血の繋がりー6
金色が返事をできずに戸惑っていると今度はオンスが話しかけてきた。
「俺達の命はどうなってもいい……と言いたい所だが、どのみち俺達はもう死ぬ。それだけのダメージを受けているし、禁術の代償で魂すら消えてなくなる」
金色はこの時点でようやく彼等の異様なまでの奮闘の仕組みを知った。続けてオンスは金色に懇願した。
「あんたは、俺達の命を救ってくれた。一緒に飯を囲んだ時のあんたの楽しそうな表情に嘘はなかった筈だ。あの子に対しても……敵意まではなかった筈」
そこでオンスは自嘲気味に笑った。
「まあ、そんな事を今更言い出すなら最初から喧嘩を仕掛けるなって話なんだがな。……虫のいい話だとは思う。だが、俺達の命に免じてあの子の命だけは見逃してやってくれないか。あの子には……俺達の、俺達一族の未來がかかっているんだ」
「………………」
だが、懇願する彼等に金色は非情な言葉を浴びせかける。
「断る」
「「……………!!」」
思わぬ言葉を受け固まる二人に金色は更に言葉を重ねる。
「赤子の命だけは救ってくれだと? そこまでして救いたいのなら、自らの力で立って守ってみせろ。他人の良心になどすがるな」
そう言い放つと、金色の体から魔力、いや、生命力が解き放たれ彼等に降り注いだ。金色の放った回復魔法は、傷付きボロボロになった彼等の傷を完全に癒す所まではいかないが、確かに彼等に立ち上がるだけの生命力を取り戻させていた。
絶句して反応出来ないでいるオンスとメリヤに金色は声をかけた。
「禁術、と言ったな」
「「………………」」
「おとぎ話とばかり思っていたが魔術というやつが本当に存在しているとはな……。だが、私の知る限り悪魔の契約はまず覆される事はない」
それは彼等の逃れ得ない死と魂の消滅を意味していた。オンスとメリヤはただじっと黙って己の末路を受け入れようとしていた。
「だが、いいのか? そのままこいつらの命と魂を回収して」
「「!?」」
金色の予想外の言葉に反応して二人が顔を上げた。金色は二人に、というより二人の後ろに控えている何者かに語りかけているようだ。
「本来悪魔の力というのは絶大で、だからこそその代償も大きく契約も滞りなく履行されるものだ。だが……」
ここで金色は挑戦的に自らを誇示するように顎をしゃくった。
「標的である私はこの通りピンピンしているぞ。手傷もろくに負っていない。おまけに自滅しかけていた契約者に塩まで送られる始末。これで、悪魔の力を貸したと本当に言えるか? むしろ恥を晒す事になりかねんのではないか?」
二人は金色のこの突然の行動に驚き、ついていけていない。だが、二人の背後の何者かは確かに金色の言葉に耳を傾けていたようだ。
「私だったら、契約そのものを初めから無かった事にするなあ。悪魔の誇りと矮小な人間二人の命と魂。どちらを取るか、比べるまでもないと思うがな」
そう暫くの間見えない何かと睨みあっていたが、やがて二人を取り巻いていた異様な雰囲気が消え去るとほぅ、と息を吐いた。
悪魔が消え去って初めて二人は金色のした行動の意味に気付いた。金色は二人の命を救ったばかりか、悪魔との契約からも解き放ったのだ。
目を丸くして金色を見詰める二人に金色はごほんと咳をして言った。
「単なる気紛れだ。お前達に近付いたのも、戦ったのも、助けたのもな」
「「………………」」
そうして二人の返事を待つ事もなく、金色は去っていった。
冒険者達と金色が出会った事に意味はあったのか。良かったのか、悪かったのか。それは誰にも分からない。だが、両者の出会いが互いに確かな変化をもたらした事だけは間違えようもない事実だった。




