幕間.おかわり
それから数時間後、ナギの部屋には出汁のいい香りが広がり始めていた。
「もうすぐできるからね、霞」
「はい。ふふっ、とっても楽しみです」
霞は鼻歌でも歌いそうなほどに声を弾ませ、せっせと机の上を拭き、夕ご飯の準備を手伝っていた。
テキパキといつも通りに動く霞を見て、ナギは安心して小さく笑った。
「本当に霞が元気そうでよかった」
「もう絶好調です。これからは葵ちゃんがいてくれるので、すごく心強いです」
体に何か異常があれば、相談してすぐに手入れしてくれる葵。その存在がいるだけで、霞は心からの安心をしていた。
「だからって、無理な戦いはしたらダメだからね」
「わかっています」
ナギに釘を刺されて、霞は強く頷いた。
「ですが、それはナギも一緒です。ナギは自分のことを顧みずに無茶しすぎるところがありますから」
「あはは……ごめんごめん」
ナギが苦笑いを浮かべる。サツキからもよく言われていたので、思い当たる節はたくさんあった。
「ナギが無茶しないように、これから、私ももっと強くなりますからね」
「うん、私も。一緒に鍛錬頑張ろうね」
「はい!」
お互いに支え合うことを決意し微笑み合うのだった。
「よーし、できたよ」
湯気が立ち上る丼がテーブルへと運ばれる。
「わー………」
ホワホワと出汁の染みた油揚げののったきつねうどん。霞はまるで子供のように目を輝かせていた。
「さ、食べよ食べよ」
「で、ではいただきます」
待ちきれない霞は、お箸で麺を持ち上げふうふうと息をかけて、冷ましながら一口。たちまちに霞の笑顔はさらに綻んだ。
「やっぱりナギのお料理は美味しいです」
「そんなに褒められると、照れちゃうなぁ」
ナギは褒められて、気恥ずかしそうに頬を掻いた。霞はその間も手を止めることなく食べ続ける。
ナギは、十六夜の言葉を思い出しながら目を細めてその様子を見ていた。
霞は現世に来る前から食べることに興味津々だった。それなのに、前に現世に来た時は主人に碌に食べさせてもらえなかったことを聞いて心を痛めていた。
「はむ……はむ……」
目の前の霞はいままでの冷静な顔を崩して、無心で楽しそうにきつねうどんを食べている。ナギは隠しきれない霞の笑顔を見るのが好きだった。
「今日は、遠慮せずおかわりしてね」
「ほ、本当にいいんですか?」
「うん。霞が元気になったお祝いだもん」
「……では、お言葉に甘えて」
霞はそういうと、つゆを一気に飲み干して小さく息を吐く。すると、照れくさそうにもじもじと、それでも丼を両手で抱えて、はっきりと言った。
「おかわりを……ください!」
ナギは、丼を受け取り2杯目を入れてあげた。
霞の辛い過去を聞いて、ナギは改めて思った。
(霞には、これからも笑っていて欲しいな)
自分は霞に何もしてあげられていないとずっと思っていた。だが、いつも通りただ一緒に過ごす時間が霞にとっては何よりも幸せだったのだ。
「2杯も1日にいただけるなんて……本当にいいんでしょうか」
「普段も別におかわりしていいんだよ」
「いえ、そういうわけには……」
二人の楽しい日々は、もう少しだけ続いていくのだった。




