124.その日の夜
その日の夜、料理当番の十六夜は夕ご飯の支度をしていた。だんだんと美味しそうな香りが部屋に漂い始める。
サツキはというと、ナギと電話で話していて、時折部屋には楽しそうな笑い声が響く。
「でね、その時……」
ナギと別れて部屋に戻ってからサツキはずっと電話をしていた。サツキはナギが落ち込まないようになるべく話をして気を紛らわせてあげようとしていたのだ。
「うん、わかった。それじゃあ明日ねー!」
サツキは、軽快に電話を切った。
「ナギの方は、大丈夫そうかい?」
「うん、まだちょっと暗いけど、安心はしてるみたい。それに、さっきの十六夜の言葉のおかげでね」
「そう。ならよかったよ」
十六夜は鍋を覗きながら小さく微笑んだ。そんな十六夜を見て、サツキは少し悲しそうに目を伏せる。
「ねぇ、十六夜……」
「なんだい?」
十六夜は料理をしながら返事をした。
「……十六夜の前の主人は、どんな人だったの?」
十六夜は手を止めてサツキの方へと視線を移す。
「どうしたんだい急に」
「いや、だって……葵ちゃんが言ってたから。主人になる人間はみんな道具としか思ってないって。だから……その」
十六夜は小さなため息をつき、あまり好きでもない前の主人のことを思い出していた。
「別に……。他の子達に比べれば私の方は大したことないよ。ただ色欲に溺れてるろくでなしだっただけさ」
♢♢♢
「金は多少はくれてやるから、どっか行ってなさい。ほらどいたどいた」
十六夜の方には目もくれずに、ハエでも追い払うかのように手をひらひらとさせた。
♢♢♢
「……ごめん」
「なんでサツキが謝ってるんだい?」
「いや、だって一応同じ人間だし、なんとなく」
サツキが申し訳なさそうな顔をしているのを見て、十六夜は思わず吹き出してしまった。
「まったく、面白い子だね」
十六夜は目線をそらして、冷蔵庫の方へと向きを変えた。
「ま、安心しな。今の生活は、前より退屈はしてないよ」
「……そっか、それならよかった」
十六夜の垣間見えた本音に、サツキは安心して表情を崩す。
ぐぅぅぅ〜
サツキのお腹が情けないほどに大きな音を立てた。
「十六夜、今日は色々あったからもうお腹すいちゃったよ。昼ごはんも食べてないし……」
「はいはい。もうできてる」
「やった!」
呆れ半分に言いながら、おかずをよそう十六夜。サツキは炊飯器からご飯を盛り付けて、食卓へと運んだ。
十六夜特製の野菜を炒めた何か。作っている十六夜にも料理名はわからないが、味のバランスは最高でサツキも気に入っているメニューの一つだ。
「いっただきまーす」
サツキは、勢いよく炒め物を口に運ぶ。口の中に広がる香ばしさとキャベツの食感が舌を喜ばせる。
「これ、ほんと最高。あとはちゃんとレシピさえわかればね」
「美味しいならなんでもいいだろ」
「それもそうだね」
十六夜は現世の世界に来る前の練習の時に学んだ、味の組み合わせの元料理を作っているため、どの食材とかではなく見た目と食べてみての感覚だけで作っているため明確なレシピはない。
「明日は、ナギの家に遊びに行ってくるね。ナギが落ち込んじゃうといけないから」
「わかった。私は、葵のとこに行って様子を見てくる」
二人は夕飯を食べながら明日の予定を話す。互いに今できることをやるという気持ちが一致している。
「……それとさ、霞ちゃんが元気になったらちゃんと十六夜も手入れしてもらうんだよ?」
「またそれかい? 葵がいるんだから、心配しなくても見てもらうから安心しな」
揶揄うように言うことで、サツキに無駄な心配をかけないようにした。
「わかってるならよろしい。怪我をすると大変なんだから、体は大事にしないと」
サツキはさらりとそういうと、ご飯をしっかりと噛みしめる。
「はいはい」
十六夜は適当にあしらいながらも、口元は自然と弧を描いていた。
十六夜は、前に現世に来てからは人間なんてほとんどがくだらない生き物だと思っていた。今回また現世に来ることになった時も、主人に適当に合わせてもののけを倒しさえすればなんでもいいと思っていた。
だが、主人になったサツキは十六夜にとって面白くてしょうがなかった。一つ一つの行動に予想がつかない、いちいち行動が大袈裟。前の主人とは全然違い、興味を持った。
それに、何よりも。
ー「……ごめん」
「だって、同じ人間だし」
道具ではなく、共に戦う仲間として見てくれている。十六夜はその優しさが本当は少しだけ、嬉しかった。
「頭を使わない割には、色々考えたりするんだね」
「はぁ!? 人が本当に心配してあげてるのに」
「あはは。悪かった悪かった」
「もぉー」
サツキはキャベツのおかずを次々に口へと運ぶ。怒っているように見せようとしていたが、美味しい味に自然と笑顔になってしまった。
「単純だね、本当」
「う、うるさい」
サツキは頬を赤くしながらまたご飯を口へと運んでいくのだった。




