5 村はずれのボロ家
村長は、ラウルと一緒にアリーチェを村はずれへ案内してくれた。小さな石造りの家がある。
が、何年も人が住んでいないのか、ぼろぼろだ。
「ここを、好きに使うがよい」
「……あの、とてもありがたいのですが。えーと、ボロ小屋と砂と岩の塊ですよね?」
「そうじゃ。ボロ小屋と岩の塊じゃ。耕して畑にせい」
「ここをですか!? 私が!?」
いったい何ヶ月かかるだろう。
ミッキー村長は、すげなく言った。
「嫌なら野ざらしでもいいのじゃが」
「ううっ……十分です……!」
「よいか。聖女であってもなくても、そなたは一人の人間。自分の足で立つのじゃ」
そうして村長は去った。ウチでしばらく飯くらいはご馳走してやると言い残して。
「はあ……そりゃあそうだ」
悔しいけれど、アリーチェは妙に納得してしまった。
自分の足で立つ。
そんなこと、できるのだろうか?
今まで、誰かのためにだけ生きてきた。今更、生き方を変えるなんて、自分にできるのだろうか。
ふと、畑を見ると、あちらこちらから雑草が生えていた。もしこれを、自分の力できれいにして、何かを生み出せたらーー。
アリーチェの胸に、これまで感じたことのなかった期待が、初めて芽生えた。
もしも、もしもそんなことが本当にできたら。
それはものすごく、楽しいことなのではないだろうか?
王城や聖堂や、旦那や姑は関係ない。誰にも縛られずに、何にも気兼ねしないで、一心不乱に畑を耕したら?
一体何ができるだろう。
アリーチェは少しさびた鍬と鋤、雨ざらしになっていたスコップを見た。
そう、自分の足で立って、暮らしを創るのだ。
「よし! やってやろうじゃないの!」
アリーチェはスコップを振り上げた。
ザク、ザク、ザク! ザク、ザ……。
五回土にさしたところで、古いスコップはポッキリと折れた。
心も折れそうになる。
半べそをかいたアリーチェの背後に、気配がした。
「貸して」
「ひゃっ!?」
振り向くと、やたらと背が高く、無駄にイケメンな青年が立っていた。
ラウルだ。白シャツに日焼けした腕、凛々しい顔つきが頼もしい。
「じいちゃんもムチャ言うよな」
そう言いつつ、ラウルはアリーチェの三倍の大きさの岩を片手で持ち上げ、ポイッと投げた。
「これ使えよ」
と、ラウルは何かを手渡した。
「新しいシャベル!」
「ちょうど昨日打ったんだ。やるよ」
「いいの? ありがとう。打ったって、もしかしてあなたが作ったの?」
「ああ。父ちゃんみたいにはまだ、うまくできないけど」
ラウルは少しばかり恥ずかしそうに笑ってみせた。
そうして、ラウルは畑をふかふかにするのを手伝ってくれた。
石はまだあるし、一部だけだが、希望が見えてきた。
作業の間、アリーチェはラウルに感心しっぱなしだった。
なんてよく動く若者なんだろう。
優しい。
しかも顔がいい。
彼ともう少し、自然に仲良くなるにはどうすればいいのだろう。
「ふう。にしても、……腹が減らないか」
ひとしきり土を耕した頃、ラウルが言った。確かに、王都を出てから何も食べていない。そろそろ昼時だ。
「隣にレンガの家があるだろ? あれ、俺の家だよ。父ちゃんが待ってる。一緒に来いよ、アリーチェ」




