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理想の布団様とアメーバ人  作者: アルタ
第3章 クラウディス・ルナガルデと未知の生物(クラウス視点)
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7-1 次なる任務

「それで昨日は外泊したのか」

 翌日寮に戻ると、ルームメイトがパンを頬張りながらため息をついた。赤い髪の彼はルームメイトであり、僕の親友でもある。昨日任務の途中で魔物に襲われたことをかいつまんで話すと、魔法を吸収してしまう魔物がいるなんてなぁと顔をしかめた。


 ただし、彼には銀色の魔力の持ち主の話はしていない。父上にはそれとなく報告したのだけれど、あまりにも空気を掴むような話であるのと今後例の魔物に対する重要な手がかりになるかもしれないので、とりあえず国家機密にすることになったのだ。


「僕の体の回復を確認するため、という名目で久々に家族で食事したよ。治癒術師である兄上まで巻きこんじゃった。一応体の傷は癒えたんだけど、かなり攻撃魔法を使ったからしばらくは魔力の濁りが浄化されるまで仕事はお休みするんだ」

「ま、学生の本分に立ち返ることが出来て良かったじゃないか。でもなぁ、うーん?」

 少し癖のある髪をいじりながら、彼は不思議そうに僕を見つめた。

「どうしたの?」


 こちらをじっと見つめる視線に首を傾げると、彼はガシガシと手をナプキンで拭って、もう一つパンを手に取る。

「ちょっとおかしいなぁと思ってさ。クラウスの魔力は国内でも指折りだろ? そのお前が本気で戦って魔法を使った。てことは相当魔力が消費されたはずだよな」

 それにしてはさ、あまりにも魔力が綺麗なんだよ。もっと濁っていてもおかしくないのに。

 パクリとパンにかぶりつくと、彼は続ける。

「まるで教会の聖水で浄化されたみたいだけど、時間をかけて回復できるこの状態でそんな高いアイテムを使うとは考えにくいしな、って思っただけなんだけど」


 純血のエルフにしては、彼の魔力は低い方だ。しかし、そのせいか他の者が持つ魔力の質や量に敏感なところがある。その疑問に関しては僕も同感だったので軽く頷き、今は秘密とだけ答えておいた。


「ああ、そうだ。僕、今日の授業は欠席するから」

「サボリか!?」

「ちょっとやるべきことがあってね」

 本来学生である僕は、仕事よりも学業を優先させるのが普通だ。けれど、それを覆すだけの何かが起こっているのだと心得たのか、彼は気を付けろよと心配そうな顔をした。


「じゃあ欠席届は俺が持って行ってやるよ」

「ありがと」

 心遣いが嬉しくて微笑む。

「おう。ってか、昨日死にかけた奴がする表情じゃねーよな」

 欠席届に理由を記載して手渡せば、気のいいルームメイトは呆れたように首を振った。確かに彼の言うとおりなので、ここはもっともらしい理由を述べておくことにした。

「魔法歴史学の小試験を回避できて嬉しいんだ」




 学生が学習棟へ行くのを寮の窓から見送った後、僕は腰に括るタイプのポーチを取り出した。空間拡張の魔法がかかっているため、見た目よりも収納できるところが嬉しい。

 本当はポケットに最低限のモノだけ突っ込んで動きたいけれど、念には念を入れて、回復薬や即時退避の魔法書など用意しておく。魔法を使う余裕がないときのための備えだ。


 学院の授業をサボってまで僕がやろうとしていることは一つ。……あの銀色の魔力の持ち主を探して事情を聞くことだ。ただ、敵か味方か分からないから、これだけのアイテムをそろえることになったのだけれど。

 本来ならば、他の魔術師達にも手伝ってもらった方が良いのだろう。しかしながら先輩方にはもっと危険度の大きい仕事、つまり黒い影と結界の調査という任務がある。


 残念ながらこの世界の転移魔法は基本的に同行者を連れて行くことができない。また、本人が一度行ったことがあり、かつ、明確にその場所をイメージできなければ転移できないという縛りがある。よって、この地域の担当でないメンバーは近くの村に設けられた転移装置から移動しなければならないため、ロス時間を考えても僕が単独行動したほうが早い。

 さらに、魔力量の大きい魔術師が近くにいると、他者の魔力を感じ取るのが難しくなるというのもあり、探索の仕事は自然と僕に回ってきたというわけだ。


 宮廷魔術師は選ばれたエリートなどと巷では言われているけれど、こういうときに手が足りないのは困ったものだと思う。まあ、純血のエルフが貴族であるというのも考え物だよね。働かなくても食べるのに困らないし。


 ぎゅうぎゅう荷物を詰め込むと、影としてもぐりこませていた精霊にコンタクトを取ってみる。

 ……あれ?

 反応がない。何度か呼びかけてみるのだけれど反応が弱々しい。

 多少の距離はあるものの、僕の魔力が届かない範囲ではないはずだ。ならば一体何が起こっているのか、考えられる可能性は2つ。1つは精霊自身が弱っている場合、もう一つは弱っている誰かに精霊が力を与えている場合。


「まずいな」

 少し急いだ方が良いかもしれない。

 僕は新しく支給し直されたマントを羽織り、昨日自分が倒れていた河原を強く思い浮かべ、転移した。



 空間がねじ切れるような気持ち悪さを乗り越えて大地に降り立つと、さらさらと心地よく耳を撫でる水音が聞こえる。ふわりと木々を擽るような風が吹き、その中にかすかな銀色の魔力を感じ取る。闇の精霊から戻ってくる反応は、ぷつぷつと途切れがちになるほど弱いため、力の強弱によって距離を測るのは難しい。


 深呼吸を一回。

 目を閉じて、かすかに届く魔力へ集中する。

 はやる心を抑え、ふわりと流れる魔力を掴むと、僕は糸をたぐり寄せるように森の奥へと歩き出した。

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