表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大きなキュウリを作りましょう  作者: 丹空 舞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/20

14 スローライフっていいな

そんなこととは露も知らず、アリーチェはヴァル・ドルナの村で満ち足りて暮らしていた。


「これだけでごちそうだわ……」


畑から収穫したばかりの小さなトマトを、アリーチェはかごにいれた。


あれから、妖精たちはアリーチェの傍にいることを気に入ったようだ。

加護を受けた土や野菜は驚くほど甘く、みずみずしく育った。

しかも驚くべきことに、妖精が居着くのは土や畑だけではなかったのだ。


台所のぐらついていた椅子がしっかりしたかと思えば、剥げてがたついた戸棚が、いつの間にか艶のある木製に変わっていた。


雨漏りしていた屋根から水が落ちてこなくなり、白く美しい外壁に塗り変わった。


ボロくて固くて薄かった椅子の座面には、いつの間にか柔らかな張りが出て、布地も少し上質になった。


ひび割れた窓ガラスは、いつの間にか透明度を増して新品同様に変化した。


木製のきしむ古いベッドは、背の高い丈夫な寝台になった。


話を聞いたラウルは感心した。

「まるで魔法だな! やっぱりアリーチェは聖女だったんだ」

「私、何もしてないんだけど」

「いや、それでいいんだよ。聖女は人ならざる者に愛される。その力を借りるのが、聖女の魔法なんだ」


なんだかよく分からないけれど、良い暮らしを与えてもらっているのは分かる。


アリーチェの心には自然と、妖精たちへの感謝が生まれていた。


そして、昼になれば、食卓には素朴だけれど、美しい食事が並ぶ。


焼き魚、豆の煮込み、平たいパン。

そして色とりどりのピクルス。

ピクルスはアリーチェのお手製だ。


妖精の加護があるとはいっても、畑の整備や家の整備にはまだまだ時間がかかりそうだ。その話をしたら、ラウルの父が昼ご飯に呼んでくれるようになったのだ。


これがまた美味しい。


「すっぱ!」

「でも、あまい!」

「おかわりくだしゃい!」


3人の子どもたちも大はしゃぎで手を伸ばす。

「よしよし。たくさんお食べ」

義父は満足そうに頷いて、子どもたちの頭を順番に撫でる。


「いつもありがとうございます」

「いやいや。野菜をたくさんもらっているからね」


村長のミッキーも、ピクルスを囓りながら言う。

「さすが聖女の加護じゃ。わしらもありがたくいただいとるよ。ほれ、このキュウリなんて最高じゃ」


褒められて、アリーチェの頬はピンクに染まった。

小さなことを認められるというのがこんなにも嬉しいものだとは。


今度はトマトも酢漬けにして、持ってこよう。

そう思っていた矢先だった。



どんどん、と木のドアを、誰かが叩いた。

ノックなんていう可愛いものではない。

すぐに野太い声が響く。




「おい! ここにアリーチェという女はいるか!」



答える間もなく、招かざる客はドアを破るように開けて、強引に入ってきた。



「なんなんですか、あなたがたは」



ラウルの父が静かに言う。

体格が良いので、迫力が違う。

ラウルがさりげなく前に立ち、背中側に子どもたちとアリーチェを隠した。


ルーラが不安そうに、アリーチェの左腕にしがみついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ