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理想の布団様とアメーバ人  作者: アルタ
第3章 クラウディス・ルナガルデと未知の生物(クラウス視点)
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3-1 宮廷魔術師団員のお仕事

 ルナガルデ家はここセインティア王国でも3本の指に入るほど有名な家系になる。一番有名なのは言うまでもなく王家であるセインロード家だ。そして、その王家と血縁関係にあるサンライズ家とルナガルデ家が続く。サンライズ家は騎士団の筆頭を、ルナガルデ家は魔術師団の筆頭を任されている。

 実力が要求される仕事であるから、その家長は必ずしも世襲制とは限らない。現に僕の父上は傍系だったのだけれど、才能を見込まれて養子としてこの家に入り、王族である母上と婚姻を結ぶことでルナガルデ家を継いだ。まあ、政略結婚とは思えないほど本人達の仲は良いのだけれど。


 僕には5歳年上の兄、ヴェルクールがいる。彼は現在13歳。確かな魔法操作技術と誠実な人柄からルナガルデ家の次期当主として将来を有望視されている。父上に似たのか、少し胃が弱くて「胃薬が手放せない」とぼやいているのを何度か見かけた。しかし、ここぞというときにはキッチリいい仕事をしてくる自慢の兄だ。兄弟の仲は悪くないと思っている。


 そんな我が家は総じて魔力保有量が多い。大体ハーフエルフの魔力量を10とすると、純血のエルフは100~500、当家は1,000前後かな。僕の魔力量はまだ伸び盛りということもあって、家族には及ばないけれど他のエルフ達よりはずっと多い。

 そんな事情があるため、僕らは学院への入学が許可される8歳になると同時に宮廷魔術師団へ配属され、この国を守る結界の維持という仕事を任される。おかげで物心ついた頃から結界魔法についてはみっちり修行させられたなぁ。特に魔力制御については完璧に出来るようになるまで何度も練習した。結界の厚みは均一にしないと壊れやすくなるらしい。


 普段は学院の生徒として過ごし、数日に一度王宮へ出向いて結界の補修を行う、そんな生活が始まってしばらくした頃だった。

「亀裂、ですか?」

 僕の担当する南側の結界に異常があったと、同じ南側を担当している先輩から緊急の連絡があった。彼はもう10年以上、魔の森と呼ばれる南の森側の担当をしている。新参者の僕のことを息子のように可愛がってくれている担当者だ。

「いや、クラウス様の結界は完璧だったよ。ただ、亀裂というか……妙なんだ」


 これを見てくれと手渡された資料には、そのときの結界の変化が詳細に記載されている。

「確かに、これまでにないパターンですね」

 今朝、結界の一部が解け、そして何事もなかったかのように戻っている。綻びはなさそうだ。結界の外にいる魔物が無理矢理侵入しようとした形跡もない。本当に自分から扉を開けたとしか考えられなかった。




 僕は直接現場を見て判断するため、転移魔法を使って異変のあった結界部分へと移動した。他の魔術師ならば近くの村へ一度転移した後、徒歩で向かうことになるが、結界を張った僕ならすぐ傍まで移動できるだからだ。

 細い魔力の糸で紡がれた結界に手を触れる。普段は透明のそれが光の糸となって浮かび上がったが、切れたり破られた跡は見られない。となると、穴を開けるように少しずつ広がったのだろうか。

 結界に問題は見られなかったが念のため補強しておく。


 媒介として使用している魔法書を片手に持ち、魔力の糸で上から縫うように追加の結界を紡いだ。中途半端な補強をすると、つなぎ目に亀裂が入ることがあるので慎重に行う。細い穴に魔力の糸を通すことに集中していた僕は、背後から近づいてきていたそれに全く気づかなかった。

「ぐっっ!?」

 ひゅんと風を切るような音がして背中にひどい痛みと熱を感じたときには、一体何が起こったのか理解が追いつかず、受身をとり損ねる。右肩を下にして転がった僕の目に映ったのは、第2撃を繰り出そうとしている黒い影。


 エルフではないが魔物でもない。しかし、明らかな敵意を持って襲い掛かってくる存在である以上、反撃しなければ殺されてしまう。

 結界の綻びはコイツの仕業なのだろうか。この影は本体なのか、誰かが操っているものなのか。火の魔法は効くか。いくつもの問いかけが頭に浮かび、答を出そうとする。

 一斉に襲い掛かってくる真空の刃を風の防壁で跳ね返し、代わりに小さな光の矢で応戦してみるが手ごたえがない。

 操られた影なのかもしれないが操作している者の気配は感じられず、まるで敵意の塊と戦っている錯覚に陥るなぁと、どこか冷静に考えている自分がいた。


 致命傷はかろうじて避けるも、こちらからの攻撃が全く効かず傷が増えていく。最初に喰らった一撃が特にひどく、出血多量のせいで意識が朦朧としてきた。

 このまま逃げ続けていても勝てるとは思えない。けれど、全く攻撃が効かない以上、反撃することも出来ない。転移魔法で逃げようにも、絶え間なく攻撃が降り注いでくるから逃げる隙がない。

 どうやら敵はこちらの魔力を相殺しているわけでも吸収しているわけでもなく、攻撃魔法を使用した際に生じる魔力の濁りを糧にしているようだ。まるで魔物のようだけれど魔物ではない。


 なんだこれ、八方塞じゃないか。魔力が多い僕では、相手を強くしてしまうだけ。

 こんなところで殺される予定はなかったのにな。僕にはやるべきことがあるのに……。

 額から流れる血を拭おうとしたら視界がぐらついた。守護の魔法がかかっているはずのマントが襤褸切れのようになっているのが見える。このまま意識を失ってはいけないと、必死に消えそうになる意識をかき集めるが、体が急速に重くなって力が入らなくなる。


 このまま死んでしまうというならば、どうして僕はこの世界に『再び』生まれたのだろう。

 何のためにここで殺されるのだろう。


 熱いのか痛いのかすらも分からなくなった手で血を拭い、とどめを刺そうとしている影を見ようとする。しかし、僕の目に映ったのは、この世のものとは思えないほど綺麗な銀色の光だった。

 昼間だというのにその光は夜道を照らすように地上を駆け抜け、こちらに向かってくる。


 あれは敵ではないと本能で感じる僕とは逆に、黒い影は焦ったようだった。光に触れた影は、肩の辺りからサラサラと砂の城が崩れ落ちるよう消えていく。

 けれど、それを最後まで見届けることは出来ない。

 僕の意識は遠のき、いつしか落ちていた。


 最後の最後に、影が……笑ったような気がした。

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