年下の母
「…言っていることの意味が理解できませんね??」
冷や汗が頬を伝って床に落ちた。義足の付け根部分がキューっと音がなり、ぶつけていないのにジンジン痛みが出てきた。
「ワイもバトラーやからわかるんですよ。ぽまえには名無が使われている。気配というか、リトルマザーと繋がってる感覚がするんよ。」
「そういうことですか。だから私の頭の中は、来夢さんのことを母と呼びたがるんですね。彼女が辛い思いをしないよう、支えてやりたいと込み上げてくる。」
「ワイな、」
「?」
「初対面の人やったら絶対にオタク口調にならんのよ。絶対に敬語になるから、魂がぽまえを名無の子って理解してる。ほかのバトラーも思っとるやろうな。」
助かった代償に一人の身体に二人の魂を持った茶野は不安を覚える。いずれ自分の身体がもう一つの魂に持っていかれてしまうのでは、と。
しかし、同時に安心感を感じた。『茶野 金之助』は才能がない。特に対人関係は以ての外だった。会話を続けようと努力しても、キャッチボールは2.3回で地面に落ちてしまう。そんな茶野に、身体から刻まれた新たなコミュニティとの深い繋がりは、中々心地良いと考えるのであった。
「名持バトラーは、名無の教育係として指導を行わなければならない。ぽまえの能力がどこで使われるかわからない以上、とりあえずバトラーの鉄則をワイが教えたる。」
〜バトラー5大鉄則〜
1.我等の母は、食満 来夢なり。
2.母の敵は問答無用、切り捨てるべし。
3.住処を出るべからず。
4.名を持つ者よ、母の為に胸を差し出さん。
5.我等、ただ一つ変わることなかれ。
「変わってはいけない…?」
「リトルマザーは永遠を望んでおるんや。同じ服装、同じ化粧、同じ交友関係に、同じ匂い。あのお方が光りを灯さなくなってから、ワイらは何一つ変わっとらん。それがワイらの為にも、リトルマザーの為にもなる。ぽまえもバトラーを抱える身なんやから、それは許されん。」
「恋人とかは??」
「多分ブチギレる。」
バイバイ、私のアオハル…
結婚意識の強い茶野の野望は、たった今大破した。できる気配なかったけど、どっっかでワンチャンあったんじゃないかな〜?と考える茶野。自分の理想に合う女性にサヨナラをする。
「ていうか思ったんですよ。自分より年下の母親ってやばくないですか?」
「…エッツだわ。」
「え?」
「なんでもない、忘れてクレメンス。それに最初のバトラーはリトルマザーとたった5歳しか変わらないんだから、そこまで気にしなくてもええ。」
《本日のグリストーリー》
清掃担当バトラーのアリッサ・ミラノは、『ミシェルの箱庭』の清掃も行っている。いつもピカピカにしてくれるからミシェルはアリッサが好き。アリッサはニーハイを裏返さないで洗濯に出してくれるミシェルが好き。
暇なときは一緒に箱庭にいるくらいの仲良しだけど、毎回アリッサが話して、ミシェルが少し相槌を打つだけで会話は終わる。




