てすとけっか
「では今日の授業はこれまで、確か昨日の結果が張り出されてあるけど見るなら次の授業始まるまでには戻っておけよ~」
ようやく授業終了。ぅぅ、いっそ寝たかった。でも怒られるやろうし。
「稟、見に行こ」
「ぇ、紅羽見に行く気?あたし自信ないから見たくないよぉ」
晴の言葉を聞きながら教室を見回すと確かにあまり見に行ってる生徒は少ないみたい。
「まあまあどうせ知ることになるんやし行こうよ」
「くそ~。姫は自分ができるからって」
「はいはい、文句はいいから立った立った」
「稟も行こ」
「うん」
4人で張り紙を見に行く。見ている人は思ったよりも居なくて人垣で見えないってこともなかった。
早速自分の名前を探す。
“1位 夏芽 稟 400点”
うわぁ。まぁ予想通りなんやけど。苦労して入った高校の初めてのテストで1位とか、どうせやったら入試前に記憶戻って欲しかったわ。
あと3人の名前も探す。
“2位 姫路 燈 378点”
“4位 神宮 紅羽 375点”
2人は流石やなぁ。ちなみに晴は100位までに入らなかったようで名前は張り出されてなかった。
「稟、すごいやん!」
紅羽の言葉に何人かの生徒がこっちを振り向く。
あの娘が1位の...とか、満点ってすごすぎ...とかざわめきが聞こえる。
「ぅぅ、紅羽~」
「あ、ごめんごめん。教室戻ろ」
そそくさと4人で教室に戻る。
が、戻った教室でも注目を浴びてしまった。
「紅羽のせいや」
ボソッと呟く。
「ごめん・・・稟」
あ、何か本気で気にしてるっぽい。
「まぁどうせすぐ分かることやしな。それがちょっと早なっただけや」
「ありがとう」
もう、別にお礼言われることやないのに。こんな空気は嫌なので話の方向を変えることにする。
「姫も紅羽もすごかったね」
「1位に言われてもあれやけどな。にしても燈も2位って超凄いやん」
「紅羽もほとんど変わらんやん」
「あたしからしたら3人ともおかしすぎやし。なんなん、1位2位4位って。優秀過ぎ」
晴がブーブー言う。
「まあまあ、晴も次の中間テストで頑張ればいいんやって」
「くそ~姫め、余裕見せやがって」
「余裕って。そんなんやないよ。あ、先生来たみたい」
今度の先生も若い男の先生。
「はい、皆さん席について~」
「僕はこれからこのクラスと2年以降の物理選択者を担当する浅葱と言います、よろしく。さて今日は、まず物理って何かってことから話そうと思います。中学では物理、化学、生物、地学をひっくるめて理科って授業になってたと思うんだけど........」
延々と物理が理科のどれにあたる部分かとか、そもそも物理ってなにかとか話される。
まじか。授業進めてや。なんもする事なかったら暇すぎやん・・・・・・。
「今日は切りもいいしここまでにしようか。次からは教科書の内容に入っていくからテキストを忘れないようにね」
先生の授業終了の言葉で意識が覚醒戻る。
どうやら寝てしまったらしい。あ~、やばいな。授業初日から寝てまうとか。
ん?
「なんで紅羽はニコニコしてんの?」
「ん?あぁ、そら授業中眼福な寝顔がずっと見れたからな。授業ら一瞬やったわ」
顔に急激に血がのぼる。ぁぁ、またやってもた。
「そんなん見てんと起こしてよ」
「もう拗ねやんとってよ。別に教科書の内容やなかったからええかなと思って起こさんかっただけやって。まあ気持ち良さそうに寝とったから起こしにくいってのもあったことはあったけど」
「稟って見かけによらず大胆なんだね~。あたしでも今日の授業で寝る勇気ないよ?」
「もう勘弁してや」
もう、寝た代償がこれって。
英語の先生は若い女の人だった。
「英語担当の七瀬です。これから1年よろしくね。今日は初めての授業だし私に何か質問があれば受け付けます。何かない?」
先生に皆色々質問する。初めて会う先生に質問できるとか皆すごいなぁ。
色んな質問の結果どうやら先生は独身で彼氏募集中なことがわかった。って授業になんも関係ないやん。
「さて、次は皆さんに自己紹介してもらいます。せっかく英語の授業なので英語でしてもらいましょう。そうね、名前と趣味か特技を言ってもらいましょうか。じゃあ廊下側の一番前の席の子から順に」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
紅羽の順番が回って来た。
「My name is Kureha ......」
緊張で紅羽の自己紹介も頭の中に入ってこない。あと1列で順番回って来てまうし。
・・・
・・・・・・
ついに私の順番が回って来てしまった。もうこうなったらしゃあない、適当になんか話せばええねん。
「〈ええと、名前は夏芽稟と言います。趣味は寝ることで特技は特にありません。この春に大阪から引っ越してきました。どうぞよろしくお願いします〉」
何とか言い終わり席に着く。あれ?教室がシーンとしてしまっている。何かしてしもたんかな?どないしよ。
「夏芽さん、すごくいい発音ね。ネイティブと変わらないくらい。留学経験とかあるの?」
あ、あぁ。なるほど。そういうことか。
「ないです」
先生の質問に答える。まぁこの私は日本からでたことすら無いしな。
「そうなの。それにしてはすごくいい発音ね。ぁ、そうか、あなたが夏芽稟さんなのね」
ここでチャイムが鳴る。
「丁度時間になったみたいなのでここまでとします。次からは授業をするんでテキストと辞書、それに文法書のForestをを忘れないようにね」
そうかってなんやったんやろ。あぁ、テストの結果か。
「稟凄いやん。テストだけやなくて発音も完璧とか」
「たまたまやって」
「発音にたまたまも何もないやん」
「本当に稟って万能なんやね」
「もう、姫まで止めてや」
午前最後の授業の先生は年配の男の人だった。
「僕がこのクラスの国語を担当します縁です。古典漢文は古典の授業の方でやってもらうので国語の授業はつまり現国の授業になります。1年の間はマーク問題の解き方などの所謂コツなんかをやるんでなくじっくり文を読み込んで筆記問題を解けるようになることを目標として進めていきます。このクラスは一応理系クラスではありますが受験では論文が出題されることもあるしセンターでは国立を狙うなら必須になってきます。なので手をぬかないように。さて、では授業に入ります」
先生の『走れメロス』の朗読が静かな教室に響く。
あかん、なんやこの子守唄は。
それでもなんとか耐えきった。紅羽がたまにチラッとこっち見るから寝顔を見られんようがんばったからな。
朗読が終わってから板書が始まる。この小説についてとか太宰治についてとかをまず書いて行く。どうせ暇なのでノートを超丁寧にとる。
一通り書くと段落分けをしてまず1段落の説明と板書が始まった。
「まだ1段落の途中ですが時間なのでここまでとします」
今回の授業はノートも取っていたし授業自体もまあまあ面白かったので朗読が終わってからは眠気と戦わずにすんだ。




