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 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 アロンド大陸は機械文明が進んでいるが、特に東部は機械の発明が盛んな土地柄だ。それだけ優秀な技術者がいるということなのだが、この数百年は大きな進歩はしていないようだ。


 航空艇の港があるという都市セルディアに向かった俺たちだったが、そこでまたあの騒がしい男に出遭った。


「はぁぁぁ……。あいつはストーカーなのでしょうか」

「いや、ストーカーはこんなに目立たないだろう」


 俺たちが向かったサミエル航空艇旅客商会は、旅客用の航空艇を運行する会社だ。このセルディアでもかなり大手で、最も速い航空艇を所有していると聞いてやって来たのだが……。


「このワシを誰だと思っておるのか!」


 この商人風の小太りの男とは、チャコル・ベルフェスのホテルのエントランスと客船に乗る時に会っている。

 俺たちが会いたくて会っているわけではないが、なぜか俺たちの行く先々に現れる。

 パルの言うようにストーカーならもっとこっそりついて来ると思うし、違う大陸にまでやって来るだろうか。


「早くトーマを出さんか!」

「先ほどから申しあげておりますが、トーマ様は外出中です。ご用がおありであれば、お待ちいただくか出直していただきたいと申しております」


 トーマが誰かは知らないが、居ないと言っているのに出せと言われても係の人も困るだろう。


「さっさと呼んで来い。ワシを待たせるな!」


 話にならないな。それはどうでもいいのだが、俺たちは航空艇のチケットを購入したいのだ。あの男が受付で陣取っていては、チケットが購入できない。


「ぶっ飛ばしましょうか」

「いや、大丈夫のようだぞ」


 俺がパルを止める必要もなく、男は吹き飛んだ。


「いい飛び蹴りですが、甘いですね」


 男は横から凄い勢いで走ってきたスマートな男に、飛び蹴りを食らわされて吹き飛んだのだ。


「ああ、ちゃんと急所は外していたな」


 意識して急所は外した感じを受けた。


「なななな何をする!?」

「何をするではないよ、兄者!」

「「兄者!?」」


 騒いでいた小太りの男は兄で、飛び蹴りをしたスマートな男は弟らしい。驚いてさすがの俺もパルも声を出してしまった。


「トーマッ!?」

「なんで兄者がいるんだ。二度とうちの扉は通ることは許さんと親父が言っていただろ!」

「その親父が死んだんだ。ワシは嫡子としてこのサミエル航空艇旅客商会を継がなければいけないだろ!」

「兄者はもう嫡子ではない! 勘当されて廃嫡になっただろ」


 廃嫡と聞くと今世の俺とダブるが、俺はあのように誰彼構わず食いつくような浅慮な奴ではない。


「うるさい! 親父が死んだ以上、ワシが家を継ぐのが当たり前だ! トーマ、お前がワシから盗んだものを返せ!」

「飲む打つ買うで莫大な借金をして逃げ出した兄者が何を言うか!?」


 借金して逃げて家族に迷惑をかけたわけか。どうしようもない奴だな。

 それに勘当されているなら、家の相続権はないだろう。それを言っても騒ぐなら、遠慮なくぶちのめして放り出せばいい。


「この男を放り出してきてください。今後は警備員が力ずくで対処するように」

「「「はい」」」

「おい、離せっ。ワシを誰だと思っているのだ。おい、聞いているのか!?」


 無能な兄弟というのは、性質が悪い。


「皆さま、ご迷惑をおかけいたしました。もう大丈夫です」


 面白い見世物だったから構わないが、あの男は絶対またやって来ると思う。その時にどういう対処するのか見てみたいような、どうでもいいような。




 無事にチケットを購入した俺たちは、街中の高級ホテルにチェックインした。

 時間があるからゲッソへの土産でも用意するか。収納から紙の束とペンを取り出した。


「何をされるのですか?」

「ゲッソへの土産だ」

「坊ちゃまが土産なんか用意する必要はないですよ。あいつが坊ちゃまへの恩を返す時なのですから」


 恩というほどの恩はないと思うんだけどな……。


「坊ちゃまのおかげであいつは名工などとか匠とか言われるようになったのです。坊ちゃまに返しきれないほどの恩があるのです」

「そう言うなよ。その分、ゲッソは俺のために色々働いてくれたんだから」


 紙に土産をスラスラと描いていく。

 一枚では足りないから、二枚、三枚と描き連ねていく。次第に記載済みの紙が増えていく。




 航空艇で東部に向かう日になった。まだ土産は描き終わってない。7割といったところか。航空艇で移動している間に描き終えるだろう。

 港に入ると物々しい警備だ。どうした?


「何があったんだ?」


 通行止めをしている兵士に聞いてみる。もちろん、金を握らせる。これで口が軽くなるだろう。


「サミエル航空艇旅客商会のトーマ商会長が殺されたんだ」


 なんか犯人の顔が脳裏に浮かんで来た。多分、不肖の兄だろう。

 簡単に想像できるだけに、犯人逮捕は早いんじゃないか。


「がははは。トーマが死んだ以上、このワシがサミエル航空艇旅客商会の商会長だ。お前たち、何をしているんだ。早くワシの肩を揉まんか」


 あれれ? あいつ、のうのうとしているな。犯人じゃないのか?


「威張っているけど、あいつ誰にも相手にされてませんよ」

「言ってやるな。勘当の意味を知らない無能なんだから」


 勘当されたらその家とは関わり合いがない。法的に赤の他人なのだ。だからトーマという弟が死んだとしても、家の財産を継承できるわけではない。通常は他の親族が家を継ぐか、親族がいなかったら国や領主に財産を没収されることもある。

 どう足掻いてもあの男に財産が渡ることはないのだ。もちろんだが、これは法的手続きをしていた場合だな。


「サミエル航空艇旅客商会の航空艇を予約していたんだが、運航するのか?」


 殺人事件は俺になんの関係もない。俺は俺の目的を優先だ。


「しばらくは無理だな。チケットは払い戻ししてもらえ」


 ちっ。どこのどいつだよ、俺の邪魔をする奴は。許さんぞ!


「坊ちゃまどうしますか。他の航空艇にしますか」

「そうだな……いや、俺の邪魔をした奴を野放しにしたままでは気が済まない」

「そう言うと思いました。チケットは換金してきます」


 さて、いったい誰がトーマを殺したのか。

 あの兄がここで威張り散らしていることから、犯人ではない可能性はある。普通、犯人はどこか後ろめたさを抱えているものだが、あいつにはそれがない。しかしあいつが直接、間接問わず殺した可能性は捨てきれない。


 次に他の親族の可能性もあるだろう。どれだけの親族がいるか知らないが、財産めあての犯罪は決して少なくない。


 他には仕事関係者の可能性もある。あのトーマがどういう経営者なのか分からないことには、部下か取引先なのか判断はつかないが。


 最後に私怨だ。私怨で多いのは女性関係か。他にもトーマに恨みを持っている者がいるかもしれない。


 可能性があり過ぎて今は絞り込むことができない。


「なあ、トーマはどうやって殺されたんだ?」


 先程の兵士に声をかける。


「剣で切られたそうだ」

「切られたか……刺されたわけではないんだな?」

「ああ、左肩から右の脇腹へかけて大きく切られていたぞ。かなりの腕前の奴がやったと思われる」


 そうなるとそれなりの腕を持ったものだから、あの兄ではないな。あいつはとても剣で人を殺せるような奴ではない。動きを見れば剣を使えるかくらいは分かる。ただし、殺させた可能性は残るが。


 トーマの周囲で剣を使うのは警備員くらいなものか。親族と私的なところは不明だが。


「坊ちゃま、返金をしてきました」

「ご苦労さん」

「それで何か分かりましたか?」

「さっぱりだ」


 そもそもトーマの周囲の状況が分からないからな。


「手分けして情報を集めよう」

「分かりました」


 俺は従業員を中心に、パルは私的なところを中心に聞き取りを行った。

 宿屋で合流した俺たちは、聞き込んだ情報を報告し合った。


「従業員のほうは大した情報はないな。トーマは品行方正で従業員から恨まれるような奴ではなかったようだ」

「私のほうは収穫ありましたよ」

「どんな情報だ?」

「妹の夫が借金に苦しんでいるそうです。他の親族は特にありません。あと交友関係ですが、お金の貸し借りはなく恨みを買っているようなこともないようです」

「妹の夫か」


 探ってみる価値はありそうだが、借金をしているだけでは動機として弱いんだよな。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』をよろしくです。


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