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全滅まであと何日  作者: taki
第二章〜ヨルシア大陸編〜
47/79

47.全滅まであと何匹

 村の入口、北側にある山道の始点で、ガルシアは討伐隊に話しかけた。

「ここで蜂を十八匹、しとめた。すぐに応援がくるだろう。だが、要所を押さえておければ対応できる」

「要所って?」

 ロイが尋ねる。

「ここは岬だ。山に巣があったとして、村に侵入するにはこの岩間(いわま)を通過する必要がある。幅はおよそ……」

 ガルシアは、岩間を均等な歩幅で歩く。

「十メートルだ。ここに整列して、迎え討つ」

 兵士達はそろって頷く。

「だが、蜂が上空から攻めてくる場合もあるぞ」

 オリバーが口を挟むと、ガルシアは頷く。

「そこでお前らの出番というわけだ。いいか。段取りとしてはこうだ。スカイ、ジャッキーを呼べ」

 スカイが指を口で咥え、指笛(ゆびぶえ)を吹く。ジャッキーが空を旋回し、スカイの肩に舞い降りてくる。

「まず、ジャッキーに見張らせる。ジャッキーが鳴いたらロイ、楽器を弾け。オリバーが例の(つの)で拡声」

「了解」

 ロイとオリバーが頷いた途端、ジャッキーが真上に飛び上がる。皆が見ていると、耳もつんざくような鳴き声をあげた。


 すかさず、ロイは「アヌミラ人の踊り」を弾き出し、オリバーが拡声器を据えた。馬上の兵達がいっせいに弓を構えた。スカイは遠く離れた山林から、黒い集団が飛翔するのを見た。が、飛翔するや否や、それはバタバタと落下した。それを討伐隊が、次々に射殺した。

「ロイのおかげで楽勝だ」

 兵の一人が興奮して叫ぶ。イーヨを弾きながら、ロイ自身もその威力に驚愕する。オリバーも隣で拡声器の先を蜂の方へ向ける。ガルシアは腕を組み、蜂が逃げ戻る位置を注視する。

「三合目あたりだ」

「巣の場所?」

 スカイが尋ねると、ガルシアが重々しく頷く。

「実はさ。おばあちゃんが、知ってるって言うんだ。ルビテナメープルの大木が生えてるところに蜂の巣があるんだって」

 スカイが困惑しながら、一緒に騎乗しているアイリーンを指さす。

「そうよ。あのキラキラ光る木。そのそばよ」

 アイリーンは無邪気にほほえむ。

「うーん。確かにあの大木は三合目あたりに生えてるな。よし、お前ら。巣へ攻め込むぞ」

 ガルシアの声がけに、一同は咆哮(ほうこう)を上げ、拳をつくって天に掲げた。


 ヤバネスズメバチの城内は騒然となった。空気がひりつき、蜂達は次々に出兵した。

「どうした。騒々しい」

 女帝の部屋に控えていたバイオレットが、近くの蜂人に詰問する。そこへ、伝達兵が部屋の壁穴から滑りこむ。

「し、失礼します。出撃したイーディス様達の兵が、壊滅状態です。応援をだしましたが、に、人間達の反撃に遭っています。こちらの被害、およそ千二百」

「千二百?」

 バイオレットは目をむく。群れの規模は総勢六千匹だ。すでに二割が死滅したと?

「どうした。村には侵入できたであろう?」

「いえ、それがっ、でっ、できませんでした。村の入口の、ピンクの植物は枯れていましたが、中心部のものは復活してて。それで、人間の矢に襲われ……」

「何だと」

 バイオレットは鬼の形相で立ち上がる。

「大至急、増援をお願いしたいと、アイリス様が申しています」

「分かった。兵を二千、出せ。城の入口警備を固めろ。アイリスからの報告は絶やすな」

「はっ」

 部下達が部屋を飛びだしていくと、女帝蜂のアグネスがクックッと笑う。

「面白くなってきたな」


 その頃、ルビテナ山の三合目付近では、墜落してきた蜂達を、弓兵達が一匹ずつ殺していた。

「蜂は動けなくなっただけで、少しするとまた動きだす。額を確実に射ろ」ガルシアが命令しながら、ロイにほほえむ。「さすがだ、ロイ」

「僕じゃなくて伯父様がすごいんだけど」

 ロイは鼻の頭をかく。

「しかし、巣の入口が見つからん」

 ガルシアはアイリーンの方を見る。当のアイリーンはルビテナメープルの樹皮をこする。

「ほら、キラキラ光るのよ、この木」

「それで、どこ、おばあちゃん」

 スカイがじれて尋ねる。

「わかんない? ほら、そこよ」

 アイリーンは指をさす。そこは山の斜面がむき出しになっていて、たっぷりした枯れた草が、上から垂れ下がっている。

「何もないよ」

「それ、ただの草だと思う?」

「え」

 スカイは垂れ下がった草をまくりあげる。幾重にも垂れ下がり、さらにスカイはまくり続ける。

「ただの草じゃないわ。蜂の唾液と草で固めた『すだれ』よ」

 スカイがさらに草をまくり上げると、唐突に大穴が現れた。穴の直径は二メートルほどで、どこまで続くのかわからない。

「ヤバネって多分、用心深いのよ。入口のカムフラージュにしてるのね」


 スカイ達、討伐隊は入口に馬とアイリーンを待機させ、すぐさま中へ侵入した。先頭のジャッキーが鳴くや否や、すぐに蜂が飛んできた。ロイがイーヨを弾くよりも早く、皆は弓を引いた。十匹。五十匹。百匹。奥からはとめどなく蜂が出てきた。

「キリがないな」

 スカイは額の汗をぬぐう。

「俺が目視できた限りだが、外で殺した分と合算して現在、千三百七十二匹だ。あ、今ので千三百七十三」

 オリバーが淡々とカウントする。

「よし。このまま進もう」

 ガルシアがハッパをかけた。


 スカイ達にじわじわと穴の奥へと攻め込まれ、ヤバネの軍最高司令官であり蜂人のイザベラは、兵達に命令を下した。

「陛下の部屋に近づけるな。エミリー様の部屋へ誘導しろ」

「しかし、エミリー様も出産直後では……」

 部下の蜂人がためらう。

「よい。エミリー様は産後の肥立ちが良いらしく、逃げる準備も万端だと、大公のおおせだ」


「二千十一。二千十二。二千十三……」

 スカイはオリバーのカウントを聞きながら、弓を引きつづけていた。

 どれくらい地下へと潜ったことだろう。入口からゆるい坂道をずっとくだってきた。この先に女王がいるのか。あと何匹殺せばいいのか。スカイは延々、弓を引いた。だんだん腕が疲れてきた。弓と蜂との間が近すぎて、やりづらかった。それでもロイがイーヨを弾いてくれるから、先頭の蜂達は何かする前に地に落ち、スカイ達はラクラク射殺できた。

「すごいよ、ロイ」

「僕は天才だから」

 ロイは軽口を叩き、演奏を続ける。

 そのすぐ後ろについたオリバーは、拡声器を出すスペースがないため、自前の小さなナイフで蜂を刺殺する。

「そっちの方が、接近戦では有利だな」

 スカイが弓を引きながら、オリバーにも話しかけた。

「そうだな……下手だけど。二千二十九」

 オリバーは微笑した。

 そしていよいよ、一行は地下空間へと突入した。


 スカイは目を見張った。そこは高さと幅がそれぞれ約二百メートル、奥行き約三百メートルの巨大空間だった。天井の小さな穴から光が漏れ、それに照らされて何かが正面奥に見えた。巨大な一枚絵のような、正六角形を()した巣城だ。その城自体もまた、地面から天井までの壁一面をびっしり覆っている。それぞれが小さな六角形で仕切られ、石壁で覆われているが、蜂が出入りできるくらいの穴があけられている。その穴にはスカイが入口で見たのと同じ、「すだれ」がかかっている。討伐隊が追いこんだ一団に加勢するように、各穴から蜂が噴出した。ガルシアは目の前の蜂を射殺しながら、ロイを振りかえった。

「ロイ。オリバー。ここで思いっきり、やれ」

 オリバーは拡声器をヌマグチから素早く取り出した。それをイーヨのそばにあてがうと、ロイは力強く弾いた。


 空間全体に「アヌミラ人の踊り」が鳴り響いた。蜂達はバタバタ落下し、体を震わせた。

「二千九百四十五……二千九百八十一……三千三十六!」

 オリバーは興奮しながらカウントする。

「あと何匹」

 スカイが叫び、弓を引く。

「分からない。でも、巣の規模から察するに半分は()った。……三千百一!」

 オリバーは蜂が固まっているところへ、拡声器を向ける。

「皆殺しだ」

 ガルシアが雄叫びをあげ、兵士たちはいっせいに弓を引く。蜂達は逃げまどいながら、一箇所に固まり、先導する蜂人へ続く。

「奴らが左上方(ひだりじょうほう)へ逃げていくぞ。ゆけ」

 ガルシアが吠え、左上の領域を指差した。


 スカイは弓を肩にかけ、巣城の石壁を登りはじめた。ところどころ滑り、思うように進まなかった。さらに、ときどき蜂が背中に襲いかかってきた。だが、どの個体も空中で動きを止め、落下していった。ふと、下を見た。ロイが休まず演奏し、オリバーが拡声器をあっちこっちに向け、奮闘していた。スカイは壁に目を戻し、全身の力を、十本の手指に集中させた。


 地下での討伐の真っ最中、地上では太陽が燦々(さんさん)と輝いていた。柔らかい風が吹き、ルビテナ山の木々が枝の葉を揺らしていた。ルビテナメープルの大木のそばでは、蜂人のイーディスが目を覚ました。

 身体中が痛い。どうやら羽がすべて折れたらしい。そばには仲間の死骸が転がっている。なぜ自分はここにいるのか。断片的な記憶のなかで、部下が自分をすくいあげたのは覚えている。隣でアイリスが何か怒鳴っていた。だけどまた地面に落ちて……。多分、自分は見限られたのだ。イーディスは悔しさに打ちふるえた。それに、無性に腹が減った。


「お前は美人だね」

 近くで声がする。人間の女が、馬の首やタテガミを撫でている。その黒い馬は人間をじっと見つめ、大人しくしている。

「私は世界一の幸せ者なの。自慢の孫が、蜂殺しに出撃したわ。お前も幸せ?」

 アイリーンがエボニーに笑いかけた。イーディスはその背中をじっと見た。音も立てずに忍び寄り、その両肩に勢いよくつかみかかった。

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― 新着の感想 ―
最新話まで読ませていただきました! ファンタジー的な種族間闘争のような趣がありながら少しパニックホラー的な情景も描かれているのが読んでいる側が凄くドキドキする要素になっていますね。 続き、楽しみにして…
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