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全滅まであと何日  作者: taki
第三章〜ハラパノ大陸編〜
54/79

54.取引

 スカイ達はゲルニエ連邦を縦断した。途中、グリングリン大平原を通り、スカイはあちこち見回した。青々しい草がうっそうと生い茂り、夏日を受けて輝いていた。

「ねえ、ここのどこかにキャンディローズマリーが生えてるんでしょ。またここに戻ってくるんだよね?」

 エボニーをゆっくり歩かせるオリバーを見上げ、スカイが尋ねる。

「ああ。六日以内に戻る。だが、原生地の正確な場所が分からん」

 オリバーは馬上からスカイを見下ろし、顎を親指と人差し指で支える。

「ところで、ここらの草は特に葉の色が濃いね」

 オリバーの後ろに乗るロイは、不思議そうに見渡す。

「ちょうどバタバタバッタとおんなじ色だよね。そうだ。ねえ、ヌマグチ貸して」

 スカイは閃いた。オリバーからヌマグチを受け取ると、そこから巣籠(すかご)を取り出した。村を出る前に編んできたもので、中にオオルリミツバチはいない。スカイはそれを地面に置いた。

「どうすんの、それ」

 ロイが不思議そうにそれを見下ろすと、スカイははつらつと笑った。

「ちょっとした仕掛けだよ」


 三人が平原を抜けた直後のことだった。蜂人が一人、その場に飛んできた。平原にポツンと置かれた巣籠をしばらく観察していたが、やがて飛び去った。


 モルグル王国を出て二日後のことだった。スカイ達はゲルニエ連邦内の小国、カンチェスタン共和国に入り、そこから東の国境を越えようとした。が、道路封鎖されていた。ロイが近くの軍人に尋ねると、カンチェスタン共和国と、隣接するエベスタン共和国との間で紛争が勃発したため、民間人の通行は許可できないという。

 ロイが言われたままをオリバーに伝えると、オリバーは腕組みして頭を傾げた。

「うーん。でも、どうしてもアブブ密林に行きたいんだが……」

「蜂をやっつける前にこっちがやっつけられんだろ」

 ロイが軍人の持つ剣をさして怒った。

「ひとまず今日は、近くの宿に泊まろう」

 オリバーが答え、そばの宿屋を訪れた。客室はすべて草原に散らばるテントで、皆は宿主についていき、ドーム型のテントに案内された。壁沿いのベッドにそれぞれ入り、皆は眠りについた。


 深夜になった。スカイとオリバーは寝入っていたが、耳のいいロイは人声で目が覚めた。テントの外で、外国人達が話し合っている。その気だるい、独特な喋り方には聞き覚えがあった。


 ロイはこっそりテントを抜け出した。夜空には半月が浮かび、湿り気のある風が吹いていた。その下で、二人の男達が木箱を指さして口論している。一人は数時間前に見た宿主だ。もう一人は知らない男で、平べったい帽子をかぶっていて、夏だというのに膝まで隠れるコートを着ている。コートに施された金の刺繍が、月に照らされ怪しげに輝いた。ロイはその明かりを頼りに、木箱の中を見た。筒の長い鉄砲だ。宿主は鉄砲を差し出すも、コートの男の持つ札束に文句をつけている。


 ロイは震え上がり、音も立てずにテントに退散した。ベッドの中で待ってたミケールが小さく鳴いた。ロイはミケールを力の限り抱きしめ、布団のなかでガタガタ震えた。


 夜が明け、ロイは二人を叩き起こした。

「おい。なんで起きてくんなかったんだよ。ゆうべ、大変だったんだぞ」

「何が?」

 スカイが目をこすった。

「テントの前で、武器の取引、してたんだ」

「武器?」

「そうだよ。触ってないから何言ってんのか分かんなかったけど、鉄砲の」

「うわー。さすがゲルニエは進んでるな」

 オリバーは感心して目を輝かせる。

「感心してる場合か。俺、もうその後から眠れなくて……。と、トイレ行けなくて……」

「でもさ。人間だろ」

「え?」

 オリバーの白けた言い方に、ロイは素っ頓狂な声を出す。

「蜂ではない」

「まあ、そうだけど……」

「そいつら兵隊か?」

「よく見えなかったけど、そういう感じじゃなかったよ。もっと民兵っぽいっていうか……。平べったい帽子かぶってて、派手な刺繍のロングコート着ててさ」

 ロイに言われて、オリバーは拳でもう一方の手のひらをポンと叩いた。

「多分、エベスタン人だ」

「そうなの? どうしてこんなところに?」

「分からん。でも戦争中なんだ。武器の取引があってもおかしくない」

「そうだけど。ばかに暑そうな格好してた」

「エベスタンは大陸南部の国だけど、高山帯だ。高地はすごく寒いんだ。標高二千メートル以上の地で冬場はマイナス三十度まで下がり──」

「それで、どうするの」

 スカイが解説を遮ると、オリバーは目を輝かせ、メガネの鼻あてを指で上げる。

「いい案がある」


 三人はその夜も同じ宿に泊まることにした。オリバーに言われた通り、ロイは宿主が寝泊まりするテントに出向いた。

「あの、ちょっと困ってることがあって」

 ロイはそわそわして尋ねる。

「どうしました?」

「えーと……、僕らはモルグルから来た者だけど、エベスタンの親戚に会いにきたんです。どうにか行くルートはありませんか」

「そう言われても、お力になれることはありませんネエ」

 宿主は物言いは丁寧だが、目は笑っていない。場合によってはタダじゃ済まさないぞと訴えてるのが分かり、ロイは体を縮めた。

「そうですか。あそこは寒くて、物入りだと手紙で知って。たくさん、セカラウールを持ってきたんですけど」

「セカラウール?」

 宿主の声色ががらりと変わった。目も物欲しそうな目つきになっている。ロイは心のなかでガッツポーズを決めた。

「ええ。もう帰るしかないですよね。それじゃ」

「お待ちを」

 宿主が目を細め、ニヒルに笑った。ロイは何も言わずに見返す。

「ひょっとしたら、お力になれるかもしれませんネエ」


 その晩、三人は宿主とともに同じテントの前で待機した。そこへ、ラバの馬車に乗った男が現れた。暗がりで見ても、ロイはそれが前日の男だと分かった。

「セカラウールを持ってるって?」

「ああ。この客が持ってる。代わりにヤベスタンまで運んでやってくれ」

 宿主が言うと、男は仏頂面でスカイ達を見た。オリバーがヌマグチからずるずるとウールの束を引きずりだすと、男は目を丸くし、それを品定めし始めた。

「後ろに乗りな」


 スカイ達は宿にエボニーを待機させ、エベスタン人の男の馬車に乗り、夜道を駆け抜けた。屈強なラバは力強く登り坂を前進してゆき、スカイは息を飲んだ。どうやらここは軍隊にもマークされていない秘密の抜け道らしい。ときどき、松明を持った人間が立っているが、この男の仲間なのか、行く手を制止されることもなかった。


 やがて朝になり、昼になり、夕方になった。馬車は無事にヤベスタンとの国境まで辿り着いた。

「ここで降りろ。ヤベスタンは暑いし、野生動物は危険だぞ。気をつけな」

「ありがとう。ねえ、帰りも頼みたいんだけど」

 ロイが緊張して言う。

「あんだけウールをもらったんだ。この町に一軒だけ、パブがある。そこの店主にこの襟巻きを見せろ。ゲルニエ連邦まで帰してやるよう、伝えとく」

 男は複雑な絵柄の襟巻きをロイの首に巻くと、来た道を引き返していった。

「いい人だったね」

 ロイの通訳にスカイはにっこり微笑んだが、オリバーは笑わなかった。

「利害が一致しただけさ」

「どういうこと?」

「あの男。多分、テロリストだ」

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