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いたりあん

 「稟~、用意できた?」


 丁度服を着たところで部屋に紅羽が入ってきた。


 「ちゃんと着てくれとるな」

 「紅羽が着ろって言うたんやん」

 「いやぁ、嫌言いながら着てくれるんが稟の可愛いところやん?着た姿も可愛いし」

 「なんやそれ」


 紅羽め、可愛いと言えば済むと思ってるな。まぁ悪い気はせんけど。ただ言われるだけも嫌やし。


 「紅羽も可愛い服着てるやん」

 「ありがとう、せめてうちも頑張らな稟に不釣り合いすぎてあれやん?」

 

 そうやった。こういうん紅羽は大丈夫なんやったな。いい加減私も学習せなあかんな。


 「今日は何食べに行く?」


 せめてこの嫌な話の流れだけでも変えることにする。


 「う〜ん・・・そうやなぁ・・・稟は何か食べたいものある?」

 「特にないかな。ただあんまり量多かったりコッテリすぎんのは嫌やな」

 「も〜、料理するくせに何でもいいとか止めてよ」

 「だって紅羽が変なとこに連れてくわけないやん?」

 「う〜、何気に稟ってよくハードル上げるよなぁ。じゃあうちが勝手に決めるで?」

 「お願い」

 「じゃあイタリアンで。ちょっと歩くけど北山通りに美味しいイタリアンのお店があったはず」

 

 え?いやいや、さすがに高校生でイタリアンって。


 「ちょ、紅羽、さすがに高校生にはお高すぎへん?」

 「大丈夫大丈夫、そのお店結構リーズナブルやから。ただ予約で埋まってたら入られへんけど」

 「予約で埋まる埋まらんの時点でリーズナブルなわけないやん・・・」

 「ほんまやって。それに稟のお母さんからもお昼のお金貰てるし」

 

 母さん、いつの間に・・・。


 「いや、でもさすがにイタリアン食べられる程貰ってへんやろ?」

 「え?今日は稟とお洒落して食べに行くって言うたら結構なお金貰ったで?」


 母さんめ、余計なことを。というより何で紅羽はそんなこと母さんに話してんの?私のプライバシーは?


 それにこのままやと私の懐具合も紅羽に管理されそうやし。


 「まぁそういうわけやしはよ行こ」


 そういうわけも何も納得いかんけど・・・。


 はぁ・・・。


 「わかった」









 家を出て十数分歩くと稟の言うお店に着いた。


 小さなお店だけどお洒落でこれぞイタリアンって感じの趣がある。


 私がそんな店に物怖じしている横を紅羽が何でも無いかのように通り過ぎ扉を開いた。


 「いらっしゃいませ、ご予約のは為さっていますか?」

 「いいえ、してないんですけど満席ですか?」

 「いいえ、大丈夫ですよ。何名様ですか?」

 「2人なんですけど」

 「はい、かしこまりました。どうぞ、お席の方にご案内いたします」

 「ありがとうございます。稟、ほら行こ」


 紅羽に呼びかけられてフッと我にかえる。ぇ?紅羽って何者なん?ほんまに15歳?


 「稟、何時まで突っ立ってんの?」

 「ぁ、ごめん」


 紅羽に急かされてついて行く。


 席にすわるとフォークとナイフがすでに置かれていた。うん、場違い感がはんぱない。


 「本日はお肉がメインのコースとお魚がメインの2コースをご用意できますけどもどちらに為さいますか?」

 「稟、どうする?」


 どうするって・・・そもそもコースしか無いん?ん〜・・・お肉がメインって結構重そうやし。


 「お魚のコースがいいかな」

 「ほなうちもそうしよ」

 「お魚メインのコースが2つでよろしかったでしょうか?」

 「はい」

 「かしこまりました」






 最後にアイスと小さなケーキのデザートを食べ終える。


 うん、美味しかったような気がする。何で気がするになるんかって?緊張して味なんかあんまりわかりませんでしたとも。そもそもイタリアンなんか前世でも行かんかったし今の母さんもあんなやし未経験すぎてわけがわかりません。


 なんとか紅羽を真似て及第点はいったような気はするけど自信は皆無。


 食べ終えたことで少し余裕ができたので紅羽の顔を見るとニコニコと笑顔が浮かんでいた。


 「何?」

 「いやな、頑張ってマナー守って食べようとしてるのが可愛いというか微笑ましいというか」

 

 言われて恥ずかしさで顔に熱が籠もる。え?私ってそんな風に見えてたん!?


 「そんなん見たくてここに連れてきたん?」

 「んなわけないやん。まぁ少しはこういう感じの稟が見れるかなぁとは期待しとったけど」

 「趣味悪いで」

 「ごめんごめん。でも恥ずかしないって、稟が可愛すぎてそんなとこまで見てる人なんかおらんし」

 「そんな風にうちを見るんは紅羽だけやん」

 「なわけないやん。稟が食べてる間色んな人が稟に目奪われてたで」

 「そんなんええって」

 「はぁ・・・ここまでくると病気やね、もう。稟がこんなやしうちが一生付いてなあかんな」


 またそのネタか。紅羽も飽きへんこって。


 「稟、この後って何か用事ある?」

 「・・・病院?」

 「それって先々週も行っとった検査ってやつ?」

 「・・・そう」

 「ふ〜ん。ほな一緒に行こか」

 「わざわざ悪いって」

 「約束」

 「うぅ・・・来てもなんも無いで?」

 「稟は何も気にせんとって。ただうちが稟に付いて行きたいだけやから」


 やはり先々週にした約束を紅羽は覚えていたようだ。約束したものは使用が無いので諦めることにする。


 「時間はどんなもん?」

 「3時には行ってなあかんし今から行って丁度良いかも」

 「そか、ほな行こか」









 支払いを済ませてお店を出てから病院まで歩いた。





 「稟、こんな大きな病院に通院せなあかんのにホンマに検査だけなん?」



 ・・・紅羽の言うとおり簡単な病気や怪我ならこんな病院にお世話になるはずはない。


 でも、まだ紅羽には知らないで欲しい。今のままの関係でいたい。今のままの接し方でいてほしい。数十年で初めて家族以外でこんなに失いたくない人ができたんや。知り合ってまだ全然経ってないけど、でも、だから、もっと紅羽とこんな時間を過ごしていたい。



 「・・・ホンマやって。ただ体が弱い理由が分からんからここに来ることになっとるだけで」



 だから、まだ・・・。

 

 

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