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大きなキュウリを作りましょう  作者: 丹空 舞


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19/20

19 予感

次回完結です!

魔女は瞠目した。


「あら? あなた……本当に聖女だったの? 前に見たときはちんちくりんだったのに。妖精の加護を受けたのね。ふーん、なるほどぉ……」


アンドレアは、アリーチェの周りをぐるぐる回る。

獲物の匂いを嗅ぎつけた肉食動物のようだ。


「良い物を食べていたのね。美味しそうな匂いがプンプンするわあ」


アリーチェは思い出した。


聖女は人ならざるモノに好かれる。

カマキリも、鳥も、植物も、妖精も、あるいは魔女も。


部屋の隅で、布団にくるまった王子がわめいた。


「おい、ふざけるな。早くそいつに命令して俺を解放させろ! なんのための聖女だ! 俺は王族だぞ! さもないとどうなるか」


「おだまり」


アンドレアは指をついと滑らせた。

電撃が飛ぶ。


「ぐあああっ」


王子が腕をおさえる。

ポーリーヌが怒りの声をあげた。


「ちょっと! なんてことをなさるのです!」

「人間の小娘は黙ってなさい」


アンドレアは冷たく見返した。

王子は腕をおさえつつも、突然現れた味方に気をよくしていた。


「そこの女、よく分かっているじゃないか。もう誰でもいい、早く魔女をやっつけてしまえ。この国から追放しろ!」


どこまでも偉そうな男だ。

状況が分かっているのだろうか。

アリーチェが怒りをおぼえたとき、ポーリーヌはすでに王子の前に立ちはだかっていた。


なんだか嫌な予感がする。

アリーチェは双子に指示した。

「シェロ、マーレ。いい? ちょっとだけ、自分たちで少し耳を塞いでいなさいね」

「え、なんで?」

「いいから」

「おとなのじじょうってやつ?」

「まあ、そうよ」

「きょーいくがくてきによくない、ってやつ?」

「たぶんね」


シェロとマーレが小さな手をそっと耳に当てたのと同時、ポーリーヌは魔女に向かって大声で叫んだ。


「すぐに痛みを与えては勿体ないでしょう!」


魔女は、アンドレアは、端正な顔に驚きを浮かべた。

アリーチェは頭を抱えた。

先ほどの自分の判断が正しかった。

これは『参考にしないほうがいい大人』で間違いない。


「生意気で、考えなしで、世間知らずで生意気な貴族の王子なんて逸材を! あなたは何だと思っているんです! こんな天才的なバカ王子なんて、今時どこを探したって見当たりませんよ! こういう悪人を調教していく美学というものが」


「ポーリーヌさん。ちょっとだまっててくれます?」



アリーチェはポーリーヌの腕をつかんでずるずると後退させた。


もう、話がややこしくなるので部屋の外にいてほしい。



「さて、とにかくこのまま帰すわけにはいかないわ」

「私にどうしろと?」

アリーチェは、ポーリーヌを背中の後ろに押し込んだ。


「どうもこうもないわ、私はおもちゃを壊されるのがいやなだけよ。くだらないゲームでも最後までやらなくてはね」


 ポーリーヌは王子を見ながら、おもちゃを見せられた猫のようにそわそわうずうずしている。


「早く魔女を追放しろ!」

 

 アンドレアは興味をなくしたように、王子に麻痺の魔法をかける。電撃が飛び、また王子が苦悶の叫びをあげた。学ばない男だ。


「さあ、これが終わりの始まりね。これで王族の後継者はいなくなり、国は勝手に滅びるってわけ。案外つまらなかったわ」


魔女が片手を振り上げた。

黒い塊が手の中に湧き上がり、玉のようになる。

見るからにマズイ。

アリーチェは、飛び出しそうになるポーリーヌをぎゅうぎゅうと押さえた。


「さあ、終わりよ!」


魔女が球を投げる。

天蓋ベッドでもがいている王子に向かって飛んでいく。


そのとき、何かが王子の前に飛び出した。

アリーチェは叫んだ。


「ラウル!」


黒い球は胸元を直撃し、ラウルはその場にばったりと倒れた。


「ラウルッ!」


アリーチェは駆け寄った。


「ラウル! だめよ、ラウル、しっかりして!」


涙もそのままに、必死でラウルの頭をかき抱くアリーチェを、王子は寝台に横たわりながら冷ややかに見つめた。


「はあ、当然だろう。いちいち騒ぐな。俺はこの国の王太子だぞ? 守るのは国民の役目だ」


王子のその言葉に、いよいよアリーチェの我慢の糸が切れた。


「バカッ! ラウルは価値がある人なのよ! あんたなんかとは違うの!」


「はあ? 俺は王族だぞ」


「だから何よ! 何の役にも立ってないくせに! ラウルは愛されてるの! 双子にも、ラウルの家族にも、近所の人たちにも、私にも! あんたは誰のために、何のために動いてるっているのよ。いっつも自分のためじゃない! 王族が何よ、ラウルがいなくなって当然なら、こんな国滅んでしまったらいい!」


「そんな男、国にはたくさんいる。王族は俺一人だ」


「バカッ! バカバカッ! あんたなんかに分からないわ。ラウルみたいな人は世界中を探したって一人もいないわよ! 私の一番愛しい人をこんなにして、あんたも、この魔女も、絶対に許さない!」


そのとき、アリーチェの腕の中で目を閉じていたラウルに変化があった。

体がやけに熱っぽい。


「ラウル? ラウル、聞こえる?」

「……ああ」

「よかった! 意識が戻ったのね」

「……と、いうか、ごめんアリーチェ。言い出せなくて」

「え?」

「ずっと、意識はあった。なんというか、その……魔法、たぶん全然、効いていないんだ。もうだめだと思って目を閉じたんだけど、全く痛くないし」

「え、え、えっ!?」


ラウルが目を開く。

視線を逸らしながら、照れくさそうに言う。


「あのさ、愛しい人って……」

「わああああああ!? えっ? ラウル、どこから」

「いや、だからごめん、最初から……」

「ぎゃあああぁぁぁ!」


アンドレアは、首をひねった。


「この男……人間よね? どうして魔法がきかないのかしら?」

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