ゆにばーさる
「稟っ、着替え終わった?」
紅羽が返事をする前に部屋に入ってきた。
「紅羽、部屋入る前に確認ぐらいとってよ」
「着替えくらい見られても別にええやん」
「紅羽はそうなんかもしれんけど・・・」
私はそんなにスタイル良いわけやないんやで?
「それにちゃんと着替え終わってるやん」
「それはそうやけど」
「しかも思った通り可愛いっ」
「もう、また?」
今日は遠足なので私服登校だ。その為、昨日紅羽に着る服の指定をされていた。でも少し派手で恥ずかしいので、さっき地味めのを選んで着て部屋を出たら当然ながら紅羽に見つかり強制的に着替えさせられたのだ。
「またも何も稟が何時でも可愛いんが悪いんやって。他の荷物の準備は?」
「できてる」
今日の昼は向こうで遊園地特有のジャンクな食べ物を食べることになっているので、弁当の準備もなく財布など少量のものを入れた肩掛けのある小さめのハンドバッグ1つが唯一の荷物だ。
「ほな行こ、集合時間早いんやし」
私は頷きで応える。
今日は電車での少し遠出ということもあり学校への集合時間は何時ものHR開始時間よりもかなり早めになっている。
その為、母さんには悪いが今日は朝ご飯は自分で食パンでも焼いて食べてもらうことになっている。
戸締まりをして、何時もより少し?テンションが高い紅羽に引きずられるように家を出た。
教室に着くと凄く眠そうな姫とテンションマックスの晴がすでに席に着いていた。
おはようを言い合うと紅羽が直ぐに、
「燈眠そうやね」
「うん。晴がさ、あんまりにも早い時間に行こうっていうもんだから」
「だってさ、楽しみだとあんまり眠れないじゃん?それにこの妙に浮き足立った感のある教室の雰囲気も楽しみたいじゃん?」
「まぁうちはわからんでもないけど」
紅羽は分かるんや?私はこのメンバーやから辛うじて普段通りくらいの気持ちよっていうのに。
そうこう言っている内に教室に皆が序序に集まってくる。
・・・?なんとなく何時もより皆こっち見てるような。
「紅羽、なんや皆こっち見てない?」
「?そらそうやろ。稟の私服姿なんて見るしかないやろ」
「あぁ、紅羽の私服とかうちでも見てまうやろしな」
「また稟はそんなこと言って。うちらにはええけど、あんまり話したことない子にもそんなこと言ってたら嫌みになるで?」
「そもそも紅羽ら以外とはこんなに話さへんって」
「そう言われるんは嬉しいような気もするけどあかんって。・・・あのさ、稟。ちょっと話戻すけど・・・」
「何?急に改まって」
「うちの私服姿って稟は見てまう感じ?」
あ・・・。
「ぃや、その・・・」
「その?」
「紅羽綺麗やし」
そう言うと紅羽にギュッと抱きしめられた。
「あ〜、やっぱり可愛すぎるわ」
「ちょっと、紅羽っ。ここ教室っ」
「ごめんごめん」
「悪いて全然思ってないやん」
完全にクラス中の視線がこっちに突き刺さっている。
どうにも居たたまれない気持ちで一杯になりかけたところで、
「皆集まってるな?」
天連先生が入ってきた。
天連先生・・・あなたは神です。
出席と軽い注意事項だけで早速現地に向かうことになった。
途中の電車の切符は団体券でなく個人で買うことになっている。理由は定期を持っている子が結構いることと、それも勉強だということだった。
高校生にもなって電車に切符買ったことない子なんておらんと思うけど。
電車の中ではいくら進学校といっても高校生、騒がしくなってしまい何度か天連先生の注意が飛んだ。
で、地下鉄、と新快速、環状線を乗り継いで目的地に着いた。
「着いた〜!」
ユニバーサル○タジオジャパン前に着くや晴のテンションの針が振り切れた。
いや、晴恥ずかしいから。
団体チケットで入り、フリーパスチケットが配られる。その後諸注意を受けてから解散となった。
「思ったより人少ないね」
「平日だとこんなもんやない?」
晴の言葉に紅羽が応える。
確かに人が少ない。先週がゴールデンウィークだったこともあるかもしれない。
うん、人が少ないんはええな。
「なんだかんだで男女の班が多くなったよね」
姫がそれぞれ目的の場所に向かう班を見てそう零した。
「まぁ、高校生になったら恋愛が第一なんじゃない?」
「晴ちゃんも彼氏欲しかったり?」
紅羽が晴に興味津々にたずねる。
「そりゃあ彼氏との甘い高校生活とか憧れじゃない?」
「へ〜、晴でもそんなこと考えてるんや」
「ちょっと、姫〜、でもって酷くない?・・・まぁ、具体的なイメージなんて全然ないんだけどさ。中学までは運動ばっかだったし高校生になったらあれしたいこれしたいってのあるじゃん?特に恋愛とかあたし全然分かんないからさ〜憧れるよ」
晴でも恋愛とか興味あるんやな。まぁ普通女子高生やったら当然か。
「姫はそういうの無いの?」
「どうかな?あんまり意識したことないかも。付き合った経験なんてないから想像やけど、わざわざ彼氏とか探すんやなくて何時のもにか好きになってるのが理想やない?それに高校やとどうせ遊びみたいなもんになりそうやし、やっぱり大学からでもいいかなぁって」
「夢見がちなのか現実的なのか分かんないね。紅羽だったら恋愛とかやっぱりしてみたいと思うよね?」
「うち?ん〜、あんまそういうのないかな」
「へ〜、意外」
確かに意外やな。紅羽ってザ女子高生って感じやのに。
「だって今は稟が居れば満足やし」
紅羽はそう言うとチラッとこちらに視線を投げてきた。
え?
この流れで?
「紅羽って実はそっちのあれ?」
「ちょっと晴引かんといてよ。女同士の友情ってあるやん?」
「いや冗談だって」
紅羽が「も〜」と頬を膨らませる。その顔は少し赤い。
「でも稟を守ってあげたいって感じは分かるよね。こう、誰かに直ぐ騙されそうな感じとか」
・・・姫って私のことそんな風に見てたんやな。
でも精神年齢半分くらいの娘に心配される私って・・・。
「あたしから話振っといてあれなんだけどさ。そろそろアトラクション回らない?もう皆行っちゃったみたいだし」
その晴の提案に私達3人は頷いた。
ジュラシック○ークとバック・トゥ・ザ・○ューチャー(晴選択)を楽しんだ後お昼を取ることにした。
場所は少し高いが姫がピッツァを食べたいとのことなのでルイ○N.Y. ピザパーラーになった。
ピッツァのセットを食べながらこの後に回るアトラクションを相談する。
「この後何処回る?」
紅羽が晴に訪ねる。
「ちょっと紅羽〜、あたしのこと子供扱いしてない?そりゃあ決めさせてくれるのは嬉しいけどさぁ」
「してへんって。ただ、うちと稟は特に希望ないから聞いてるだけやって」
紅羽の言葉に私も頷く。確かに朝から晴の希望聞いてばっかやからそう思うのも無理なかな?まぁ実際姫よりも晴に聞くのは晴が子供っぽいからなんも十分理由やけど。
「姫はまたあたしが決めていいの?」
「うん、私も特にこれってのないから」
「そう?ん〜・・・じゃあどうするかなぁ」
晴が悩んでいる間にピッツァを一切れ食べる。
うん、美味しい。・・・けど量多いな。
何の意識もなくチラッと紅羽の方を見ると、
「もらおか?」
と笑顔で聞いてきた。
なんでこっちの考えてることがわかったんや?超能力か?
ただ、無理することもないので頷きで答える。まぁ紅羽は太らん体質らしいし大丈夫やろ。それにもう少し太った方が良いような細さやしな。
お皿を差し出して既に食べ終わっていた紅羽のお皿と交換してもらう。
「ありがと」
そう言うと紅羽はピッツァにかぶり付きながら目を少し細めることで答えてくれた。
「・・・決めた。バイオハ○ードで」
晴の決めたアトラクション名を聞いた瞬間紅羽の肩がピクンと動いた。
「な、なんでそれ選んだん?」
少し頬を引きつらせながら紅羽が晴に聞く。
「ん?シューティングって楽しそうじゃん?」
「あ、シューティング・・・」
「ダメやった?」
「い、いや、あかんことないで」
というわけで午後のアトラクション1つ目はバイオハ○ードに決まった。
大丈夫かな?紅羽。
「ひゃっ!」
可愛い悲鳴を上げて紅羽が抱きついてきた。
「ちょ、紅羽、撃てへんやん」
「うぅ・・・だって」
紅羽にも苦手なもんあったんやな。しかも怖いものとかいうデフォな奴。
「作り物やって」
「分かってるけどぉ」
その瞬間ゾンビが急に出てきて紅羽の腕に力が入る。
ちょ、苦しい。それに胸押しつけられてるし。自慢か。
そこに、
「稟、紅羽はまかせた。あたしと姫でこっちは頑張るから」
と無慈悲な言葉がかけられた。
「・・・ごめん」
結局アトラクションクリアはならなかった。そら人数半分とか無理やな。
アトラクション中私は涙目の紅羽にしがみつかれたまま何も出来なかった。役得といえば役得か。
「まぁまぁ紅羽、遊びなんだしそんな落ち込まんでも」
「そうそう、誰にでも苦手なものってあるよ」
晴と姫がフォローを入れる。
「ありがとぅ」
紅羽の状態的にも私の貧弱な体調的にも休憩が必要となり暫く休憩してから、あと1つアトラクションを回ってからお土産を見ていると集合時間になった。
全員揃ったところで来たとき同様に全員で電車で学校まで一旦戻る途中。
「稟、今日はどうやった?」
「楽しかった」
紅羽の問いに自分でも驚くくらいスルッとそんな答えが出た。
恥ずかしさで顔に熱が溜まるのを感じながら3人を見ると皆笑顔で私を見ていた。そのせいでさらに顔が熱くなる。
・・・もう。
恥ずかしさで目を反らす。
すると、3人が笑い出した。
うぅ・・・皆してからかって。
でも、・・・うん。楽しかった。
皆で遊園地で遊ぶんてこんなに楽しいもんなんやな。




