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おけしょう

 「ふぅ」


 鞄を床に置きベッドに腰掛けたところでため息が出た。


 週初めやっていうのに疲れたわ。体育の後姫と晴に何も言われんかったんは紅羽がどうにかちゃんと言っといてくれたんやろな。


 2人が普通に何事もなかったように接してくれたことがそれを証明している。


 感謝せなな。普通ちょっと運動したら倒れる体って聞いたら引いてまうもんな。っと、いつまでもこうしてるんもあれやな。


 ベットから立ち上がり制服を脱ぐ。それを一旦皺にならないようにベッドに置いてからクローゼットからハンガーを取り出し制服を引っ掛けてハンガーが元掛かっていた場所にかけ直す。そのついでにスカートを取り出して履いてベルトで止める。タンスから長袖のシャツを取り出す。


 外出る用事もないしこれ着るだけでいっか。


 シャツを着てベッドに仰向けに倒れ込む。


 あ〜楽。やっぱり着てる時は思わんけど脱いだら制服って着てるんしんどいんやってわかるなぁ。


 ・・・


 ってあかんあかん。寝てまうわ。


 眠ってしまわないように体を起こす。


 ん〜・・・何か飲も。そしたら眠気も収まるやろ。




 


 冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いで一気に呷る。


 「ふぅ」


 ん、眠気も取れたしテレビでも見よかな。


 そう思ってリビングに行くと先客が既にいた。


 「紅羽もテレビ?」

 「あぁ、ちゃうちゃう、うちはただ稟とお話したかっただけ」

 「お話って、そんなん一緒に住んでんのやからいつでもできるやん」


 ソファーの空いている部分に腰を下ろす。


 「まぁそれはそうなんやけど。でも稟といっぱいお話したいし」

 「なんやそれ。ほんま紅羽は変わってんな」

 「いやいや、学校でも稟と話したいと思ってる子多いと思うで?」

 「毎度のことやけど何を根拠に言うとるん?」

 「え?だってうちも稟と初めて会った時この娘と話したい、友達になりたいって思たし」

 

 うっ、やばいやばい。慣れて来てたはずやのに。


 「もう・・・紅羽ズルいわ」

 「え!?何が?」


 紅羽がホントに訳が分からいみたで驚きの表情を浮かべる。


 「だからそういうとこ」


 紅羽が私の応えに頭の上に?マークを受けべる。


 ほんまに天然ジゴロやな。これで彼氏おらんとか信じられへんわ。


 まあ最近の感じ見てたらホンマにおらんのやろうけど・・・わけわからん。


 「そういえば」


 さっきから思っとったけど。


 「化粧もう落としたん?」

 「うん。やっぱりノーメイクの方が楽やし。それに稟にはスッピンも好評みたいやしな」


 二カッっと笑顔を浮かべる。うん、たしかにスッピンも可愛いと思う、かなり。にしても判断基準が私がどう思ってるかってどうなん?まあ眼福やし文句ないけど。


 「そもそも紅羽は何やっても何着てても可愛いからな」


 さっきの仕返しや。


 「ありがとう」


 ホントに嬉しそうに返された。うわ・・・もうかなわへんわ。


 天使って紅羽みたいな娘のこと言うんやろな。私なんてこんなんやのに。


 「稟〜、前も聞いたけど稟はメイクとかしようとは思わんの?」

 「だって誰も喜ばんやろ?うちも喜ばんし」

 「え〜うちが喜ぶよ。たしかに何もせんでも稟はめちゃ可愛いけどちょっと違う稟も見てみたいやん?うちだけが知ってる稟の一面があるってのも何や嬉しいし。っとそう考えたらあれやね。学校にメイクして行って欲しくない気もするなぁ」

 「そんなん言われんでも面倒やし恥ずかしいし学校には絶対やってかへんよ。まぁ紅羽が見たいって言うんやったら今してもいいけど。って言ってもやり方なんか全然わからんけど」

 「ホンマに!?ほな今日はうちにさせてくれへん?」

 「好きにして」

 「ありがと、すぐ取ってくる」


 そう言うやソファーから立ち上がってリビングから出て行った。


 なにがそんなに嬉しいだか。化粧が好きなんが普通の女の子の反応かもしれんけど。




 「おまたせ〜」


 いや、全然待ってへんけど、一瞬しかたってへんけど。


 紅羽が化粧道具をソファー前の机に並べる。


 「ホンマに好きにやらせてもらってええんやんな?」


 うっ、キラキラお目目攻撃、効果は抜群だ!私に。


 「う、うん」


 気圧されるように頷いてしまった。


 「ほな稟はそのまま座っといて」

 「わかった」


 紅羽がなにやら水っぽいものを手のひらに出す、とそれをいきなり顔に丁寧に塗りこまれる。


 「ちょ、紅羽?化粧やなかったん?」

 「ん?そうやけど?日常的にするんやないっていっても稟の奇麗な肌が荒れてまうんは嫌やからな」

 

 荒れるんを防ぐんにこれ塗ってんのかな?


 「って、もしかして稟、化粧水も知らない?」


 え?化粧水?あぁこれがtonerなんやね。昔も化粧に一切興味なかったし全然覚えてへんわ。


 「いや、実物をつけられるんが初めてっていうか」

 「高校生にもなってそれとか。まあこんだけ肌きれいなんやからメイクに興味なかったんもわからんでもないけど」


 話ながらも紅羽はクリームを私の顔に丁寧に塗る。


 これは何なんやろ。


 「う〜ん。やっぱ肌は白くて奇麗やしコンカラはいらへんかな。ファンデは・・・これかな」


 今度はスポンジみたいなものでサッと何か塗られた。うん、もう考えるんは止めよ。


 「うん、コンシーラもいらんしパウダーちょっとつけるだけでオーケーかな」






 「おまたせ、稟。やっぱめっちゃ可愛い。可愛すぎる」

 「そんなこと言ってんと鏡かして」


 まあ紅羽に可愛いって言われるんは全然嫌やないんやけどな。


 「はい」


 鏡を受け取り自分の顔とご対面。


 ・・・・・・


 うん。


 誰?


 ちょっと大人っぽくなった感じの私?でもこんな目鼻立ちスッキリするもんなん?たしかにこんなん見ると化粧する娘の気持ちもわかるかも。


 「ど?」

 「別人なレベルに可愛いかも。自分で言うんはアレやけど」

 「そうかな?たしかに超可愛いのはそうやけどメイクしてない稟も同じくらい可愛いで?うちとしては2人の稟を見れた感じで満足やし」

 「喜んでもらえたようでなによりです」

 「うん、たまにはまたメイクさせてな」


 私のとなり座ってピトッと引っ付いてくる紅羽。


 「もう、止めてや」

 「え〜。誰もおらんかったらいいって言うてくれたやん」

 「う、そう言えば」

 「てことで・・・ぎゅ〜」


 がっちりと抱きつかれてしまった。


 なんで昔の私は安請け合いしてもたんや。別に抱きつかれるのが嫌ってわけやないけど。


 チラっと窓を見るといつの間にか外は薄暗くなってきていた。






 ん?


 なんか忘れてるような?



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