表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全滅まであと何日  作者: taki
第三章〜ハラパノ大陸編〜
56/79

56.旅する理由

 女王蜂のドーラは、地中の巣にこもり、食事をとっていた。

 自分は女帝陛下の子ども。それもとびきり優秀な女王蜂だ。陛下の考えに百パーセント賛同している。人間はいらない。すべて食べ尽くせばいい。だから、早く食べてみたい。

 ドーラには部下が三人にいる。一人だけ蜂人で、残りは蜂だ。蜂人のイーディスはやけに神経質で、人間に気をつけてください、連中を侮ってはいけません、奇妙な音色で動きを封じ込めてきますと、うるさく繰り返す。どうやら羽をへし折られて、しかも再生した羽が小さくて飛びにくくて、機嫌が悪いのだろう。

 人間を狩るとき。蜂のまま、本能のまま突っ込んでも意味はない。ただただ力を使うんじゃない。圧倒的な力を使うのだ。

 ドーラは蜂蜜にまみれたキャンディビーをほおばり、不敵な笑みを浮かべた。


 その頃、スカイ達はヤベスタンを抜け、エベスタン経由で再びゲルニエ連邦のカンチェスタンへと戻った。そこで預かってもらったエボニーを引き取り、再びグリングリン大平原を目指した。

「キャンディローズマリーに近づくとお縄になるとか言ってたね」

 エボニーのわきを走りながら、スカイがオリバーの方を見上げる。

「おお。知ったことではないけどな」

 オリバーはメガネを指で持ちあげ、馬上からスカイを見下ろす。

「ヤバネのこと、説明すれば分かってくれるかな」

「どうだろうな。ハラパノではまだ一度もヤバネの情報を耳にしない。そこが不気味だ」

 オリバーは唇を引き結ぶ。

「ところで気になったんだけど、女王が成虫になるまでもう時間ないよね。グリングリンにいていいの?」

「ああ、俺の計算だと明日がその日だ。グリングリンに待機でいい」

「どうして」

「カミキリンでも、モルグルでも、ここ、カンチェスタンでも住民達に聞いた。どんな蜂蜜よりも、キャンディローズマリーの蜂蜜が最高糖度らしい」

「最高糖度だと何なの」

「本に書いてある通りだ。ヤバネは甘いものに目がない。必ずこの近くに来てるはずだ」

「そんな証拠あるの」

「ない」

 オリバーはきっぱり言った。


「だったら、他に移動したほうが良くない? 首都とか」

「なぜ?」

「人がたくさん集まるところだから」

「人が集まるのが、どうして理由になるんだ」

 オリバーがきつい声で聞き返すので、スカイは面食らった。

「だって。ゲルニエの人達が大勢、死んじゃう。ヨルシアとおんなじことが起きる」

「そんなの俺たちに関係ない」

 オリバーがエボニーの手綱を引き、走るのをとめた。その顔は氷のように冷たい。スカイはロイの方を見た。ロイは目を逸らした。

「じゃあ、なんだよ。蜂が人を食い殺しても、見殺しにするのか」

 スカイはオリバーに目を戻し、声を荒げる。

「ある程度は仕方ない」

「俺は絶対にそんなの許さない」

 スカイが声を張り上げると、草むらの鳥達が一斉に羽ばたいた。オリバーもロイも黙り込んで、スカイを睨みつける。スカイも睨み返した。オリバーはエボニーから降りると、自分より背の低いスカイを見下ろした。ロイもそれにならった。

「なら、聞くけど。なんでロクレンで、俺だけ助けた」

「え……」

「どうしてマデッサで、ロイだけ助けた」

「それは……」


 スカイは口ごもった。確かに他にも、逃げまどう人間達はいた。それも、たくさん。

「世界中の人類を救うつもりでいたのか? たった三人で? バカか、お前は」

「バカじゃない」

「確かにお前の弓はすごい。ロイのイーヨも強力だ。だけど俺は人類を救う勇者になろうなんて思っちゃいない。そんなのは大人達、軍隊がやることだ」

 オリバーの顔を太陽が照らした。オリーブグリーンの瞳が白っぽく見え、その姿がルークと重なった。スカイは泣きそうになったが、すぐに涙を引っ込めた。

「じゃあ……。なんでオリバーは、旅に出ようと思ったんだよ」

 スカイはオリバーの手首を掴んだ。ひどく冷たく感じられた。

「俺は、俺の生きる場所を守ためにきた。それはルビテナ村だ。俺はもうロクレンに帰れない。だからルビテナのために戦ってる。蜂を全滅させるためじゃない」

「僕も」

 ロイが口を挟んだので、ほぼ同時に、スカイもオリバーもロイの方を見る。

「ところでロイ、大丈夫? まだ足、痛い?」

 スカイが心配して尋ねる。

「別に」

「他もケガしたとこある?」

「ない」

「熱でもあるの?」

「うるさいな」

 スカイはロイに話しかけるのをやめた。オリバーの顔も、見たくなかった。二人とも、なんて。なんて、薄情なんだ。自信がないのか。俺みたいに努力してないからだ。ただ俺の後ろにいて、戦いもしないくせに。単なる臆病者じゃないか。俺はヤバネを全滅させる。なんのために生きてるか。ここにいるか。もちろん、全滅させるためだ。この手で。この弓で。他に理由なんてない。二人もそうなんだと思ってた。思ってたのに。


 スカイは大地を駆け出した。グリングリンに向けて駆けているはずなのに、どこに向かっているのか分からなくなった。空は青く明るいはずなのに、次第にその色を失った。それが怖かった。だけど手は空を切り、足は大地を蹴った。そんな自分を傍観するほかなかった。オリバーとロイはエボニーに乗り、スカイの後を追いかけた。


 三人は無事、グリングリン大平原に辿り着いた。スカイは膝に手をついて呼吸した。するとロイがエボニーから降りて、黙って「蓬莱ほうらい」を演奏し始めた。スカイは聞きながら、全身の疲労が溶けてゆくのを感じた。だけど礼は言いたくない。話したくない。口もききたくなかった。

「やっぱりいいな、その曲」

 オリバーがロイを振り返る。

「このへんの雑草までもりもり生えてきたけどな」

 腰のあたりまで伸びた草を睨み、背の低いロイは不機嫌になる。

 ふと、スカイは置いてきた巣籠のことを思い出した。あたりを見回したが、見当たらない。そんなスカイをオリバーが漫然と見やる。

「スカイ。あの籠でキャンディービーを捕まえるつもりだったのか」

「いや、というより──」

「手を挙げろ」

 見知らぬ男達がスカイ達を取り囲み、銃口を向けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ