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全滅まであと何日  作者: taki
第二章〜ヨルシア大陸編〜
31/79

31.国の情勢

《あらすじ》

ルビテナ村を襲った殺人蜂、ヤバネスズメバチの卵が孵るまで、残り一ヶ月となった。スカイは弓のエキスパート、ポアロン族の奥義を極めるため修行に励む。ロイは竪琴「イーヨ」を使い、スピリトーゴ男爵の助力を得て、人や蜂に特殊効果を与える練習を積む。一方、オリバーは弓やイーヨの効果を増幅させるため、さまざまな道具や薬を作り出す。三人はヨルシア大陸を駆けめぐり、ヤバネとの決戦準備を整えるとともに、巣のありかを突き止めていく。

挿絵(By みてみん)

《ヨルシア大陸の地図》


 それから三日にあけず、グリフィダ有数の大都市マデッサと、ロクレンを含む周辺都市がヤバネスズメバチに襲撃されたニュースは、国中に広がった。およそ数十キロ間隔で蜂が街を襲い、国土を東へ進行していることから、東部に住む人間達のパニックぶりは特にひどかった。周辺国にもそのニュースは伝わり、一層の緊張が高まった。ルビテナに駐在する国防軍の一部隊も、王都防衛のため引きあげるよう、命令が下った。


 一方、ヤバネスズメバチの蜂人(ぼうと)であり女帝蜂のアグネスは、相変わらず部下を従え、地下室のベッドで寝転がっていた。

「大公の使いから連絡が届いたわ。他エリアの人間もなかなか美味、ですって」

 アグネスが赤毛を振りはらって高笑いすると、エミリーも笑い返した。

「マコトニケッコウデゴザイマスネ、ヘイカ」

 アグネスは女王蜂ではなく、女帝蜂だ。単純に一個の群れを率いるのではなく、複数の群れを束ねるために生まれてきた。これから女王をたくさん生み、彼女達を世界中に旅立たせ、群れをつくらせる。そうやってもう一度、蜂人の世界を創世するのだ。人間は一匹残らず、すべて食べつくす。その後は蜜蜂でも養殖させて、食糧にすればいい。

「全滅させるのが楽しみよ」


 ルビテナ村のガルシアの自宅前では、ガルシアと国防軍の隊長および副隊長、隊員、それに一部の村人が寄りあつまっていた。

「はん。こんな小さな村ひとつ守れない部隊が、国王陛下をお守りするとは、へそが茶を沸かすわ」

 ガルシアが皮肉たっぷりに笑うと、隊長の逆鱗に触れた。

「無礼者が。斬るぞ」

「おやめくだされ、隊長」隊長よりも年配の副隊長がいさめた。「ご存知ないか。このお方はあの伝説のガルシア弓騎連隊(きゅうきれんたい)を牽引した、ガルシア元少佐ですぞ」

 言われて、隊長は目をむいた。過去に隣国、モルディニア共和国で紛争が起きたとき、グリフィダ国境付近にもそれが飛び火した。その暴動をたった一日で鎮圧させたのがガルシア弓騎連隊だった。

ガルシアはせせら笑ったが、唐突に隊長の襟首をつかんだ。二メートル近い長身のガルシアに宙吊りにされ、隊長は足をバタつかせた。

「おい、隊長、耳の穴かっぽじってよく聞け」ガルシアが目を細めて(すご)む。「お前、言ったよな。俺の留守中も完璧な警護をするって。警護ってのは日が出てるうちだけするもんか?」

「えっ、いやっ、はひっ」

「お前らの怠慢で二人、死んだ」

「わ、わ、分かった。悪かった。せ、責任を取らせてくれ。兵を三分の一、置いていこう。そ、そうだ、墓石用にいい石屋を呼んで……」

 ガルシアは襟首に力を込め、思いきり地面に叩きつける。隊長は顔面を強打し、鼻と歯がへし折れた。

「それと馬車二台と馬十頭。武器を置いて、とっとと失せろ」

 隊長は副隊長にかつがれ、隊員を連れると、逃げるように村を出ていった。


 だが、実際には三分の一どころか、十分の一しか残らなかった。さらに、三百人はいた作業人夫も、大半がルビテナ村を去ることになった。結局、村の生き残り二十九人とを合わせ、村の総人口は百二十人にとどまった。


「あいつら。スカイやアイリーンまで化け物呼ばわりしやがって。ふざけんな」

 ガルシアの隣に立つサムが、去っていく者たちの後ろ姿を見てうち震えていると、残った者が寄りあつまった。

「おい。俺らは残るぞ」

「俺もお前らについていく」

「俺もここがいい。どうせこのご時世、どこ行ったって蜂が出るんだろ。なら、食いっぱぐれねえ(とこ)がいい」

 皆は口々に言い、頷きあう。

「人間が蜂に食われていい理由なんてない。俺はあの射手(いて)の少年を信じたいと思う」

 四十代の作業人夫、ルイスは静かに言って、スカイの方を指さす。スカイは隣の弓場(ゆば)で、弓を引いている。タン、タンとリズムよく的を射続ける姿に、ルイスはしばし見とれる。スカイの顔に表情がないのだけが、不気味に感じられた。

「だが、説明してくれ。なぜあの少年の兄が怪物だったのか。どういうことなのか、納得させてほしい」

 すると、スカイが弓を引くのをやめた。すたすたと歩いて皆の前に立つと、ルークの遺書をつらつらと読みはじめた。


 午後になり、ガルシアはスカイと十人の兵を連れて馬に乗り、村中を探索した。村のどこかに、ヤバネスズメバチの巣がないかを確かめるためだ。巣は見つからず、その後は弓の訓練に入った。

「目標物はこの丸太。ヤバネと違って動かないし、足場も安定しているから簡単だな? まずは射撃五百本」


 日が暮れて、村人と作業人夫、兵士達は神殿内へ入った。テントでは危険だからというナッシュビルの判断だ。図書館の読書スペースも使い、国から支給された寝具を置いて寝床にした。一方、ガルシアとスカイ、オリバー、ロイ、それにアイリーンは、神殿の庭に残った。アイリーンは神殿の壁にもたれかかり、小さな声で歌ったり、一人でくすくすと笑っていた。

「ねえ、あの人……」

 ロイがアイリーンの方を見て、スカイに尋ねる。

「俺のおばあちゃんだよ」スカイが弓をもてあそび、表情のない声で言う。「気が触れてしまったんだ」

 ロイはアイリーンに同情し、イーヨを手に取った。それから立ちあがり、アイリーンに近づいた。アイリーンは異国の竪琴を不思議そうに見て、にっこり笑った。

「なあに、それ」

「イーヨだよ。弾いてみる?」

 アイリーンが首を横に振ったので、ロイはおもむろに弾き始めた。みるみるうちにアイリーンは表情を曇らせ、そっぽを向いた。それからまた、一人でおしゃべりを始めた。


 ロイが少ししょんぼりして弾きつづけていると、オリバーがガルシアの方に向きなおった。

「巣は見つかったのか」

「まだだ。村にはそれらしいものはなかった。明日は山を探す」

 ガルシアは首をぐるりと回す。

「巣と村の距離は。蜂の行動時間帯は」

「分からん」

「どうやって対策するつもりだ」

「そのために弓騎兵を組織した。十二人だが、今の人口を考えれば悪くない数字だ。しろがね蜜もまだあるから、ひとまず襲われる心配はない」

「その蜜の効果は村人に聞いた。でも、いつまで()つんだ? この村は見たところ、三方を海に囲まれた岬だ。蜜がなくなってから山側から一気に攻められたら、一巻の終わりだ」

 痛いところをつく。だが、軍隊と違って、ここに人的余裕はない。

「もっと、念入りに準備すべきだ。時間は限られてる」

 オリバーが淡々とした口調で、なおも言いつづけるので、ガルシアは目を釣りあげた。

「ほう。たとえば?」

「それは、俺も考えてる」

「考えなしなのは、お前も同じじゃねえか。子どものくせに、ガタガタ抜かすな」


 ガルシアは懐中時計を投げつけ、神殿の中へ入っていった。オリバーは表情を変えず、黙って懐中時計を拾いあげた。

「俺、ルビテナに来る途中で思った。弓は確かに強い。だけど、蜂の数が多すぎる」

「うん」

 スカイもそれは認めた。

「もっと効率の良い撃退方法があると思う。スカイとガルシアさんと兵隊全部で十二人だろ。蜂が十二匹ならそれでもいいけど、まず、ありえない」

「うん」

 スカイはロクレンの町の上空で見た光景を思い出した。少なくとも二、三百匹はいた。こんなとき、コクジョウムカデの神経毒が大量にあればいいのに。でも、あれを捕まえてきたところで、どうやって毒だけ取りだすのだ。持ち主のスペンサーはいない。頼りになるモーガンもだ。

「このままボヤボヤしていたら危険だ」

 オリバーが言うと、学校の校舎を取りかこむネムレタスをじっと見た。

「スカイ。ホットンの住民に、こいつを植えろって言ってたよな」

「うん。これが生えてると蜂が眠くなるんだ」

「卵が孵化するまで残り三十日だ。このレタス、もっとないのか」

「多分、ここにあるだけだと思う」

「なら、もっと栽培しよう。葉が枯れてるのが多いし、きっとこいつが武器になる」

 オリバーはピンクの葉が一部、茶色く変色しているところを指差す。

「うん。明日の朝、農家の人に声かけるよ」


 スカイとオリバーは話しあいながら、神殿へ入っていった。ロイはそれを見届けた後、ネムレタスの枯葉を見おろした。イーヨを構え、弓を引いた。美しい調べとともに、枯葉が震えた。それからみるみる赤みを増し、健康的なピンクの葉に戻った。元々枯れていなかった部分も、以前より艶が増し、生き生きとしだした。

「お見事」

 アイリーンがロイにほほえみ、小さく拍手した。

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