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全滅まであと何日  作者: taki
第四章〜ジャングリラ大陸編〜
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64.人語を話す獣

 翌朝、オリバーが目を覚ますと、そばにはロイしかいなかった。どこからか、ピイィと高い鳴き声が聞こえてくる。ジャッキーの鳴き声だ。オリバーは空を見あげた。スカイを乗せたジャッキーが、背の高い樹木を縫うように降りてくる。

「俺、ジャッキーに乗りながら弓を引けるようになったんだよ」

 スカイがほおを紅潮(こうちょう)させ、ジャッキーの背中を降りた。立派な雄のクジャクを手に持っている。まだ生きていて、バタバタと暴れた。

「そんな綺麗な鳥なのに、食うのか」

 ロイが極彩色(ごくさいしき)のつばさに見とれながら、殺すのが惜しくて言う。

「食べないなら果物でもいいけど。昨日、オリバーがとってきたやつ」

「ああ、あれ。なくなった」

 言いながら、オリバーは首をかしげた。昨日、確かにあまった実を布袋にしまって、腰に下げておいたはずだ。

「まあいいや、こいつは逃そう。美味そうなのを見つけた」

 スカイはクジャクを放して靴を脱ぎ、近くの大木をするすると登りはじめた。ロイとオリバーが見あげていると、スカイは樹上に実るココナツをもぎとった。

「一個ずつ落とすから、受けとって」

 スカイは地上に向かって、元気よく叫んだ。


 ココナツの果肉とジュースをたっぷり腹に押しこみ、三人はジャングルの奥を進んだ。

 相変わらず森の中は賑やかだった。視界には常になんらかの生き物がいて、鳴きわめいていた。耳のいいロイにはその騒音が気味悪く、ずっとスカイにへばりついた。

「なんでジャッキーを使わないんだよ」

「ジャッキーは上空を見渡せても、密林の内部までは見通せない。スカイ、少し東にそれてる。二時の方向だ」

 オリバーが方位磁針を見ながら言うと、ロイはため息をついた。

「ふうん。ところで、シャベク(りん)ってどんなとこなんだ」

「エベスタン人から聞いた話だと、言葉を発する生き物達が暮らしてるらしい。だが、現地人にも解読できない言語だって。ロイなら分かるかもな」

「うーん。哺乳類なら多分……」

 ロイはそう言って、すぐそばを通りすぎた大きなヤモリに卒倒しかけた。


 一方、スカイはずっと違和感を感じていた。空気の動きがおかしいのだ。

「ねえ。誰かにつけられてない?」

「さあ」

 スカイの問いかけにオリバーは気のない返事をして、草むらをナイフで切る。

「誰かっていうのは単体だと思ってんのか? この大陸についたときから複数形だよ。変な鳴き声の鳥と虫はわんさかいるし。あと、変な……何だろ……モシャモシャしたのも」

 ロイがだんだんテンポを落として言うと、スカイが足を止めた。

「モシャモシャ?」

「なんかそういう、こすれる音がする。毛だまりみたいなやつ……」

「肉食獣じゃないのか」

 青ざめたオリバーが言葉を漏らすと、他の二人は身を固くした。

「いや、そういう危ないのと違う。なんだかストーカーみたいなの……」

 ロイの言葉にスカイは弓を構え、あたりを見回した。構えたまま三百六十度、その場を一周した。


 いる。一匹か。いや、二匹いる。ロイみたいに音までキャッチできないが、何かの気配がする。どこだ。木の上か。いや、気配がするのは地上だ。

 スカイは目線をそばの茂みに落とした。目に見えない「それ」は、右から左へ移動していく。事情は分からないが、不安定な動きを肌で感じる。

 スカイは弓を下ろし、矢を矢筒(やづつ)に戻した。そろそろと茂みに近寄り、勢いよくダイブした。

 ロイがハラハラしながら見ていると、ズギーヤ、ズギーヤと鋭い鳴き声が返ってきた。スカイは何かをはがいじめにしていて、足をばたつかせている。ロイはオリバーにしがみついた。

「オリバー、なんとかして」

「なんとかって言っても」

 オリバーが慌てふためいていると、スカイが茂みから顔を出した。とっ捕まえたのは、オレンジ色の長い毛をまとい、手足ばかりが細長い、恰幅(かっぷく)のいいサルだった。

「何だこいつ?」

 ロイはそのサルを凝視する。サルは怒って歯をむき、今にも噛みつきそうだ。

「分かんないけどこいつ、足、ケガしてるよ」

 スカイはまるで太りすぎた子どもを高い高いするように、サルを高く抱き上げた。右足首に切り傷ができ、真っ赤に化膿している。さらに小さなサルがしがみつき、キーキー鳴く。

「我が子だけは助けてくれ」


 スカイは、目をぱちくりさせた。

「何か言った、オリバー?」

「何も言ってない」

「僕も」

 三人はキツネにつままれたような顔をして、互いを見合う。それから、そのサルを見る。サルは長いまつ毛をしばたき、唇を突きだした。

「お前達は慈悲深い。頼む。子どもだけは……」

「え?」

「喋った。こいつ、喋ったぞ」

 ロイが後ずさりして、サルを指をさす。オリバーはナイフを突きつけた。

「しかもグリフィダ語だ。お前、何者だ」


 サルはスカイに拘束されたまま、震えながら言葉を発する。

「人間は我らをシャベルータンと呼ぶ。我が名はベロニカ。ドンガロンの村で、お前達が人間を埋葬するのを見た。私と同じ言葉を喋っているから、驚いて後をつけた」

「ベロニカだと? それだけか?」

 オリバーは目をむき、ナイフを喉元にぴったりつけた。ベロニカはナイフの刃先に怯えながら、オリバーを見上げる。

「ケガをして、木に登れない。シャベルータンは樹上で暮らす。地上は危険で食べ物もない。だからお前から木の実を奪った」

 ベロニカが白状すると、オリバーは軽く頷き、ナイフを下げた。スカイもベロニカを放した。ベロニカは我が子を抱きあげ、その長い手指で自分の右足をさす。

「我が子、クレメントを養うためだ。許せ」

「わかったよ。ねえ、ロイ。蓬莱(ほうらい)、弾いてあげてよ」

 スカイが言うと、ロイもおっかなびっくり、イーヨを構えた。ベロニカも息子のクレメントもじっとして、その音色に耳を澄ました。やがて化膿した部分は赤色が薄まり、健康な地肌へと回復した。

「ありがとう。礼がしたい」

 ベロニカはロイに手を差しだした。ロイが怖がって身をすくめたので、代わりにオリバーがその手をむんずとつかむ。

「なら、道案内しろ。シャベク林に行きたい」

「ここがもう、シャベク林だ」

 ベロニカが答えると、オリバーはあたりを見回す。

「じゃあ、コクジョウムカデはどこだ」


 オリバーの問いかけに、ベロニカは少し沈黙する。

「あのムカデは別のところにいる」

「どこだ」

「お前達はそのムカデを探しにきたのか」

「ううん、それだけじゃないよ。フォールバナナの蜂蜜が欲しいんだ」

 今度はスカイが答えた。

「『黄金のしずく』か」

 するとベロニカはクレメントを背中に乗せ、てててと木を垂直に登った。それから木から木へと飛び移った。

「ついてきなさい」

 樹上からベロニカが叫んだ。


 その頃、隣国のサンドネシア共和国の首都では、宮殿で元首とその部下達が固まり、命ごいをしていた。

「頼む。命だけは──」

「助けたら我らに利益があるのか」

 蜂人が元首に向かい、残忍な笑みを浮かべる。すでに周囲には死体が山と積まれている。

「わっ、私と手を組めば、もっといいとこの人間を食わせてやろう」

「ほう。どこの?」

「あ、えーと。た、タリブ大陸の……」

「いや。お前らでいい」

 蜂人は元首の頭を食いちぎった。

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