57.キャンディビーとともに
スカイは取り囲んだ男達を目だけで数えた。一、二、三……。七人か。ロイもオリバーも戦闘は無理だろう。スカイは弓を地面に取り落とし、両手をあげた。
「お前ら、何者だ」
スカイには何を言われているかが分からない。横目でロイを見た。大量のピアスをつけた男が、ロイに近づく。ロイ、ダメだ。相手に触れて、正直に言うな。スカイの第六感が告げていた。この連中は、自分達を殺す。だが、ロイはピアス男の腕に触れた。一方、ピアス男はロイの首に触れた。何か早口でまくし立てる。まずい。締め殺される──。
スカイは血の気が引き、とっさにロイの前に立ちはだかった。
「スカイ。大丈夫だよ」
そう言ったのはロイだ。スカイは目の前にある、ピアス男の怪訝な顔を見てから、真後ろのロイを振り返る。よく見ると彼の手が触れているのはロイの首ではなく、襟巻きだ。
「この人達。あのエベスタン人の仲間だ」
スカイ達はピアス男について、キャンディローズマリーの畑を回った。ロイが隣につき、通訳をする。
「カンチェスタンと名付けられたこの一帯は、もともとエベスタン人の土地だった。だけどゲルニエが戦争を仕掛け、我々から奪った。大切なキャンディローズマリーの畑も、キャンディビーも。土地を追われた我々は東の山岳地帯に逃げた」
スカイやオリバーはロイの通訳に頷く。
「キャンディビーはキャンディローズマリーの蜜だけを集める蜜蜂だ。働き者で、我々人間に多くの恵みをもたらす。生きる糧となる」
「確かに。飛び方がゆっくりだけど、休まず蜜を集めてるね」
スカイはキャンディビーがせっせと花蜜を集めるのを見て微笑む。
「だから我々革命家が、実力行使で取り返す。ここも近い将来、エベスタンに復帰する。ときにお前達はどこから来た。リーダーから聞いているが、その顔立ちと服装。モルグルではないのだろう?」
ロイの通訳を聞き、スカイはピアス男の顔を見上げた。男は真顔でスカイを見下ろす。
「そうだ。俺らはヨルシアの、グリフィダって国から来た。ヤバネスズメバチを全滅させるために」
スカイが勢いよく言うと、ロイが通訳した。ピアス男は頷く。
「そういう巨大蜂がハラパノの東部にも出たと噂は聞いてる。じきにここにも来るかもしれない。どのようにその蜂を仕留めるのか」
スカイはこれまでの経緯を話した。ピアス男は遮ることなく、最後まで真面目に耳を傾けた。
「グリフィダの勇敢な戦士よ。これから蜜をとる。ついてこい」
ロイが通訳すると、スカイとオリバーは男のうしろについていった。
ピアス男は大きな樽が並ぶ場所へと案内した。男が樽をひっくり返すと、中には大きく垂れ下がった巣板がいくつもできていて、巣房には黄金色の蜜がたっぷり詰まっている。働き蜂達が怒ってブンブン飛ぶので、男が陶製の小皿を掲げた。柑橘類の香りが漂うその皿のせいで、蜂は少し大人しくなった。それから男はたらいの上で樽を逆さまにし、ドンと強く叩いた。働き蜂がごっそりたらいに落ちたのを確認してから、ナイフで巣板に切り込みを入れた。
スカイは一連の作業を見た。使う道具は違うし、言葉は分からないが、採蜜の段取りは分かる。黙って巣板を潰すのを手伝った。男は笑顔を浮かべた。
「お前は手際がいい」
ロイが通訳すると、スカイは嬉しくなって笑顔を返す。
「うん。俺、養蜂家なんだ」
「なるほど。お前の国の蜂蜜は美味いか」
「持ってるよ。オリバー、ヌマグチから瑠璃蜜、出してくれ」
オリバーが瑠璃蜜の瓶を男に差し出すと、男はそれに指を突っ込んで舐めた。
「素晴らしい。ふくいくたる香り。爽快な味わいだ。仲間にも食わせてやりたい」
「どうぞ」
エベスタンの兵士達はこぞって瑠璃蜜を舐めた。誰もが歓声をあげ、笑顔を浮かべた。
「いつか平和になったら。俺もグリフィダを訪れたい」
「是非遊びにきて。すごくいい所なんだ。俺の村は──」
突然、重低音が鳴り響いた。あの不吉な羽音が、一気に空気を凍らせた。




