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全滅まであと何日  作者: taki
第三章〜ハラパノ大陸編〜
58/79

58.急襲

 エベスタンの兵士達は奇声を上げた。蜂人のイーディスと二匹のヤバネスズメバチが、茂みから現れた。


 スカイは焦った。手は蜂蜜まみれで、弓を引くに引けない。急いで服で手をぬぐい、背中にかけた弓を手に取った。矢筒から矢をとって、(つる)に矢をつがえて──。決してゆっくり動いてはいない。でもそのうちに、そばにいたエベスタン兵士の頭が消えた。あまりに滑らかな動作でわからなかった。蜂がホバリングしながら、その頭を口にくわえていた。

 スカイは目を見張った。蜂の大顎(おおあご)の力が強い。ルビテナで見た個体群よりもずっと。スカイは再び矢を放ったが、蜂はそれをうまくよけた。


 ほかの兵士達が発砲した。弾丸が、一匹の蜂の羽や足の一部に食い込んだ。だが、蜂は臆せず兵士達に突っ込む。前足で銃身を掴み、それを捻じ曲げた。悲鳴をあげた兵士たち三人を、まとめて掴みあげた。


 スカイは再び弓の弦に矢をつがえ、照準を合わせようとする。だが、捕まった三人が邪魔で額を狙えない。蜂が六本足にグッと力を込めた。三人は耳をつんざくような悲鳴をあげ、全身の骨を砕かれた。スカイは思わず顔をそむけた。


 別の蜂が残りの人間達に襲いかかる。逃げる兵士にロイは突き飛ばされ、イーヨが放り出された。倒れたロイに狙いを定め、蜂がぐんぐん急行する。オリバーはヌマグチを開いた。中のネバグモの子ども達が、一斉に糸を放出した。細い半透明の糸が蜂を覆い、蜂は地に落ちた。母グモよりも粘着糸が細く弱く、蜂を拘束しきれていない。暴れる蜂をピアス男がどうにかねじ伏せ、ナイフであちこちめった刺しにした。間髪を入れず、スカイが弓で射殺した。それからあたりを素早く見回した。


 離れたところにいるイーディスは、応援に駆けつけるどころか、殺した人間達を丸めて肉団子にしている。あくびまでして、のんびりしている。だが、もう一匹の蜂は人間を食うのをやめ、背中の羽を広げた。臨戦態勢だ。スカイはその蜂に狙いを定めるも、自分で思うタイミングよりも早く矢を放してしまう。蜂は軽々と矢をよける。オリバーが放ったネバグモの糸もだ。スカイはじれた。キャンディビーの蜂蜜がぬぐいきれておらず、矢を持つ手が滑るのだ。


 一方、ロイはくじいた足をかばいながら、どうにか左手でイーヨ本体をつかみ取った。それをグッとたぐりよせ、右手で弓を持った。小さな音で演奏を始める。それを見たイーディスは即反応した。片耳を塞ぎ、他方の前足で肉団子をつかむと、ふらつきながら逃亡した。たった一匹、残された蜂は「アヌミラ人の踊り」に気を取られ、そのまま地面にどさりと落ちた。すかさず、スカイが矢で仕留めた。


 日が落ちた。スカイ達はキャンディビーの樽のそばで、焚き火を囲んだ。エベスタンの兵士はピアス男を含め、たった三人になってしまった。ロイがイーヨで蓬莱(ほうらい)を弾き、自分と皆の傷を癒した。スカイはそれを聞きながら、うとうとし出した。

「うわっ」

 ロイはうっかり弓を取り落とした。オリバーのヌマグチから這い出た子グモ達がより集まっている。子グモといっても一匹が猫ほどの大きさがある。

「ロイ、追い払うなよ。そいつら多分、イーヨが好きなんだ」

「ああ……わかってるよ。クモ語はわかんないけど」

 そう言うロイの全身には、びっしり鳥肌が立った。


 そのロイの隣で、ピアス男が疲れた顔をひっさげ、深く息をついた。

「仲間が四人も殺られた。あれがヤバネスズメバチか」

 ピアス男の言葉をロイが通訳すると、スカイは目をこすって頷いた。

「そうだよ。グリフィダにいたやつより顎の力が強い」

 だが、前と違って大群じゃなかった。まだ産卵前だからか。スカイには分からなかった。

「鉄砲はいい武器だが、化け物相手にはこのザマだ。お前らは三人とも射手(いて)か?」

「いや、射手は俺だけだ」

 スカイが短く答える。

「お前ら二人は?」

 ピアス男はオリバーとロイの方を見る。

「俺らは後方支援。だけどこいつのイーヨもすごい。今みたいにみんなを回復させたり、蜂を金縛りにさせる」

 オリバーが真顔で褒めると、ロイは照れながら通訳する。

「不思議な楽器だな。お前は?」

「俺はロイの曲を拡声させたり、糸を投げたり。二人の補佐役だ」

「そうか。だが、旅を続けるなら、お前ら二人も直接的な攻撃ができた方がいい。楽器を取り落としたり、糸が不十分だったりするだろ」

 その指摘に、ロイとオリバーはぐうの音もでない。お互い、薄々思っていたことだ。


「ナイフはどうだ。ナイフは接近戦にもっとも有効な武器だ」

 言われて、オリバーが自前のナイフを取り出して見せた。ピアス男はそれを手に取って見つめる。

「これは実用的ではあるが、戦闘向けではないな。投げナイフといって、もっと軽く小さいものがいい。こういうやつだ」

 そう言って、ピアス男が革製のナイフケースを見せる。刃渡り七センチほどのナイフが数本収まり、オリバーのものより小さい。

「ベカラグアのデルクク村に、ドミニクという男がいる。ジャングリラにも渡るのなら、そいつを訪ねるといい」

「ベカラグアとは?」

 聞きなれない単語に、オリバーが反応する。

「ジャングリラ大陸の小国さ。ドミニクはナイフの鉄人だ」

 ピアス男は誇って笑った。

「ところで明日、予定ならヤバネの女王蜂が成虫になるんだ」

 オリバーが話題を切り替え、深刻な顔になる。

「成虫になると何が変わる」

「卵を産む」

 ピアス男の顔から血の気がひいた。

「どうするんだ」

「きっとこの近くに巣がある。夜のうちに破壊しよう」

 オリバーが立ち上がると、皆も立ち上がった。

「どうやって巣を探すの?」

 スカイが尋ねると、オリバーは鋭い目つきになり、地面の血を指さした。

「血の跡を追えばいい」

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