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129.十六夜の手入れ

翌日、葵が念入りに十六夜の手入れをする。

十六夜の刀身の輝きは鈍っていて、いつもの幽玄な強さを感じられなかった。


「悪いね、葵。何日も面倒な手入れをさせて、疲れてないかい?」


十六夜が申し訳なさそうに呟いた。


「大丈夫、これが私の役目だもん。それに、昨日はあの後ゆっくり眠れたから」


葵の方も、かなり弱っていた霞の手入れで魔力や気力を使い、疲れは溜まっていたものの、一日ゆっくり休んだことで回復していた。


「そうかい。それならよかった」 

「うん、だから心配しないで。それよりも……いざちゃんも……。痛かったよね、体」

「……ここ数日はね」


十六夜は静かに答えた。

動けないほどではないが、足も重く、時々体に違和感は感じていた。それが霞の元に行くための全力疾走でさらに悪化していたのだ。


「無理しすぎだよ……これじゃあ出せる力、半分くらいでしょ?」

「まぁね、自分の遅さに辟易したよ」


淡々と答えると十六夜。それが余計に葵は苦しかった。


「……ごめんね。私がもっと早くに来てたら、二人に苦しい思いさせずにすんだのに」


葵は手を止めて、瞳を揺らす。自分がちゃんと一緒にいてさえいれば、二人がここまで傷つがなくてよかった。罪悪感にひどく苛まれていた。


「まったく……気にしすぎだ。今、こうして手入れしてくれるだけで十分さ」

「いざちゃん……。わかった、すぐにピカピカの万全にするから」


葵は強く頷き、手入れを再開する。

十六夜は痛みや怠さがみるみる取れていくのを感じていた。


「でも、すごいね。いざちゃんの主人」

「何がだい?」


気持ちよさからどこか脱力した返事をする十六夜。


「だって、いざちゃんが隠してたのに気づいてたんだもん」

「……ま、一応私の主人だからね。それくらいは」

「素直じゃないね、いざちゃんは」


十六夜のその言葉は、主人のことを信頼しているのだとすぐに分かる。十六夜がそんな風に主人のことを思っていることが少し可笑しく、同時に嬉しかった。


「ほんと、二人ともいい主人に会えてよかった……」


葵は、霞達の前の主人のことを思い出していた。

今思い出しても、沸々と怒りが湧き上がってくる。使命とはいえ、どんなに酷い扱いを受けていても従うしかない、そんなみんなのことが見ていられなかった。

だが、自分が何かを言えば、みんなに余計に迷惑がかかり、最悪の場合……


「なんか言ったかい?」

「何でもない。さーて、もう少しで終わるからね」


葵は明るい声で気合いを入れ直して、仕上げにかかるのだった。


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