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107.治す力

その日の夜、ナギとサツキは霞の話を聞くために道場に集まった。


「サツキ、遅い時間にごめんね」

「ううん、私も気になってたから」


サツキが軽く首を振り、微笑んで見せる。ナギから聞いてから霞の不調はサツキも心配していた。それに、もしかすると十六夜も同じように不調を隠しているかもしれないとサツキは考えていた。

ちらりと壁にもたれて立っている十六夜はいつもよりどこか真剣な面持ちだった。


「私の話のために、二人とも遅い時間にすみません」


膝を抱えて座る二人に、霞はいつものように礼儀正しく一礼をする。


「何から話したらいいのか……」


霞は戸惑って十六夜の方へと助けを請うように視線を向ける。十六夜はため息をついて口を開いた。


「まずはあんたの今の体調を話したらいいだろ」

「そ、そうですね」


霞は、じっと心配そうに見つめるナギとサツキの方を向き話を始めた。


「……薄々わかってはいると思いますが、今私は体の調子がよくありません」

「……うん。いつから?」


ナギの静かな問いかけに、霞は申し訳なさそうに目線をそらしながらポツリと呟いた。


「十六夜がきてくれた頃から少し……。魔力の量が落ちていたり、回復が遅くなっているとは感じていました。本格的に悪くなってきたのは、徒花と戦った後から」

「そんなに前から……」


ナギは全然気づいてあげられなかった自分が情けなくて、膝を抱える力が強くなった。


「はい……。痛む時は、この応急処置用の薬を塗って」


袂から薬を取り出して、中身を見せる。十六夜はその減っている量を見て目を大きく見開いた。


(あれからもうこんなに使ったのかい、この子は)


その減っている量は、尋常ではない。あくまで応急処置用の薬。それでも霞はこれに頼らざるを得なかった。


「ですが、なかなか体の不調はよくならず。今は力も全然入らなくて」


霞は目を細めて、両手を弱々しく見つめる。


「霞……」


ナギは買い物の時の霞の様子から、ある程度弱っていることはわかっていたが、改めて言葉にされると胸がぎゅっと苦しくなった。


「ねぇ、ちゃんと治したりできないの?魔法とかで」


サツキが前のめりに十六夜に聞く。十六夜は静かに口を開いた。


「私らの魔法じゃどうしようもないよ」

「じゃあ、霞ちゃんは……」


サツキは横で今にも泣きそうなナギを見ながら、崩れゆくような口調で呟いた。


「どうしようもない、わけでもないんだけどね」


十六夜は意味ありげ言うと、道場の外へと歩いて行った。


「ほら、ついてきな」


ナギとサツキは目を合わせて頷くと立ち上がり、その後ろをついていく。霞は二人の後を静かについて行った。





少しして十六夜は小屋の前で立ち止まった。


「ここって……」


十六夜が立ち止まったのは、霞がサツキに前に入るなと言っていた場所だった。

十六夜は静かに扉を開ける。中には平らな磨かれた石の台があり、その周りには、金槌や大きなペンチのようなものが散乱していて、アニメやゲームで見る鍛冶屋そのものだった。


「何……ここ?」

「……葵ちゃんの工房です」


後ろに立つ霞が、懐かしむようにポツリと呟いた。


「葵ちゃん?」

「はい……私たちの大切な仲間です」


霞が少し斜め上を見つめながら目を細める。その姿はどこか寂しげで苦しそうだった。


「葵は、私らを治す力を持つ子だ」

「治す力?」


サツキの問いかけに十六夜は静かに続ける。


「私らは刀だ。刀はしっかり手入れをして貰わないと刃の切れ味も落ちるしボロボロにもなる」


淡々と辛いことを言う十六夜の言葉に二人は唾を飲んだ。


「……葵ちゃんは、戦う力はないのですが、戦いで消耗した私たちのお手入れをすることができる力を持つ子なんです」

「……」

「どんなに厳しい戦いで傷ついてしまっても葵ちゃんの手にかかればたちまちによくなるんです。それどころか、キレも魔力も高めてくれるので戦う力も強くしてくれるんですよ」


霞が少し誇らしげに微笑む。葵は霞たちがもののけと戦っていく上ではなくてはならない存在だった。もののけと戦った後は、葵に見てもらい万全にまで回復してもらっていたのだ。


「そうだったんだ……」

「でも、その、葵ちゃんは……まだ起きてきてないんだよね?」

「あぁ、そうだね」


十六夜は台の方を見つめて葵の姿を思い出しながら呟いた。


「うぅ、なんでまだ起きてないんだろう?主人が見つからないとか?」

「いや、葵は刀じゃないから主人は必要ないはず。だから、葵は基本的にはこの部屋から出ることはないんだけどね……」

「じゃあ、なんでいないの?」

「……さぁね。私だって同じように思ってる」


十六夜も霞のあんな状態を見ていられなかった。すぐにでも葵がいてくれたら。そんな虚しい願いがずっと胸の中を渦巻いていた。


「……葵ちゃんがいてくれたら、すぐに治してもらえるのですが……」


霞の言葉を最後に、しばらくの間小屋の中は重たい沈黙に包まれてしまった。

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