68.ウピウピの滝
翌朝、スカイ達はウピウピ族の若者の案内で、ウピウピの滝に辿りついた。Uの字型の大きな滝で、絶え間なく轟音を立てていた。その滝壺に根を伸ばし、大きな楕円形の葉をつけた植物が何本も生えていた。
「これがフォールバナナだ」
オリバーが滝音に負けないよう、大声で指をさす。言われて、スカイはそれを見上げる。その植物は茎から苞と呼ばれる、巨大なアーモンドのようなものをぶら下げていて、苞の付け根には白く小さな花をいくつもつけている。今度はウピウピ族の若者が滝壺の真ん中を指差した。
「滝壺のなかに島ができているだろう。あそこは我らの聖域で、私の身分では入れない。だが、あなた方なら入ってしかるべきと、族長が言う」
ロイの通訳を聞き、スカイは小島を見た。そこには小さな東屋が立っている。東屋は赤土の瓦屋根とヤシの木材を使った四本の柱でできていて、その下に石碑が置かれている。屋根と石碑の間には、大きなパンケーキのようなものが何枚も垂れ下がっている。間違いない。野生の蜜蜂、フォールビーの巣だ。
スカイはこの情景を見ているうちに、好奇心がむくむく湧いてくるのを感じた。蜂は水に弱い。羽が濡れたら飛べなくなってしまう。それでも天敵に襲われないよう、あんな危険なところに住んでいるのだろう。なかなかファイトのある蜜蜂だ。
「採蜜は構わないが、聖域そのものは傷つけないでほしい。では、私は帰る」
「分かった。ありがとう、気をつけて」
スカイは、立ち去っていく若者に手を振った。
「泳いで渡れるかな」
スカイが無邪気に尋ねると、頭でっかちなオリバーが顔をしかめる。
「やめとけ。この滝の落差は百メートルだ。滝壺の水深も四十メートル超。おまけに強烈な渦巻きで、一瞬で水底いきだ。泳力に自信があろうとも──」
「あー、いい、いい、そういうの。てか僕、泳げないんだ。一メートルもな。だからここで応援してる」
ロイがオリバーを黙らせ、笑顔で離脱を宣言する。
「偉そうに言える話じゃないし。ねえオリバー、ネバグモの糸って、ネバネバしてないのも出せるのかな」
スカイが言うと、オリバーは頷く。
「ああ」
「糸を張ろうよ。そこの木の幹と、あの東屋の間に」
すっかりオリバーに懐いたネバグモの子どもらは、ヌマグチからのそのそとはい出した。それから近くのバナナの茎に登り、粘着性がない糸を腹から出した。その糸は滝壺を越え、東屋の瓦屋根にうまく絡みついた。
スカイは糸をくいくいと引っぱって強度を確かめ、それをつかんで渡った。巻き上がる水煙に視界の大半を奪われながらも、スカイはどうにか島に辿りついた。振り返ると、ロイとオリバーもゆっくり、糸をつたって渡ってくる。ロイは行きたくなかったのに、オリバーにせっつかれて渋々ついてきたが、すでに顔面蒼白だ。
「ギョエエエ。落ちる! おしっこ漏れそう!」
「漏らしていいぞ」
ロイの叫びにオリバーが冷静に呼応する。
「うお、くそ! バカ! 本気だぞ! 漏らして、水んなかの魚、全滅だ!」
「やれるもんならやってみろ」
「落ちる!」
「落ちない」
「死ぬ!」
「死なない」
ところが、ロイは本当に落っこちかけた。すんでのところでスカイが手を伸ばし、どうにかロイのちっこい体をキャッチした。
滝壺に浮かぶ小島は直径二メートルほどしかなく、東屋と三人でもう満杯だ。すぐそばを飛びかう蜜蜂にロイはヒッと悲鳴をあげるが、オリバーは冷静に東屋を観察する。
「見ろ。日時計にあったのと同じ絵。フォールバナナの絵だ」
オリバーが滝音に負けない声量で言い、石碑に刻まれた図を指さす。
「本当だ」
スカイも大声で言いながら、フォールビーの巣を観察する。なかなか大きな群れで、うかつに手を出さない方がいいな、と考える。ふと、ロイと目が合った。
「ここで僕は何すればいいの」
蜂も水も怖いロイが怯えながら叫ぶと、心得たオリバーがヌマグチから火打ち石と木の枝を取り出す。
「これだよな、スカイ」
「うん。火を起こすから、その煙を巣に浴びせてほしい」
スカイは早速、石を打ちつける。ロイは目を丸くした。
「こんな滝の真ん前で?」
「火が消えないよう、二人とも、頑張って囲って」
ロイとオリバーの体を屋根代わりにして、スカイは火を起こした。その火をロイにもたせ、オリバーはコートで火の周りを覆った。ロイとオリバーは、すでにびしょ濡れだ。
「立派な家だね」
スカイは蜜蜂に話しかける。働き蜂達は巣板の上を歩き回るが、煙のおかげで襲ってくる気配はない。
「ごめんね。少し、蜜を分けて」
スカイは謝って、オリバーのナイフを借り、慎重に巣板を切りとる。
「蜂蜜をとるのって大変なんだな」
ロイが煙を浴びせながらぼやく。
「飼うよりは簡単だよ」
スカイは切り取った巣板を次々に、布袋に入れていく。フォールビーが飢えないよう、一部の巣板は残して、ナイフをオリバーに返した。
「じゃあ、戻ろう」
スカイは糸につかまり、きた道を引きかえそうとした。すると、近くの木の葉が揺れた。さらに、その根元に何かがゴトンと落ちた。
「ベロニカ!」
木の上に現れたのは、ベロニカとクレメントだった。
「スカイ。昨日はすまない。無事で何よりだ」ベロニカはフォールバナナに飛び移り、糸をしっかり握りしめた。「『黄金のしずく』はとれたのか」
「うん。このなかに」スカイは布袋を軽く叩いた。「ねえ、コクジョウムカデもこのへんにいるんでしょ」
ベロニカはそれに答えない。顔に表情もない。スカイにはなぜか分からなかったが、ベロニカは代わりに別のことを言う。
「袋が重いなら、先に投げろ。私がキャッチする」
「分かった」
「スカイ、やめ──」
オリバーがとっさに手をのばしたが、スカイはすでに陸地へ向かい、投げてしまった。ベロニカはそれを見事、キャッチした。すると、ベロニカはスカイが聞いたこともない、気味の悪い鳴き声を出した。
「利用できるものを利用するべきと、教えたはずだ」




