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全滅まであと何日  作者: taki
第四章〜ジャングリラ大陸編〜
69/79

69.利用できるものは利用しろ

「え?」

 聞き間違ったのかと思った。スカイは息をはずませ、ベロニカをまっすぐ見つめる。


「知ってるか。ヤバネスズメバチは、仲間が死ぬと寄ってくる」

 ベロニカはあざわらい、フォールバナナの根元を指さす。それはヤバネスズメバチの頭だ。

「お前、何言ってんだよ」

 スカイが当惑して言い返したとき、遠くから重低音がした。それはだんだんと近づいてくる。

「ありがとう。『黄金のしずく』はご馳走だ」

「ベロニカ、やめて──」

「そしてお前らもまた、ヤバネのご馳走だ」

「ベロニカ──」

 ベロニカはそう(さげす)み、ネバグモの糸を噛みきろうとした。


 ヒュッと何かが横切った。スカイは一寸遅れてそれに反応する。間一髪、オリバーが新たにネバグモの糸を放ち、それがベロニカの体に巻きついた。ベロニカは体の自由を奪われ、ギャーギャー鳴いた。

「こうなると思ってた。油断ならない奴だ」

 オリバーはさらに糸を出し、フォールバナナとのロープを補強すると、スカイとロイを先に渡らせた。

「やめろ! やめろ!」

 ベロニカは鳴きわめき、地面にずり落ちた。それから、三人とも滝壺を越え、陸地に降りたった。

「おい。どうしてゆうべ、俺らを助けにこなかった」

 オリバーが低い声で問いつめる。スカイは、巣板が入っている布袋を手に取り、黙ってベロニカを見つめる。

「それは、私の力でどうすることもできなかったからだ」

 ベロニカは言い訳をするが、オリバーは聞く耳を持たない。背中でクレメントもキーキーと抗議する。

「でもお前はウピウピ族の村に来てたよな。夜に見たぞ」

 オリバーの言葉に、スカイとロイは顔を見合わす。

「それは──」

「今更、俺らの前に現れたわけか。蜂蜜だけ盗むつもりで。しらじらしい奴だ」

 オリバーはネバグモの糸をこれでもかと、ぎゅっと締めた。


「グエエエ。やめろ」

「ワニが襲ってきたときも、お前は知らせなかったしな。お前はハナから俺らを騙すつもりで──」

「オリバー、やめて」

 スカイが糸をひったくると、オリバーは鬼の形相でスカイをにらんだ。

「スカイ。お前、バカか? たった今、殺されかけたんだぞ」

「でも……。蜂蜜が欲しかったんだろ。分けてやればいいじゃん。な、それでいいだろ」

 スカイは必死だ。こんなこと、あるはずがない。ベロニカはサルで、俺は人間だ。それでも友達になれたと思ってた。

 ベロニカは首を縦に振りまくる。

「なら。コクジョウムカデはどこにいる」

 オリバーは詰問を続ける。ベロニカは毛を逆立て、ウウウと唸る。

「そんな生き物は知らない」

 オリバーはスカイから糸を奪いかえし、さらにきつく締めあげた。ベロニカは断末魔の叫びをあげる。

「もういい。分かった。逃がしてやろうよ」


 スカイが目で強く訴えるので、オリバーは目をむいた。やがて、張りつめていた顔中の筋肉がゆるむと、口を台形に開き、強く、深いため息をついた。どうして。どうしてこいつはこんなにお人好しなんだ。バカなのか。学校に通っていたくせに。そうか、死んでも直らないバカなんだな。それでも、こいつの本質を(おとし)めたいとは思わない。オリバーは歯ぎしりして、ナイフで糸を切ろうとした。

 それが間違いだった。突如、ベロニカが鋭い犬歯をむき、その手首を()んだ。


 オリバーは絶叫し、その場にうずくまった。スカイがとっさに上着を脱ぎ、血まみれの手首にそれを巻きつけた。オリバーは青ざめ、体を不自然に痙攣(けいれん)させている。ベロニカとクレメントは逃亡しようとするも、完全に糸から抜け出せておらず、ジタバタしながらあたりを転げまわっている。

「ああ、なんで。なんで。オリバー、ごめん。……本当にごめん」

 スカイは我を失い、オリバーを必死で介抱しつづける。


 一方、ロイは衝撃を受けて地面に()し、一部始終を傍観していた。

 ヤバネはもうすぐそこまできている。羽音からいって、千。いや、二千はいる。「アヌミラ人の踊り」を弾くか? それとも「ドワーフの休日」か? いや、オリバーの拡声器がないと、あの数は無理だ。ロイはあたりを見回す。スカイがしょってる矢筒が目にとまった。何も考えず、ほぼ衝動的にそこから矢を二本抜きとった。それからベロニカに突進し、馬乗りになり、両の手首に突きさした。

 強烈なうめき声をあげ、ベロニカは苦しみもだえた。ロイは空を見上げ、スカイの真似して指笛(ゆびぶえ)を吹いた。

 空から素早く、ジャッキーが降りてくる。だが、様子が変だ。複数のヤバネスズメバチに襲われ、羽根を散らしている。どうにか振りきり、三人の前に着陸した。間髪を入れず、スカイとロイがオリバーを抱き抱えるようにしてジャッキーの背に乗った。蜂がくる。三人がしがみつくと、ジャッキーは飛翔した。


 滝から少し離れ、スカイは背後をふりかえった。置き去りにしたベロニカ親子に、ヤバネスズメバチの大群が群がる。スカイは震撼(しんかん)した。ものの数秒で、親子は白骨と化した。

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