67.黄金の女神様
何だか頭が痛い。何があったんだろう。ここはどこだ。
スカイは薄目を開ける。霧がかってよく見えない。顔や、頭の後ろが痛い。口の中で血の味がする。そうか、思い出した。穴に落ちたんだ。
だしぬけに何者かが槍を突きつけた。肝をつぶして、スカイは息をのむ。お面を被った人間が、異国の言葉でまくしたてた。するとその人間は離れ、他の者達がいるほうへ引きさがった。
スカイは自分の胸のあたりを見る。植物のつるでぐるぐる巻きにされ、木に縛りつけられている。首だけ動かし、あたりを見回した。隣の木にピントが合う。そこで拘束されているのはオリバーか。目のまわりに青タンができている。
「おい、オリバー」
スカイがヒソヒソ声で叫ぶ。オリバーはうつろな目でこちらを見た。
「どうなってんの、これ」
「分からん。ロイはどうした」
「いないよ。オリバーと一緒じゃなかったの」
近くで小さくキキッと鳴き声がする。スカイは樹上を見上げた。ベロニカが茂みに隠れ、こちらを見下ろしている。
「ベロニカ、助けてくれ」
「今は無理だ。待ってろ」
ベロニカはそう言い、クレメントを背に乗せ、いなくなった。希望が打ち砕かれ、スカイは肩を落とした。
「待ってる間に殺されちゃうよ……」
お面の人間達は話し終えると、再びスカイとオリバーのところへ寄ってきた。スカイはそれぞれのお面を観察してみる。全部、大きさや形が違う。一番大きなお面をつけた者が、野太い声で何ごとか言いはなった。周りの者達が松明をかかげ、いっせいに呼応した。
松明はスカイとオリバーの足元へ次々に放られた。火柱が立ち、スカイの靴が燃えはじめた。
「あち! あち! やめろ!」
まさか、火あぶりの刑? こんなところでか。まだ何もしてない。まだ何も手に入れてない。スカイは瞬時にオリバーを見る。懸命に、何かしようともがいている。
「オリバー!」
「スカイ!」
「やめろ!」
突然、グリフィダ語が割って入った。スカイとオリバーが見上げると、そこには色鮮やかな民族衣装を着た女性──、いや、ロイが立っていた。
「今すぐ消せ!」
ロイが怒鳴りつけると、お面の人間達の一部が地べたにひざまづき、額をつけた。残りの者はあわてて布をはたき、鎮火した。さらに、スカイとオリバーのつるのロープを解いた。
「ロイ、何なの、これ」
スカイが怒って、焼けこげた靴を見せながら、ロイの格好をじろじろ見る。頭にはド派手な極楽鳥の羽飾りをつけ、色とりどりのビーズの胴衣を着、丈の長い草のスカートをはいている。
「ウピウピ族に捕まっちゃったんだよ」
ロイがしょぼくれた顔と声で答える。
「何で? どうして?」
「二人は食べられるところだった。僕は……」
ロイが口ごもるので、オリバーが言葉を引きつぐ。
「嫁にでもさせられそうになったか」
「違う! ……それより、もっと深刻だ」
「深刻って何が」
スカイは頭にハテナを浮かべる。
「僕は、め、女神ってことらしい」
ロイが困惑して言うと、スカイは目をぱちくりさせた。一方、オリバーは盛大に吹き出した。
「さすがロイお嬢だ」
「分かんないけど、このウピウピ族がそう言うんだもん」
ロイが顔を真っ赤にして手をブンブン振る。
「ウピウピ族だって?」
オリバーは笑うのをやめ、目を丸くする。一番大きなお面をつけた男が、しずしずとロイに歩み寄った。そしてその金髪に触れ、それを自分のお面にこすりつけてから、再び土下座した。
「今度はどうした」
オリバーが苦笑して尋ねると、ロイは髪を振りはらった。
「黄金の女神様、お供の方、お食事の準備ができました、ってウピウピ族が」
三人は、木が生えていない、少し開けた草地へ案内された。そこでは宴会の準備ができていた。草地の上で竹が組まれ、そこに小さなカモが一羽縛りつけられ、直火で焼き上げられた。その特等席にはスカイたち三人組が座らされ、さらにココナツウォーターが振るまわれた。
「ねえ、こんな小さいの、みんなで分けるの」
スカイは目の前の焼けたカモを指さす。こんなに大勢いるのに、とても足りそうにない。ロイはそばにいる、お面をつけていない年寄りに話しかける。
「長老が言うには、これは女神様達のもの。我々のことは気にせずお召し上がりください、だって」
ロイの通訳を聞いて、スカイはあたりを見回す。母親に連れられ、指をしゃぶる子どもがいる。よだれまみれで、泣きながらカモを指さす子もいる。どの子もあばら骨が浮き上がって、やせ細っている。
「何であんなにやせてるの」
「森に怪物が出て、満足に狩りができない、だって」
ロイがスカイへ通訳する。
「怪物? ヤバネか?」
「そうらしいよ」
「ねえ、ロイ。『ドワーフの休日』を逆から弾いてよ」
スカイがカモを指さすと、ロイは手のひらをポンと叩いた。
重量が一キロほどしかなかったカモは、ロイが『ドワーフの休日』を逆から、しかも高速で弾いたおかげで、五百キロを超える特大のカモになった。
ロイは長老の手首を掴み、話しかけた。
「みんなで分けよう」
長老は目を見開き、ロイに向かって涙を流し、地に手をついて頭を下げた。するとお面の男達、女や子ども達も皆、それにならった。
「これは何て言ってるか、俺にも分かる。女神様ありがとうございます、だね」
スカイの口元がほころびる。女達がナイフで肉を切り分け、皆で残さず食べきった。
その夜は族長の住居で寝泊まりすることになった。ロイとスカイが先に、その後オリバーも入ろうとした。すると護衛らしき男達が、松明のそばで何か言いあっている。言葉は分からないが、きっとヤバネが襲ってこないか、警護しているのだろうと、オリバーはぼんやり思った。が、そこで気づいた。急いで住居の影に隠れ、「それ」を凝視した。




