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026_暗殺者

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 026_暗殺者

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 薬草を庭の畑に移植して数日。

 毎日朝一番に魔力を含んだ水をあげているせいか、どの薬草も良い感じに育っている。いや、育ちが良すぎる気がする。

 とても青々して、まだ暗いのにキラキラ輝いている? グレイスのおかげだと思う。


「坊ちゃま。あの石鹸がもうありません。作ってください」

「パルは来る人来る人にあげすぎだよ。それじゃあ、すぐになくなるのは当然じゃないか」

「女性にとって髪と肌の張りは、まさに命綱です。少しくらいはいいではないですか」

「オレは石鹸を売る気はないんだよ」

「薬草も良い感じに育っていますし、販売すれば良いと思いますよ」

「これはパルのために作ったんだからね」

「とても嬉しいことです。もっと作ってください」


 まったく、困った奴だ。


「もし石鹸を作るのが面倒であれば、誰かに作らせましょう。販売すれば、誰かに作らせても元は取れます」


 細かい面倒はソルデリクとアルテミスがしてくれているけど、オレが毎朝グレイス水をやっている。

 それは大した労力ではないけど、石鹸か……。


 ・

 ・

 ・


 さらに数日がすぎて、国王との謁見の日も決まった。

 そして、朝起きていつものように剣を振ろうと屋敷を出ようとしたら、ソルデリクが耳打ちしてきた。


「今はどこに?」

「倉庫の中に」

「分かった」


 倉庫に向かうと、6人の黒づくめの人たちが縛られていた。

 とうとう公爵家が、暗殺者を送ってきたようだ。


 オレがレッドドラゴンを討伐し、さらに勲章ももらうと聞いて、危機感を感じたんだと思う。

 問題は継母か父親、どちらがこの暗殺者を送ってきたのか。これに関してはいずれ分かると思うけど、本当にあの人たちは予想通りの行動をしてくれるね。


 だけど、継母たちはオレがソルデリクやアルテミス、そして5体のリッチを使役していることはアールデック公爵家の者は知らない。

 この屋敷はソルデリクたちによって日夜警備されているので、どんな暗殺者が送られてきても屋敷への侵入を許すことはない。

 もっとも、オレのそばには常にパルがいるので、ソルデリクたちの警戒網を掻い潜ってきたとしても、オレに暗殺者の凶刃が届くことはないだろう。

 でも、それは自分自身の強さではないので、努力は怠っていけないと思う。


「サイ様。こいつらは何も喋りませんのです」


 アルテミスが1人の暗殺者の髪を鷲掴みにし、フォークで顔に傷をつけ、その傷に塩を塗った。

 笑顔の美少女が拷問する光景は、なかなか引くものがある。

 しかし、塩を塗られても声を出さないのか。なかなか気概のある暗殺者のようだ。


「アルテミスはもういいよ。屋敷でソルデリクの手伝いをしてて」

「はいなのです」


 アルテミスがパタパタと走っていく。これだけ見ると可愛らしい少女だけど、倉庫内を見ると酷い有り様である。

 6人は両手と両足の腱が切られていて、拷問の痕がありありと分かる状態。

 それに、口の中も暗器や毒を仕込んでないか、しっかりと確認したようだ。


「お前たちにオレの暗殺を命じた者の名前を教えてほしい。と言っても教えてくれないよな」


 6人が鋭い視線でオレを睨んでくる。


「まあいい」


 ―――アナライズ。


 糸のような魔力の帯が、6人の暗殺者を包み込む。

 アナライズはよくあるスキルの鑑定とは違って、発動時にどうしても魔力のエフェクトが発生する。

 これは、鑑定では分からないような、その対象の全ての情報を得るために発生している。

 だから、秘密裏に発動させることはできない反面、対象の生きてきた歴史を見ることができる。膨大で圧倒的な情報量を得られるのだ。


「サージュ、ベック、ドライロス、アマン、エスト、ジュール」


 この暗殺者たちの名前。


「リーダーはサージュで、裏ギルドの闇夜のカラス(ナイトクロウ)に所属する暗殺者たちか」

「ちっ、鑑定か」


 明るい金髪をした40過ぎの男が、吐き捨てるように言った。こいつが6人のリーダーであるサージュ。

 暗殺者は5人が男で、1人が女。

 女はアマンという名前でまだ20歳だ。そんな若さで暗殺者になるなんてと思うけど、彼女のやってきたことは、口では言い表せないほど酷い。


「鑑定ではないよ。サージュ」

「ふん、名前が分かったところで、何も変わらん」

「そうかな? サージュは帝国のスラム出身で、11歳の時に初めて人を殺した。その後、まさに転落人生だな。兄貴分のマッシュと共に悪さをしていた」


 サージュの目が見開かれていく。

 鑑定ではこういった情報は得られないからな。


「マッシュは帝国で掴まって処刑され、サージュは命からがら王国へ逃げ延びた。ナイトクロウに入ったのは18歳の時で、厳しい訓練を積んで21歳の時に暗殺者としてデビュー。それ以降、おっ、バッカス伯爵暗殺もサージュの仕業なんだ。なかなか優秀な暗殺者だね」

「貴様……何者だ?」

「オレ? オレは単なる駆け出し治療師だよ」

「ふざけるな!」

「ふざけていないよ。フフフ。それに、6人のおかげで色々と分かったよ」

「なんだと……?」

「ナイトクロウの拠点がこの王都に5カ所もあるんだね。ククク。面白くなってきたよ」

「な、何を……」


 何をするのかって? そんなことは、分かり切っている。

 拠点を制圧して、父親か継母か、それとも別の人がオレの暗殺を依頼したのかを確認するんだよ。

 楽しくなってきたぞー!


 

――― ――― ――― ――― ―――

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