第四章〜ジャングリラ大陸編〜
72/79

72.K地点

 時をさかのぼること数時間前、隣国のサンドネシアでは、宮殿を乗っ取ったヤバネスズメバチ達が休息していた。二人の蜂人(ぼうと)、キャロルとゲイルは早起きして、薄明るくなった中庭に出、この日の予定を立てていた。

「この間の水辺の蜜蜂は大したことなかったねー」

 チビで太ったキャロルがあくびをしながら伸びをした。

「うん。そばにいたサルも美味くなかったし。最近、収獲率がいまいち」

 やせ気味のゲイルが頷く。

「それで、今日は南に進軍予定だけど、南西部はヤバいかも。昨日、偵察兵から聞いたんだ。K地点ですんごくヤな匂いがしたらしいよ」

「へえ。……それ、女王(ママ)に報告する?」

 ゲイルが慎重に尋ねると、キャロルは複眼をふくらませ、首を傾げる。

「やめとこ。何でもかんでも報告報告って言うけど、気に入らない報告だとあの人、すぐご機嫌斜めになっちゃうし」

「そうよね。黙っとくほうがいいわ」

 二人は笑いつづける。


 ガブリエラの組織する軍は三ヶ月たらずで、総勢三万匹を超えた。ガブリエラが毎日、積極的に産卵しているせいだ。その兵士達を、初期に生まれたゲイルとキャロルがそれぞれ大将、中将となってとりまとめている。今回の進軍も事前に偵察は済んでいるので、宮殿からどの方角、どの距離に人間の居住地があるかは目星がついている。


 兵士の九割以上がヤバネスズメバチで、一割に満たない蜂人が各部隊の指揮官をつとめている。だけどそれで十分だと、ゲイルは思った。同じ日に生まれたキャロルは軍の大将としての貫禄は十分だし、そのわりに性格は明るく素直で食いしん坊で、とても可愛いと思う。


 だが、後から生まれた他の蜂人に対してはまったくそう思わない。どうにも、愛想が悪く好戦的な奴が多い。同じ母、ガブリエラから生まれた姉妹だというのに、油断したらいつ食われてもおかしくない。その点、ヤバネはただのデカい蜂にすぎず、従うしか脳がないので扱いやすい。ちなみに、母の連れてきた従者の蜂人達は、小言が多くうるさいので食い殺してしまった。


「蜂人の最大の敵って、蜂人かもね」

 ゲイルがつぶやくと、キャロルがきょとんとした。

「何か言った?」

「ううん。別に。ほら、出陣の時間だよ」

 ゲイルとキャロルは部下のヤバネスズメバチ達を叩きおこした。それから隊列を組み、ガブリエラに敬礼した後、一挙に飛び立った。


 一方、ジャカシアマンゴーの木陰では、ロイと大男は握手したまま会話を始めた。

「私はドミニク。デルクク族の首長だ。お前達はどこから来た。なぜエベスタンの瑠璃石(るりいし)を持っている」

 ロイが同時通訳する。

「ドミニク……? デルクク……? ここはベカラグアか……?」

 オリバーがかすかな声で言い、薄目を開ける。ドミニクはオリバーをじっと見下ろす。

「そうだ。お前はどうした。まさかデカ蜂に?」

「いや、ヤバネだったら即死する。けど、何日もこのままなんだ。熱も高いし」

 スカイが代弁すると、ドミニクはしゃがみ込み、オリバーの手首を注意深く見る。二つの歯に突きさされた(あと)があり、周辺の皮膚が変色している。

「まさか。シャベルータンにやられたのか」

 その問いかけに、スカイは震えた。認めたくなかった。だが、やがて小さく頷いた。

「シャベルータンは牙に毒を持つ、危険生物だぞ」

 そんなの聞いてない。スカイの震え幅が大きくなる。ドミニクは手を伸ばし、マンゴーの葉を数枚ちぎった。さらに、それを細かくちぎった。

「これを水と一緒に飲め。患部にもあてろ」

 スカイが葉を受け取り、オリバーの口もとに運んだ。それから少しずつ、本当に少しずつ、オリバーの呼吸が正常に近づいた。


 小一時間して、ドミニクが立ち上がった。

「応急処置はしたが、このままはよくない。村に来い」

 そう言って、ドミニクがオリバーを軽々と背負った。ロイはすぐについていこうとしていたが、スカイはためらった。

「信用していい。私はお前達に危害は加えない」

 ドミニクの言葉を、ロイはそのまま通訳した。スカイはうつむき、ロイにならった。


 デルクク村の住居は独特だった。すべての家がツリーハウスで、ガジュマルの木と木の間に吊り橋や梯子、階段、ハンモックが設けられていた。スカイ達はドミニクに連れられ、村の一番奥にある、一番大きなツリーハウスに入った。


 木造の宅内で、ドミニクはハンモックの一つにオリバーを寝かせた。適度に風が入り込み、涼しい場所だった。オリバーは軽く寝息を立てはじめたので、スカイはその額に手をあてた。ピーク時より、熱は少し下がっているように思われた。そのとき、スカイの腹が大きく鳴った。ドミニクは目を丸くし、そこではじめて笑顔を浮かべた。

「少し待ってろ」


 やがて、ドミニクと少女が蒸した魚や芋を運んできた。数日間、満足に食べていなかったスカイとロイはむさぼり食った。オリバーは少女に芋粥を食べさせてもらった。スカイとロイは食べ終わると他のハンモックによじ登り、ほぼ気絶するように寝た。


 デルクク村の外、半径十キロ圏外では、壊滅的な被害をこうむった。人間の兵士達は真っ先に食われ、その後は民間人が犠牲になった。泣いても、逃げても、隠れても、人間はその獰猛な虫につかまった。肉を裂かれ、血を吸われ、骨を砕かれた。まさに阿鼻叫喚のありさまとなった。


「南部はほぼ制圧でき、残すは西部だけです。先日、五十日と申しましたが、あと一週間もあれば対処できそうです」

 宮殿でキャロルがガブリエラに報告すると、ガブリエラは機嫌よく頷いた。

「大変結構」

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