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全滅まであと何日  作者: taki
第三章〜ハラパノ大陸編〜
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59.再会

 オリバーを先頭に、皆は血痕の後を追った。だが、それは途中で途絶えていた。近くに人間の死体も、蜂人の姿もなかった。

「どこだ……」

「分からん」

「なんとなく、あっちの方のような気がするんだけど」

 ロイが指をさした。そこには小高い丘があり、低木が生い茂っている。

「なぜそう思う」

 ピアス男が尋ねる。

「だから、なんとなく」

 実際に、ロイにはそこからわずかな音が聞こえていた。だが、ヤバネスズメバチの大きな重低音とも違い、小さくて軽い音だ。人の声かもしれないが、アリの歩く音かもしれない。

「あの蜂人間は夜も活動するのか」

「するよ」

「なら、夜明けまで待とう。交代で見張りをするんだ」

 ピアス男が言うと、皆は頷いた。


 その頃、巣に帰ったイーディスがドーラに肉団子を献上していた。部下の蜂が二匹とも殺されたことを報告するも、ドーラは意に介さなかった。さらに、肉団子の味が気に入らず、蜂蜜が食べたいと言い出した。イーディスは思わず顔をしかめたが、そういうところがかつて付きしたがっていた主人、大公(たいこう)のようで、少し嬉しくもあった。

「ですが、女王様。出産前に人間の肉で栄養をつけていただかないと」

 ドーラが渋々、食事を再開したので、イーディスは恭しく頭を下げた。


 肉ならこの幼い女王にいくらでもくれてやる。自分は食えなくてもいい、血はすべて飲み干したのだから。不思議だ。今まで人間の肉ばかり食べていたが、血液はさらにいい。体中が充実して、力がみなぎる。世が明けたら、あの人間どもの血をすべて吸い尽くしてやろう。その後はもっと大きい町に行って……。イーディスの心は弾んだ。


 夜明けが近づいた。焚き火の火がくすぶるなか、ちょうど見張り当番だったオリバーが、ピアス男とロイを起こした。

「今日はキャンディビーを巣から出すな。ロイが『アヌミラ人の踊り』を弾くから」

「了解」

 ピアス男は起き上がり、巣の入口を閉めた。

「ロイ。お前はもうイーヨを弾け。奴らがくるかもしれない」

 ロイはそばのイーヨを手に取った。「アヌミラ人の踊り」を弾き出すと、スカイや皆が起き出した。オリバーはヌマグチから拡声器を出し、イーヨの音色を拡大した。やがて、東の空がじわじわ赤くなり、日が昇った。


 ロイのイーヨを聞きながら、皆は警戒を続けた。スカイは近くの草を引っこ抜き、それをエボニーに与え、あたりを見回した。何も出てくる気配がない。スカイはエボニーのたてがみを撫でた。


 なんの前触れもなく、エベスタンの兵士達がいきなり奇声を上げた。スカイが顔を上げた時には、三つの首が宙を舞っていた。そのうちの一つ、ピアス男の首が、スカイの足元にぼとりと落ちた。


 近くの茂みから蜂人のイーディスが茂みから現れた。手にはオリバーの首根っこを掴み、ホバリングしている。オリバーはまだ生きてる。すぐさま助けたいのに、スカイの目はイーディスの姿に引き込まれた。昨日となんだか違う。若い女性の姿に変わりはないが、首が太くなり、肩周りの筋肉が発達している。前足の先端、爪が異様に長く鋭利になり、そこから多量の血が滴っている。よく見たら、両耳に木の棒のようなものを突っ込んでいる。耳を塞ぎ、イーヨの音色をブロックしているのだ。


 スカイは思わず弓を構えた。だが、イーディスはオリバーの体を盾にする。スカイがためらっていると、イーディスはロイと目線を合わせ、超速で石を投げた。すんでのところでスカイが背中で受けた。

「ぐっ」

「スカイ! 大丈夫?」

 石がスカイの背中で跳ね返り、地面に転がり落ちた。スカイはロイをかばいながら倒れ、急いで後ろを振り返る。二十メートルほど先にイーディスがホバリングしている。自分の肩甲骨のあたりを撫でた。指を見ると、鮮血がべっとりついている。鋭い痛みが体を貫き、思わずうめいた。イーディスは残忍な笑みを浮かべてゆっくり飛び、こちらに近づいてくる。


「ルビテナ以来だな、お前ら」

「ロイ! スカイ! 逃げろ」

 オリバーはイーディスの言葉を無視して叫ぶ。

「覚えてるぞ。その不思議な道具で、私は眠らされたんだ」

 イーディスは恨みを込め、なおも喋り続ける。

 草の上で仰向けになったロイは、自分に覆い被さるスカイの頭ごしに、イーディスの醜悪な顔を見た。もうイーヨは効かない。あまりの恐ろしさに足がすくんで、目をつぶった。

「ロイ! 殺られるぞ!」

「この化け物め!」

 スカイはロイをかばいながら後ろを振り向き、矢を構えた。その直後、肩甲骨が猛烈に痛んだ。イーディスはまたしてもオリバーを盾にする。オリバーは暴れて、メガネを地面に振り落とした。

「化け物? それ、前にも言われたな」

 イーディスはほくそ笑む。

「なんの話だ」

 スカイは照準を絞る。背中が痛くて死にそうだ。イーディスはオリバーを目の前に吊るし、高笑いする。


「お前らが我が城に乗り込んだとき。汚い年寄りが近くにいたんだ。その馬と一緒に」

 イーディスはエボニーの方を顎でしゃくった。エボニーは怯えてブルルルと唸る。

「なんだって……」

「銀髪に青い目の、イカれたババア。私に食われるとき、なんて言ったと思う? 私の自慢の孫が、必ずお前達を全滅させるって」

 イーディスは胸に手を当て、声を立てて笑った。おかしくてたまらなかった。現にあの老女は自分に食われた。孫だって? 居るなら出てきてみろ。


 一方、スカイの頭のなかで理性の糸が切れた。それから、アイリーンの顔が目に浮かんだ。その顔がスカイに向かってほほえみかけた。ほほえんだまま、闇に堕ちていった。

「おい、知ってるか」

 スカイの声はかすれた。

「何がだ?」

 イーディスはまだ笑っている。

「お前らが誰かを傷つけるとき。そうやって自分のことも傷つけてる」

「はあ?」

「お前らは仲間がやられても、助けない。食いたいか、食いたくないかしかない。自分で自分を、醜い化け物にしてる」

 イーディスはなおも笑い続けた。だからどうした。説得は効かない。

「お前らはどんなに群れたって。強くなれない。俺達に勝てない」

 スカイはオリバーと目が合った。オリバーはピントの合わない顔をして、それでも首を何度も縦に振る。


 まるで潮が引くように、スカイの背中から痛みが消えた。溶岩のように、全身の血が沸きたつのを感じた。なのに頭だけは変に冷えて、冷静でいられた。笑い続けるイーディスを前に、弓を構えた。

「おい。いいのか。こいつが死んでも──」

 イーディスはオリバーの首を前足でしめる。

「ラコロシュテ・プレレクテ・ピカ。ランダギア」

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