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理想の布団様とアメーバ人  作者: アルタ
第3章 クラウディス・ルナガルデと未知の生物(クラウス視点)
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15-1 一夜でホラーハウス

 ……寝坊した。


 水で顔を洗っても、いまだに頭がぼーっとしている。

「あー、眠い」

「一応食堂からパンもらってきたから食え」

 意外と世話好きのキースからパンをもらい、おもむろにちぎっては口に入れる。行儀が悪いのは分かっているけれど、食べながらブラシで寝癖を直した。


「これが学年一の天才。そして学年一の美貌を謳われるクラウディス・ルナガルデの正体なんだよなー」

「女生徒が勝手に夢を見ているだけなんだよ」

 面倒を避けるために意図的に微笑むことはあるけど、基本的に素ですよ。僕は。

「この眠そうな顔も、美貌フィルターで憂い顔に変換かよ。爆発しろ」

「途中で貧血起こしたら、保健室で寝ててもいいかな」

「馬鹿! んなことしたら、あっという間に王宮に連絡が行くぞ」


 さすがにそれはまずい。

 惰眠の続きをむさぼりたいのは山々だけど、我慢して授業を乗り切ろう。コピーロボットとかあったら便利なのになぁ。

 そうだ、彼女にお土産を持っていこう。学院で人気のクッキーなら喜ぶに違いない。

「よし、頑張って授業に出るか」

「おう。そして俺が授業で当てられたら、こっそり答えを教えてくれよ」

「購買部っていつから開店だったかなぁ」

「聞いてねえし!」


 授業をそつなくこなした後、良い天気だなぁとあくびを噛み殺しながら購買部へと向かう。いつも盛況な購買部では、パニーニ(サンドイッチの一種)や野菜ジュースなどの軽食から文房具や参考書まで売っている。

 クリーム色の壁面には所狭しとさまざまな魔道具がかけられ、その中のひとつである水鏡は遠方の店の品物を見て取り寄せができるという『通信販売』が可能なものだった。臙脂色と大理石がチェックに組み合わされた床にもまた魔方陣が組み込まれており、制服を販売しているコーナーでは幻影魔法が発動して一瞬で試着できる仕掛けまである。


 学院の購買部には先端の魔法技術が詰め込まれているため、買うものがなくてもなんとなく学生が訪れるのは分かる。いや、僕も入った当初は入り浸ったものだ。賢者と前世のアバターは呼ばれていたけれど、何せ僕の操る魔法は古代魔法というか攻撃魔法がほとんどだったから、こうした生活魔法って新鮮に見えるんだよ。

 山を穿つ水魔法よりも洗面器に水を満たす水魔法の方が今の自分には重宝するしなぁ。


「これはルナガルデのクラウディス様。先ほどお兄様がいらしてましたがすれ違いですかね」

 購買部の看板娘(?)はにっこりと笑って薬草のコーナーを指差した。冒険者ギルドに依頼して採取してもらった薬草やさまざまな素材が所狭しと置かれているコーナーは、兄上のお気に入りのスポットのひとつである。

「兄上は研究熱心だからなぁ……何か珍しい薬草でもあった?」

「今日は何も。ただ、明日は火炎茸(キノコの一種)が入荷する予定だと話したら、わくわくしていらっしゃいましたけれど」


 購買部を仕切る彼女は、がははと笑って明日の入荷リストを見せてくれた。どうやら城の騎士団が近くの山を巡回視察した際に採取した素材が安く入ってくるらしい。モットーが『現地でサバイバルできずに兵糧に頼り切るのは危険だ。荷物は常に最小限に抑えろ。野生になれ!』のサンライズ騎士団長は、たまにこうしたイベントを企画する。

 付き合わされる騎士は大変だなぁと思うけれど、意外と新人騎士たちには評判が良くて、後日、キノコ狩りや鉱石発掘が趣味になる騎士が多いらしいので、一回僕も参加してみようかななんて思っているところだ。たまに一般人も人数限定で参加しているときがあるし。


「僕はカラシュ麦のクッキーを一袋、あと、ノートを1冊探してて」

「それくらいなら、連絡を飛ばしてもらえればいつでも届けるんだけどねぇ」

 貴族の場合、特に大貴族になるほど自分の足で買いにくる者は少ない。自立を謳っている学院だけど、やはり取り巻きにパシらせる貴族はなくならない。そして学院側もそれはある程度仕方ないとした上で、売り場を介さず直接御用聞きに伺う外商制度を認めていた。


「うーん、一応プレゼントだから自分の目で選びたくって」

 えへへ、と笑って見せたら一瞬で目の前の肝っ玉母さん(あ、看板娘?)が凍りついた……様な気がした。

「プ、プレゼント!? あー、あー、婚約者のお嬢様たちにかい?」

 貴族である彼女たちに贈るには、素朴な味わいのカラシュ麦のクッキーや学院で扱っている実用的なノートは少しそぐわないと思ったのだろう。


「内緒」

 わざわざ噂話を提供することもないだろうと思い直し、僕はノートを選ぶことにした。筆談なら可能だけど、延々文字を書き続けるのは大変だから、音声も認識できるものが良い。できれば部外者があまり覗き込めないものが良い。写真というか、映像が貼れるタイプだとなお良いよね、なんて考えていたら『交換日記帳』に行き着いてしまったのだけど、まあいっかと軽く思って購入した。

 後日、それが少々トラブルに発展するのだけれど、このときの僕はまったく気づいていなかった。



 かくして必要なものを買い込み、実家に『僕、婚約しました。あと、守護精霊呼び出しちゃった』という旨をオブラートに3重くらい包んだ手紙を飛ばし、夕飯を食べて、宿題をこなした僕は、キースの姿が回りにないことを確認してからクローゼットを開いた。

 昨日転移魔法のつながりは作ったため、魔力の糸をつかむような感覚で隠れ家への出口を探る。

 ゆらり、と脳裏に銀色の魔力がかすめたのにホッとして安定した足取りで転移した。


 真っ暗だ。そうえいばこの家には明かりをつける魔道具を置いていなかったから仕方ないのかもしれない。コンコンとクローゼットを叩くが反応がない。もう寝ているのだろうか。

 再度、強めに叩くが気配がしない。アルテミシアがぐっすり寝ていたとしても守護精霊は気づくはずなのだが、おかしい。大分暗くなっているのに外に出かけているのだろうか。


「失礼するよ」

 ギィ……と扉を開けて部屋に足を踏み入れると、生臭いにおいが鼻を突いた。

 慌ててダイニングへ向かおうとして、何かを蹴飛ばしてしまう。視線を足元に向けると、点々と続く血の跡。……そして、魚の頭部。

「!!!???」

 想像だにしていなかったものの出現に一瞬息が止まるかと思った。よく目を凝らせば、何かの葉っぱの上に魚の頭部が20近く口をあけたまま黒魔術の儀式のように並べられている。なにこれ怖い!


 井戸へ続く扉が開いていたのでそちらに目をやると、なにかが吊り下げられているらしく、縄のようなものがくくられていた。まさか首吊り……などという恐ろしい予想が頭を横切ってしまい、半泣き状態で近づくと、吊り下がっていたのは何かを包んだらしき葉っぱだった。中身は想像するまい。


 いったい、何が起こったのだろう。彼女は無事なのだろうか。

 付け加えるなら、ホラーみたいで、僕、怖いよ!

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