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全滅まであと何日  作者: taki
第三章〜ハラパノ大陸編〜
51/79

51.港湾都市トルポリ

挿絵(By みてみん)


 よく晴れた空の下、ヨルシア大陸東端の港町、ポルケットを出港した大型帆船は、ハラパノ大陸に向けて航海していた。

「女王蜂が成虫になるまであと三週間。あまり時間がないけど他のアイテムを増やしておきたいんだ」

 海風を顔に受けながら、オリバーが提案した。本人はいつもの紫色のヌマグチだけでなく、(うぐいす)色のヌマグチを肩紐にかけ、虫取り用の網を手にしている。

「どんなの?」

 ロイがイーヨを弾きながら、オリバーの持ち物を不気味がる。そのイーヨは二代目で、楽器屋がルビテナメープルで製作してくれたものだ。

「飲むと動きが速くなる薬と、敵を拘束できる道具」

「そんなものが作れるの」

 スカイは連れてきたジャッキーとミケール、エボニーを優しく撫でる。エボニーはヒヒヒンといなないた。

「ああ」


 スカイ達三人は村を出て、国を出て、大陸を出た。今は船上だ。そこまでして「七薬」の材料が必要なのかと村人達は顔をしかめたが、領主のナッシュビルは賛成してくれた。スカイは本当なら弓の名手、ガルシアにも旅についてきてほしかったが、村を守る役目があるからと断られた。残念だが、同時にほっとしていた。憂いに満ちた故郷にいるより、外界へ出ていたかった。


「オリバーは時計技師じゃなく、発明家なんだね」

 スカイが船のへりに頬杖をつき、下手くそに微笑む。オリバーはその倍は下手くそに、ほんの少しだけ笑う。

「自分にできることをやってるだけだ」

「ロイは音楽家だし。みんなすごいや」

「スカイ、お前こそ職業は何なんだ」

 オリバーはへりに寄りかかる。

「えー? 俺は……。射手で、養蜂家……かな」

「いいや、違う」

 そう言ってロイは今弾いてる曲をやめた。新たに弾き始めた曲は、スカイでも知ってる。

「その曲──」

 そうだ。アイリーンが寝る前によく弾いてくれた、グリフィダの騎士、だ。スカイの高鳴る心に構わず、ロイは勇壮に弾き続ける。

「スカイの職業。『勇者』」


 そこへ、二人の男が近づいた。一人は初老で、酒瓶と骨つきハムを手にしている。もう一人は三十代くらいで、幼い娘を腕に抱いている。

「あんたら、グリフィダ人か」

「ああ」

 オリバーがモルディニア語でそっけなく答える。

「あの、でっけえ蜂が出た国だろ。お前ら、何しでかしたんだが知らねえが、最悪だな」

「とんだウスノロのくせに、蜂の巣でもつついたか」

 男達は蔑みをこめ、苦笑いする。幼女は父親の額を叩いて笑った。オリバーは無表情で男達を見つめる。

「安心しろ。お前らみたいなクズが真っ先に、蜂の餌になる」

「んだと──」


 そのとき、突風が吹いた。帆が風を受けてピンと張り詰め、船体が揺れた。スカイは前方を見た。何かが飛んでくる。二羽の、黒い大きな鳥だ。

「イマワシだ!」

 乗組員の一人が叫んだ。大型で肉食のイマワシは、男の手指を切り裂き、ハムを奪った。再び飛翔し、空中を旋回した。もう一羽の鷲は幼女をさらおうとした。スカイはすぐさま弓を引いた。矢は鷲の横っ腹に命中し、鷲と幼女は船にどさりと落ちた。旋回していた鷲が鋭利な爪をたて、スカイの顔めがけて急降下した。


 ひときわ甲高い鳴き声が響く。ジャッキーがスカイの前で盾になり、鷲の目をつついた。

「ジャッキー、いいから。やめろ!」

 同じ鷲でもジャッキーより体格がいい。なのにジャッキーは果敢に戦い、鷲と揉み合いながら、どこかへ飛んでいってしまった。

「戻れジャッキー!」


 船上の客達はざわめいた。ハムを奪われた男は尻餅をついて失禁し、他方の男は泣き叫ぶ娘を必死でなだめた。矢の刺さった鷲は海に放り捨てられた。スカイは船のへりにつかまり、上空を見上げたまま、言葉を失った。

「……大丈夫だよ。あいつは死んでも戻ってくるって……。その、ミケールとエボニーが言ってる」

 ロイが怯えるミケールを抱き、エボニーを撫でながらつぶやいた。


 それからおよそ一週間かけて、船はハラパノ大陸西部の港湾都市、トルポリに到着した。ハラパノ大陸は沿岸の都市部をのぞき、広大な草原が広がる大陸で、中央には広大なゲルニエ連邦が鎮座する。スカイ達はさっそく、キャンディローズマリーの原生地について聞き込みを始めた。背が高くて肌が浅黒く、黒髪とヒゲ面が多いゲルニエ人達への聞き役は、もちろんロイだ。

「キャンディローズマリー? さあ?」

「知らん」

「蜂蜜ならほかにもっといいのがあるよ。うちの商品だと──」

 大通りで聞き回ったが、知っている者が見つからなかった。というよりは、皆、その話題を避けたがっているようにロイは思えた。


 日が落ちて、オリバーが見つけたパブへ入った。

「子どもがこんなとこ入っちゃダメだよ」

 スカイが非難を込めて言うも、オリバーは取り合わない。

「俺はもう十四で大人だ。おい、親父。ビール三つ」

「ダメだよ、オリバー。お酒は」

「飲んでるふりしろ。こういう所の方が、情報収集できる」

「でも僕、このままじゃ聞けない。対象に触れてないと」

 ロイが困り顔で言うと、オリバーは口をへの字にした。

「スカイはちょっと、待ってろ」

 オリバーはロイの手をひき、店を出ていった。


 少し経って、二人は戻ってきた。が、その姿をスカイは二度見した。まるで豪商のお嬢様だ。優雅な帽子とドレスに身を包み、ヒールの高いロングブーツを履いているのはほかでもない、ロイだ。

「ロイ……? か、可愛いね」

 金髪に青い瞳のロイは人形のように可愛いと、スカイは感激した。

「うるさい! 変な目で見るな!」

「おい、お嬢様。言葉遣いに気をつけろ」

 オリバーに咎められ、ロイは膨れっ面で他のテーブルへ移動した。そこでは荒くれどもが談笑していた。


「こんばんは。ご、ご一緒してもよろしいかしら」

 ロイは精一杯微笑み、手前の巨大なデブ男の袖に触れた。

「ウヒョオ、可愛いお嬢さん。いいよお。おう親父。このお嬢さんにもビール」

 店主がロイの前にビールジョッキを置いた。デブ男に抱き寄せられ、ロイは鳥肌が立った。

「今度の競鳥大会。今年もテイオウワシが優勝候補らしい」

 巨デブがロイに見とれてニヤニヤする。

「キョウチョウ大会って何ですの?」

 ロイは吐き気を我慢して微笑む。

「ご存じないか。カミキリン王国で毎年開催してる、鳥のレースだよ。三連覇してるジャパロフ様が言うには、かなり小さい個体だけど、よく飛ぶテイオウワシを見つけたって話さ」

 ロイが後ろを振り向くと、スカイとオリバーが召使いのふりして立っている。小声で通訳すると、スカイが興奮して身を乗り出し、ロイのブーツを踏んづけた。

「それってどれくらいの大きさ?」

「失礼。私の召使いはゲルニエ語が分からなくて。鳥の体長はいかほど?」

 ロイがスカイの顔面を扇子で引っぱたくと、巨デブは一瞬考えた顔になり、鳥の輪郭を宙で描いてみせた。

「そうさな。(たか)くらいっつってたからこんなもんか」

「ねえ、もしかしたら本当にジャッキーかも」

 スカイが痛む顔をさすりながらオリバーに言うと、オリバーは真顔で頷き、ロイを見た。

「キャンディローズマリーの原生地も聞け」


 ロイが金髪を振り払い、一息ついた。

「ほほほ。つかぬことをお伺いしますが、キャンディローズマリーってご存知?」

 急に、周りがしんと静まり返った。

「へーえ……悪いお嬢さんだ。物騒なこと聞くねえ」

「え?」

「やめときな」

「なぜ?」

「あれの蜂蜜は甘すぎて美味すぎて、やめられない。麻薬と同じ、骨を溶かす悪魔の蜜さ」

「そ、それは物騒ですわね。場所はどちら?」

 ロイが下手くそに笑ってみせると、巨デブの目が怪しく光った。

「グリングリン大平原。気をつけな。役人に見つかったらお縄になるぜ」

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