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全滅まであと何日  作者: taki
第二章〜ヨルシア大陸編〜
33/79

33.馬上弓術

「図書館? 村の中にあるのか?」

 サムの後ろを歩きながら、オリバーが驚きを隠さず尋ねた。

「うん。神殿の地下が図書館だよ」

 サムが神殿の玄関をくぐり、階段を降りて案内すると、オリバーは目を輝かせる。

「階段下はこんなふうになってたのか。ルビテナ村とは実に文化的だな」

 オリバーはメガネの縁をつかみ、館内全体を見回す。近くの本を一冊手に取り、パラパラめくっては、また別の本を手に取る。

「これは詩の本で。こっちは宗教学の本だ。素晴らしい。王都の図書館みたいだ」

「へえ。俺、王都なんか行ったことない」

 サムは気後れしながらオリバーを見る。

「この村の皆は文字が読めるのだろう。王都に行かずとも、ここで充分事足りるじゃないか」

「ああ、うん。みんな、学校で教わってるから」

「学校?」

 オリバーは顔を上げた。

「うん。でも、今はもう、それどころじゃないけど」

 サムの暗い顔を見て、オリバーはまた紙面に目を戻す。サムはそんなオリバーをそれとなく観察しながら、息を深く吐く。

「君。ルークみたいだな」

「ルークというのは、スカイの兄貴か」

「うん。そうやって、よく本を読んでた。村一番の秀才だった」

「そうか」

 二人の会話は続かない。なんとなく気まずい、重い空気が立ちこめる。

「案内ありがとう。俺はここで調べものをする」

 そう言われて、サムはルークを残し、図書館を出ていった。


 翌朝、ガルシアは軍馬と兵士たちを神殿前に集めた。それから馬の性質を確かめながら、それぞれに馬を割り当てた。

「ヤバネの孵化まであと二十五日だ。今日も気を引き締めていくぞ」

「はい」

 兵士達はいっせいに返事する。

「スカイ、お前にはこのエリート馬をプレゼントしてやろう」

 ガルシアはニヤリとして、スカイを真っ黒な馬の前に連れていく。他の軍馬と同様に繋がれているが、その馬はブルルルと鼻息を荒くし、前掻きをして威嚇する。スカイについてきたジャッキーも羽をばたつかせ、威嚇しかえす。

「うわ。なんだよ、この馬。落ち着けよ」

「おい、スカイ。喧嘩すんじゃない」

「してないよ。こいつが、勝手に」

 スカイは怒って馬を指さす。

「お前は女の扱いが分かってないな。来い、エボニー」

 エボニーと呼ばれた黒い馬は、ガルシアには大人しく従い、頭を下げる。ガルシアは優しく首やたてがみを撫で、頬ずりまでしてみせる。

「こいつ、メスなの?」

「メスだからって甘く見るなよ。間違いなく、こいつがこの中のボスだ。賢く、プライドが高く、ヘタレには絶対に従わない。上手く乗りこなせるようになってから、馬上弓術(ばじょうきゅうじゅつ)の訓練だ」


 最初は散々だった。馬なんて簡単に乗れると思っていたのに、エボニーは背中に乗せてくれるどころか、近づきもさせてくれなかった。何度も足蹴りを喰らわせ、スカイはものの一時間でアザだらけになった。


「おい。スカイが死にそうだ」

 ロイがすっ飛んでいき、図書館で本を読み漁るオリバーに声をかけた。が、オリバーは特に興味も示さず、一瞥(いちべつ)しただけだ。

「あいつはタフな奴だ。大丈夫だろ」

「一時間、馬に蹴られ続けたんだ。二時間経ったら『確実な死』だ。わかる? 確実な死。助けてやってよ」

「俺は馬車の操縦はできる。だが騎乗は無理だ」


 オリバーがそっけないので、ロイはしぶしぶ図書館の階段を上り、神殿を出た。それからスカイ達がいる方へ向かった。エボニーの正面に立ち、深く息を吐いた。

「エボニー」

 ロイが名前を呼ぶと、エボニーは耳をぴくりと動かし、静かになった。スカイが驚いて見ている前で、ロイはさらにエボニーとの距離を詰めた。エボニーは前掻きもせず、鼻息も荒げず、それを静観した。ロイはそれから、エボニーの首の付け根にそっと触れた。


「何やってんの、ロイ」

 スカイが思わず声をかけると、ロイは人差し指を顔の前に立てる。

「シー。大声出すな。お前もエボニーを撫でろ。優しくだぞ」

 ロイがヒソヒソ声で伝えると、スカイはおっかなびっくり近づき、そっと撫でる。

「よし、今だ」

 ロイがエボニーの背中を指さす。スカイは手綱を手に取り、近くの樽に乗る。それからくらに手を伸ばし、勢いよく(またが)った。エボニーは暴れることなく、スカイがちゃんと乗り終わるまで待った。

「すごい、できたよロイ。ありがとう」

「分かったな。コツは目を逸らさずゆっくり近づく。優しく撫でてから乗る」

「うん」


 スカイが見事、エボニーに乗りこなす様子を見て、周りの兵士達は歓声をあげた。ガルシアは遠巻きに見て、大笑いしながら手を叩いた。

「よし。じゃあ、弓を持って訓練するぞ」


 そこからがなかなか大変だった。馬上弓術は端的に言えば、馬に乗りながら弓を引くことだ。が、地上で引くのとはわけが違う。スカイは必死でガルシアの真似をしようとするも、そもそも手綱から手を離した状態で乗り続けることができない。弓を引くには両手が要るのだ。まずはエボニーがゆっくり歩いてる状態で、手放しで乗るバランス感覚を養うことにした。エボニーは当初の気性の荒さはどこへやら、すっかり協力的になった。スカイが振り落とされそうになると、勝手にスピードを落とし、チラチラと振り返り、様子を伺った。

「エボニー、ありがとう。大丈夫だよ」

 スカイは練習を続けた。少しずつ、少しずつ、手放しで乗れるようになった。スカイはエボニーを信頼した。エボニーもスカイを信頼した。


 ものの三十分で、スカイは手放しでエボニーを乗りこなせるようになった。もともと身体能力が高かったとはいえ、スカイはエボニーと呼吸を合わせ、高くジャンプしたり、急な進路変更をしたりと、なんでもチャレンジしてみせた。気分が高揚してきたので、弓を構えて乗ってみた。意外なことに、これは難なく射ることができた。最初に二十メートル。続いて五十メートル。最終的に百メートルの距離を取り、矢を放った。百メートルはさすがに届かず、矢が手前で落っこちた。

「その調子だ。今の勢いで『レクシア』、やってみろ」

 ガルシアが吠えた。


 スカイはエボニーに乗ったまま、的から離れたところから助走をつけた。スカイは発射する直前、その瞬間、瞬間を一つずつ、丁寧にコマ送りした。

 まずは目を閉じる。自分自身と周囲が溶け合い、渾然一体となる情景をイメージする。太陽の輝き、風のそよぎ、鳥の鳴き声、大地の息吹。それらに耳を澄ませ、匂いをかぎ取り、肌で感じた。豊かな温かみ、その揺らぎを感じた。それができたら、弓の存在を己に取り込む。ルビテナメープルの弓からは、軋んだ音だけでなく、どこか陽気で楽しそうな気配が感じられる。今にも弾け飛びたいと、うずうずしているような感じだ。

「ラコロシュテ・プレレクテ・ピカ」スカイは瞬きをやめた。体温の上昇とともに、弦を力強く引き絞った。「レクシア」

 スカイが叫んだ。指を離した瞬間、光の速さで矢は的の真ん中を突き刺した。


 図書館から出てきたオリバーは、スカイの様子を見て拍手した。スカイはエボニーを縦横無尽に走らせ、弓を続けざまに引いた。周りの兵士達も続いたが、スカイのスピードと正確さには誰もついていけなかった。

「すごいな。スカイの騎馬、全然問題ないじゃんか」

 オリバーが感心して尋ねた。ロイは洗濯物を取り込みながら、白けた調子で目を細めた。

「まあな」

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