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全滅まであと何日  作者: taki
第四章〜ジャングリラ大陸編〜
65/79

65.森のガイド

 ベロニカとの旅は、奇跡の連続だった。

 八月に入ったというのに、熱帯に位置するジャングリラ大陸は寒暖差が小さい。広大な密林のおかげで日陰が多く、一行が暑さに悩まされることはなかった。それどころか見たこともない動植物に、スカイは魅せられた。細長い葉を三つ編みにしている木や、直径三メートルはある巨大な花の群生、スパイラル状の角をもつ水牛の群れを見た。さらに、七色に輝く蝶を体じゅうにとまらせたり、伸びちぢみする植物のつるにつかまってターザンしたり、クッションのように大きなキノコの上を飛びうつったりして、豊かな原生林を楽しんだ。ロイはつるからもキノコからもすべり落ちるし、スカイのことを妬ましく思ったが、オリバーに助けられ、頑張って後を追った。


 途中、三人は汗だくになって石の上に座った。するとベロニカが木から降りてきて、スカイの隣にちょこんとこしかけ、問いかけた。

「腹でも減ったか」

「うん。喉もかわいたし」

「人間達は果実だけで生きていけないのだろ」

「うん。パンとか。獣も食べるよ。……サルは食べないけど」

 スカイが気まずくなってベロニカを見ると、本人は白けた顔で見返し、長いまつ毛をゆっくり上下させる。

「パンとはどのようなものか」

「ライ麦とか小麦って知ってる?」

「知らない。お前達の土地のサルはそれを食べるのか」

「そもそもグリフィダにサルはいないよ。このへんの人間は何を主食にしてるの」

「地中にできる、タロイモを食べているのは知っている」

「へえ。それってどこに生えてるの」


 木と木を飛び移るベロニカの後を、三人は再び追いかけた。木々におおわれたゆるやかな斜面を下り、ぬかるんだ湿地にたどり着くと、ベロニカは木から降りてきた。

「そこに小川がある。それから、あの植物を引っこぬくといい」

 ベロニカが長い指でさした。湿地には地表から直接、茎を何本もだし、人間の顔より大きな葉をつけた植物がいくつも生えている。スカイ達は水をすくって飲んだ。それからスカイはぬかるみに足を踏み入れた。

「おい、気をつけろよ」

 そう言ってロイはオリバーの後ろに隠れ、ぬかるみに入る気はない。

「大丈夫」

 スカイは植物の根元をまとめてつかみ、勢いよく引っこぬいた。出てきた根っこが玉のようにふくらんでいて、ベロニカが指をさす。

「それがタロイモだ」

「こんな硬いの?」

「人間達は穴をほり、そこに焼いた石を入れて、芋を葉にくるんで入れて、温めて食べる。やりたければやれ」

 スカイは面白くて笑った。ベロニカは投げやりだけど、親切だ。

「うん。やってみるよ」


 ロイとオリバーが穴をほっている間、スカイは次々にタロイモをほりおこし、近くの小川で洗った。ベロニカとクレメントが物欲しそうにしているので、スカイはまた笑った。

「なんだよ。お前も結局、イモがほしいんじゃん。ほら」

「利用できるものを利用するべきだ」

 そう言い訳してタロイモを受けとるベロニカを、オリバーは冷ややかな目で見た。

 その後、スカイは小枝を集め、火を起こした。そこに石を投げ入れ、焼石(やけいし)をつくり始めた。


 焼石ができるまでは時間がかかる。

「少しここで休め」

 ベロニカがそう言って、クレメントを背中に乗せ、タロイモをくわえると、樹上に登っていった。三人は焼ける石のそばに寝転がった。サラサラという心地よい小川の音を聞きながら、スカイは目を閉じた。

 スカイもオリバーも寝息を立てた。だが、相変わらず耳のいいロイだけは小さな物音に気づいた。樹上ではベロニカが絶えずいったりきたりしている。ロイは足元を見た。体長十メートルを超える巨大なワニが、小川から這いずりでてくる。今にも足を食われそうだ。

「うわ! 起きろ」

 ワニを見たことがないロイは仰天して、スカイとオリバーを叩きおこす。二人ともとっさに足を引っ込め、すぐさま立ち上がった。

「殺せ! 殺せ!」

 頭上からベロニカが叫ぶ。スカイは走りながら矢筒から矢を抜き取り、弓につがえた。ジャッキーに乗りながら射撃したのを思い出す。走りながらでもできるはずだ。

「ラコロシュテ・プレレクテ・ピカ」矢を、迫りくるワニに向ける。「レクシア」


 光り輝く矢が(くう)を突きぬける。そのまま殺せると思いきや、ワニの硬いウロコがそれをブロックした。

「ひえっ」

 ロイは悲鳴をあげた。

「ロイ! あれだ! 弾け!」

 オリバーがどやしつけた。ロイは卒倒しかけていたが、どうにか正気を保つ。それから一か八かで、「ドワーフの休日」を弾いた。


 ワニはみるみるうちに小さくなった。鮭ほどの大きさになったとき、スカイは弓をじかに持ち、渾身の力を込めてワニの脳天を叩いた。ワニは目を回し、そのまま動かなくなった。

「すげえぞ! ロイ!」

 オリバーがバンバン背を叩いた。ベロニカも木から降りてきて、勝利の咆哮(ほうこう)をあげた。

「ははは……。蜂以外にも効いてよかった」

 ロイは腰が抜けて、その場で膝を折った。


 ベロニカに勧められて、スカイはワニの皮をはぎ取り、肉を切り分けた。それをタロイモの葉に包み、タロイモと一緒に焼石の穴に入れた。さらにベロニカは近くの若竹を折って、器用に裂き、竹串を工作してみせた。

「我々はそのような生き物は食べないが、人間達はそれを好んで食う」

 ベロニカはできた竹串をスカイの手に持たせる。

「そうなんだ。美味しいの? これ」

「知るよしもない」

 ベロニカのつっけんどんな言い方に、スカイは声を立てて笑った。だが、実際に焼きあがったものを竹串に刺して食べて、舌鼓を打った。

「うまい。これ、なんていうの」

「ワニだ」

 ベロニカは無表情で返す。

「鶏肉みたいな味だね」

「鶏肉とは何か」

(にわとり)だよ。うーんと。飛ばない鳥」

「鳥のくせに飛ばないとは、まったく怠けた生き物だ」

 スカイはベロニカの言い草がおかしくて笑う。だが、そのわきでロイはタロイモだけを食べつづける。

「スカイはよくそんなゲテモノ食えるよな」

「栄養がありそうだ。ロイも食べろ」

 オリバーがタロイモの葉を皿代わりにし、ワニ肉を乗せてやったが、ロイは手をつけなかった。


 やがて日が暮れた。ヤバネスズメバチの働き蜂達は、人間の肉団子を巣へ持ち帰った。幼虫達に食わせる様子を見ながら、蜂人はガブリエラの前にひざまづいた。

「報告によりますと、大陸の東部と北部の人間はおおかた食いつくしました。西部は抵抗勢力が強く、難航しています。ここ、中央のサンドネシア共和国ですが、ちょっと気になる報告がありまして」

「なんだ」

「山あいに、美味そうな蜜蜂がいると。ただ、水辺にいる品種で、手を出すのが難しいと」

「ほお。なら下級兵士にやらせろ。二千もあれば足りるか?」

「充分でございます」

「では行け」

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