52.競鳥大会
その晩、三人はパブ近くの宿に泊まった。
「グリングリン大平原は遠い。それに、キャンディローズマリーが開花したのが三週間前なんでしょ。だったら、蜂が蜜を溜めるのをもう少し待ってもいいと思う」
パブで得られた情報と、ハラパノ大陸の地図を見て、スカイは顔をぽりぽり掻いた。すると、オリバーが地図の北西部を指さした。
「よし。先にカミキリン王国のセワシ草原へ行こう」
「でも、どうやって行く? エボニーは二人乗りだろ」
ロイが突っ込む。
「オリバー。君が騎手をやってよ」
「え? いや、俺は騎乗はちょっと……」
うろたえるオリバーとは対照的に、スカイははりきってこぶしを前に突き出した。
「俺、もっと鍛えたいから、後ろから走ってく」
「バカか? 五百キロ以上はあるぞ?」
ロイはトルポリとセワシ草原を交互に指さす。が、スカイは意に介さず、白い歯を見せて笑った。
「大丈夫さ。ロイがときどき、俺とエボニーを『蓬莱』で回復して」
翌朝、オリバーは慣れない手つきでエボニーにまたがり、ロイを後ろに乗せ、街を出た。宣言通り、スカイはその後を走って追いかけた。サラブレッドを追いかけるのはかなりキツいが、スカイは弱音を吐かなかった。ガルシアも基礎体力を上げれば弓術が安定すると言っていた。それを実行するときがきたのだ。苦しいが、できないことではない。
あたり一面に広大な草原が広がり、何百種類ものハーブが大地を彩った。向かう先には地平線が見えた。そばをミケールが宙返りしながら飛び、機嫌よく鳴いた。
「すごい。ヨルシアじゃ山ばっかなのに」
雄大な景色に魅せられ、ロイがため息をついた。
「だが、毒草も多いな。注意が必要だ」
オリバーは手綱を握りながら、冷静に草地を観察する。
「見て。野生の馬だよ」
スカイが汗だくになって、後ろから叫んだ。近くで野生の馬達が小川の水を飲んでいる。群れのなかで、仔馬の後ろ足が丈の長い草に絡まり、悪戦苦闘しているのが見えた。スカイは矢を放ち、その草をちぎった。仔馬は嬉々として駆け出した。
二日かけて、スカイ達はカミキリン王国へ入国した。セワシ草原の隅には「競鳥大会」とカミキリン語で書かれた特設入場口が設けられている。スカイ達はエボニーを近くの杭に繋ぎ、係員に近寄った。
「さあさ。こっから先は入場券が必要だよ」
「なんだよ、金取るのか?」
「ガキめらが。ったりめーだろうが」
係員に足元へ唾を吐かれ、スカイは面食らった。
「すごく高い。旅の資金がもたないよ」
「こりゃ、またアレだな」
オリバーがヌマグチをガサガサ漁りだしたので、ロイは嫌な予感がした。
再び女装させられたロイは、係員に話しかけた。
「あのー、わたくし、ジャパロフ様に招待されてお邪魔したんですけど、招待券を紛失してしまって」
ロイはつけまつ毛をバサバサさせた。
「やあ、麗しい方。お供の方達もどうぞ、お進みください」
三人はすんなり入場口を突破した。
「さすがロイお嬢だ」
オリバーが真顔で褒めると、ロイが地団駄を踏んだ。
「もうこれっきりだからね!」
「見て。始まるよ」
スカイはスタート地点を指差した。ロイの聞き込みによると、どうやらスタートした鳥達は数キロ先の旗をくわえ、戻ってくるルールらしい。人間達はどの鳥が一着になるかを予想し、大金を賭けて遊ぶ。オリバーが予想した通り、客の大半は貴族や富裕な商人ばかりだった。
「どうする、どれに賭ける?」
ロイが番号の振られた鳥達を指さすが、スカイは首を横に振った。
「そんなのどうでもいいよ。ジャッキーを探すんだ」
レースが始まった。鳥達が一斉に飛翔し、まっすぐ西へ向かっていく。
「テイオウワシというのは世界最大の巨鳥だろ。ジャッキーはなぜあんなに小さいんだ」
オリバーが尋ねると、スカイは首を傾げる。
「うーん、なんでか分かんないけど、あいつは大きくならないんだ。あー、やっぱりジャッキーはいないな」
スカイは全個体の後ろ姿を見て意気消沈した。
「お前、どんだけ目がいいんだよ」
「ロイだって耳はいいくせに」
「まあね。羽ばたく音で、僕もいないなって思った」
「女王蜂が成虫になるまであと十日。バタバタバッタも探そう。こういう真緑のやつ」
オリバーが図鑑を見せてくるので、ロイもスカイも草むらでバッタを探した。
やがて、周囲がざわめいた。スカイが顔を上げると、空に一羽の鳥が見えた。それはだんだん近づいてくる。くちばしには赤い旗をくわえているそれは、ジャッキーより少し大きいくらいの、小柄なテイオウワシだ。ほかをぶっちぎり、首位でゴールした。歓声が上がる一方、他の鳥のオーナー達はブーブー言い出した。
「またジャパロフ様のだ。いい餌、あげてんだろ」
「噂じゃあバタバタバッタを死ぬほど食わせてるらしいぜ」
「金に物を言わせやがって。負けるはずねえよな」
ロイがそれを聞きつけ、オーナー達の輪に割って入った。
「バタバタバッタはどこにいるんです?」
「どこって……そこらへんだよ」
「でも、見つけられません」
ロイが言うと、彼らはロイの姿を見て失笑した。
「そりゃ、お嬢さんには無理さ。捕まえる側に、よっぽどの動体視力と反射神経がなきゃな」
スカイ達はバッタ探しを諦めた。代わりに、スカイはミケールを見た。ロイの肩にとまり、ゴロゴロ喉を鳴らしている。
「ねえ、ミケールに頼みたいんだけど」
「何を?」
「ちょっと、優勝した鷲と話してきてくれよ」
ロイが言いつけると、ミケールはパタパタと飛んで優勝者のそばへ近づいた。優勝者がピュイピュイ言うと、ミケールはニャゴニャゴ言った。それからロイの元へ戻った。
「そのチビは見たぞ。怪我してたがファミンウードの方へ飛んでったって」
ロイがミケールの言葉を通訳する。
「ファミンウードって?」
スカイが首を傾げると、オリバーが口を挟んだ。
「ファミンウード高地。モルグル王国だよ」




