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全滅まであと何日  作者: taki
第四章〜ジャングリラ大陸編〜
66/79

66.罠

 ジャングリラ大陸から遠く離れたヨルシア大陸、グリフィダ王国のルビテナ村では、領主のナッシュビルが神殿の祭壇に座り、祈りを捧げているところだった。

「こりゃなんでしょうね?」

 村人が礼拝室を掃除しながら、イボイボした袋を手にとり、不審がる。

「ああ、それはオリバーがつくったヌマグチの、あまりだ」

 ナッシュビルが教えると、外から声がした。サムの声だ。

「ロイのハネコが飛んできました。手紙がついてます。なになに……。『私はロイの伯父、タッド・ハーパーと申す。このミケールは長旅で疲れているので、食事と休息を与えてやってほしい。その後、ロイ達に手紙や送りたいものがあったら、託すといい』だそうです」

 サムがミケールを抱っこし、首についていた手紙を開き、読みあげた。ちょうどガルシアがやってきて、指を鳴らした。

「少し待ってろ」


 サムがミケールにカゴいっぱいの魚を与えていると、しばらくして、ガルシアが手紙を二通と本を一冊抱え、玄関を入ってきた。ナッシュビルもまた、瓶やらバスケットやらを持ってきた。さらに村の女達も、カゴや布袋を抱え、ぞろぞろ入ってきた。

「それを全部、ミケールに運ばせるんですか?」

 サムが目を丸くする。

「そのためにこれがある」

 ナッシュビルはヌマグチを手に取り、にんまり笑った。


 一方、スカイ達がサンドネシア共和国の北部、密林地帯を移動していると、ベロニカが尋ねた。

「お前達はなぜ、『黄金のしずく』をとろうとする」

「ヤバネスズメバチって知ってるか」

「知らない」

 スカイがこれまでのことを話して聞かせると、ベロニカは特に感心するでもなく、スカイを横目に見た。


「お前の考えていることは理解不能だ」

「どうして?」

「天敵をすべて殺すなど不可能だ」

「やってみなきゃわかんないじゃん」

「なら、そのためにお前は何を犠牲にする」

 ベロニカの問いに、スカイは口ごもった。

「こいつは十分、犠牲を払ってる」

 オリバーが代わって言いかえすと、ベロニカはそれ以上の追及はやめた。スカイはオリバーの顔を見る。怖い顔でにらまれた。


 やがて一行は巨大な川に行きあたった。ジャングリラ大陸最大の川、タプアス川だ。

「乾季のときなら渡れるが、今は無理だ」

 季節は雨季だ。ベロニカはすぐに諦め、ひき返そうとする。だが、スカイは指笛(ゆびぶえ)を吹いた。するとジャッキーが空から舞いおりた。その巨体を怖がり、ベロニカはたちまち木に登って威嚇(いかく)した。

「大丈夫だよ。俺のペットだ」

 スカイはベロニカに手まねきした。


 ところが、一行はジャッキーに乗っても、川を渡れなかった。対岸には、ヤバネスズメバチの大群が飛びまわっていた。

「嘘だろ」

 スカイは思わず言葉をもらすと、ベロニカが全身の毛を逆立てる。

「なんだ、あの生き物は」

「言っただろ。あれが俺らの村を襲った虫だ」

 ジャッキーの背で、スカイが憎しみを込めてベロニカに言うと、ロイがイーヨを手にとった。

「よ、よし。僕がアヌミラ人の踊りを弾けば……」

「ちょっと待て」オリバーが引きとめる。「今まで見たこともない、ものすごい数だ。イーヨに石を投げてくるやつもいるかもしれない。さけられるなら、さけよう」

「お前は賢い。私もそれに賛成だ」

 ベロニカはオリバーの意見に賛成するも、オリバーは冷たい目でベロニカを見返す。ベロニカはそれに構わず、西の方角を見た。

「アグンチャック山までいってまわり込んでいけば、川を渡らずに済む」

「それ、どこ」

 スカイが尋ねる。

「ずっと西だ」


 ジャッキーに乗って数日間、ときどき休憩を入れながら、一行は空を飛んで移動した。その間、スカイとロイ、ベロニカはほぼ、喋りつづけていた。だが、オリバーだけは黙していた。

 やがて一行は大陸を横断し、大きなこぶの塊のような、アグンチャック山のふもとへ降りたった。大陸西岸にあたるジャカシア首長国の領地で、付近は密林ではなく、平原が広がっていた。


「この平原を南にくだっていけばいい……多分」

 ベロニカがあいまいに言うと、オリバーが厳しく突っこむ。

「こんなところまで来てちゃんと道順、覚えてないのか」

「うろ覚えだ」

 ベロニカが開きなおってあさっての方を向くと、オリバーは怒り、クレメントがキキキと笑う。

「シー。あっちに人がいるよ」

 ロイは長い草のなかに身をかがめ、山側を指をさした。スカイがそちらの方を見ると、頭と腰から下に布をまいた男達がたむろしている。おそらくジャカシア人の軍人らしい。ハンマーがついた竹筒のようなものを掲げ、何かの訓練をしている。

「あの人達に話しかけてみよう。行くぞ、ロイ」

「えー?」


 スカイがロイづてに軍人達に話しかけると、意外にもすんなり聞き入れてくれた。

「ああ、あのデカ蜂のせいでサンドネシアもフィリナムもアレンチャーヤも、壊滅状態だと聞いている。その点、我が国は徹底的に防衛戦線を張っている。奴らに負けることはない」

 一人だけ金ピカのネックレスをつけたヒゲ男が、ふんぞりかえって言う。

「すごい。民間人は大丈夫なのか」

 オリバーが思わず話に割ってはいる。

「そうだ。我が国に死者は一人も出ていない」

「どうやって守ってる」

「悪いが、それはトップシークレットだ。ところで、お前ら外国人は、通行料は払ったか?」

 ヒゲ男は意地悪く笑い、オリバーを見おろした。


 スカイ達はその後、ジャッキーに乗って南にくだった。

「なんで通行料なんか払ったんだよ」

 ロイが抗議すると、オリバーは鼻歌をうたう。

「いいんだよ。おかげであいつら、このへんの地理のこともペラペラ喋ってくれただろ」

「そうだよね。ウピウピの滝までの細かいルートまで詳しく教えてくれたし、途中でまた尋問されてもお金払わなくて済んだし、いいかも」

 軍人にもらった即席の通行許可証を見て、しきりに頷くスカイに、ロイは開いた口がふさがらない。

「これだから田舎者は。カモられただけに決まってんだろ」


 やがて、一行は密林地帯の前でジャッキーから降りた。

「こっからまた徒歩でジャングルか」

 ロイがうんざり顔でうめいた。

「ああ、でもウピウピの滝がすぐそばだ。ちょうど、国境ぞいなんだな」

 オリバーは地図を見て言う。

「滝までジャッキーで行ければいいのに。僕にはやっぱり、ジャングルは向いてないな。都会生活が恋しいよ」

 ロイははかなく笑った。だけど誰も突っ込まない。

「何だよ。何か言えよ」


 不快になってあたりを見回す。何の前触れもなく、スカイ達がこつぜんと姿を消した。

「おーい! スカイ! オリバー! ベロニカ!」

 ロイは焦って小走りになる。木の枝をよけ、丈の長い草むらを乗りこえ、苔に足を取られそうになりながら、前へ前へと進む。

「嘘だろ。はぐれた?」返事はない。「どうしたんだよ。どこだよ、みんな」

 唐突に足元の土が崩落した。多量の木の葉とともに、ロイは地面の穴へ転落していった。

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