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理想の布団様とアメーバ人  作者: アルタ
第2章 お手製サバイバルグッズ
20/34

20 鏡が仕事しない

「*#%&”」

「ただいまっす~」

 来客があったのは、ちょうどデザートを取り出したころだった。


「おかえりー……って、え!? ええっ!?」

 クララの分も切っておいて良かった、なんて考えながら振り向いた私はビックリして固まってしまう。だって、そこに立っていたのは、大量の荷物を持ったクラウス君と……謎の美女だったからだ。誰?

 黒い艶髪を綺麗に纏め上げ、黒いワンピースに白いエプロンを付けている姿はまさにメイドさん。ワンピースの丈がロングなのはいかにも正統派という気がする。無表情で大荷物を持ち上げていた彼女は、私が空けておいたスペースに紙袋を積み上げて行った。


「先に仕分けするっすかー?」

 そのしゃべり方はクララ……だよね!? いったいその姿はどうなっているんでしょうか。

「クララどうしちゃったの? ねえ、成長期なの??」

 私の半ば悲鳴にも似た質問に、彼女は「だって、エルフの姿じゃないと買い物できないっすよ~?」と軽く答えた。たしかに、その姿なら「ご主人様のお使い」を理由にどんな店にも入れるだろう。いやはや精霊って……すごいんだね。


 それに、てっきりタオルとか細々した旅行グッズ程度をイメージしていたから、単身赴任するサラリーマンクラスの1人暮らしセット以上の大荷物におっかなびっくりだ。どう考えても子どものお小遣いレベルじゃないよ!

 この恩に見合った対価を払えるのかという考えもあって、どれから開けていいものか手が泳ぐ。あわわわわわ……

 挙動不審になった私を面白そうに見つめると、彼はとりあえず先にデザートを食べてしまおうと言い出した。




 クラウス君と精霊達、私でウォーターメロロンを囲む。ウォーターメロロンはスイカより少し小ぶりで、種がなくてさっぱりした味の野菜だ。果肉は黄色い。

 早速クララが買ってきてくれた果物ナイフでメロロンを切る。これがなかったら、木の棒か石のハンマーを装備してスイカ割に挑戦するところでした。そして、綺麗な白磁の皿4枚に取り分け……かぶりついた。

「美味っ! 甘っ!」

「++**&&%%」

 ちなみに前者が私の感想で、後者がクラウス君である。私には彼が何を言ってるのかわからないけれど、嬉しそうな笑顔なので、自分と同じ感想を言ってるのだと推測する。


 なんて、美味しいデザートをシャクシャク頬張りながら、明日手に入る予定の蜂蜜を何に使うか皮算用していると、目の前の美少年は食べかけのウォーターメロロンを皿の上に置いた。

『ところで、一つ提案なんだけどね』

 ハンカチで綺麗に手を拭いてから、彼はサラサラとメモに書き付ける。

『精霊のように変身とまではいかないけれど、印象魔法というのがあって、他の人から見える姿をごまかすことができるんだ。いくつか条件付きだけど、買い物に出かけるくらいならできるようになるよ?』


 かけてみる? という言葉に思わず手が止まる。

『え? そんな都合の良い魔法が!?』

『ん~、実際に髪の色や体格が変わる訳じゃないんだけど、ぼんやりと「こんな印象だった」と相手に認識させる感じかな。ざっくりした魔法だから、髪は赤色、肌は褐色とかね。顔のパーツまで指定するのは難しいから、抽象的になっちゃうけど』

 今の私は、銀の髪に白い肌だ。アルオが褐色だから不思議に思っていたのだけど、本人(?)が「褐色の方がワイルドで格好良い」と、印象魔法をかけたのかな。いや、彼等は変身できるのだったか。


 すごく便利な魔法だと思う。思うのだが……うまい話には裏がある! 前回それで私は録に契約書も読まずにサインしちゃってるからね、学習するよ!

『条件付ってなにかな? あと、なにかデメリットとかあるのかな?』

 そんな私の問いかけも予想していたのか、彼はスラスラとペンを走らせる。

『主に3つ。一つ目は、術者である僕しか解くことができないこと。二つ目は、僕より魔力の大きい者には効果がないこと。三つ目は、元に戻ったときに自分だと証明するのが面倒なこと』

 ふむふむ。


『一つ目について、もし僕に不慮の事態が起こったら……例えば、魔力を緊急確保しないといけない場合や死亡した場合は自動的に解除されるから安心してくれていい。二つ目について、僕はこの国でも十本の指に入る程度の魔力はあるから、日常生活に支障はないと思う。たとえ見えても、教会で保護されてる子は髪を銀色に染めているから、なんとか言い訳の仕様もあるかな。僕以上の術者が知りたければあとで教えるから、君の判断に任せるよ。三つ目は当然の反作用だよね』

 魔力はクラウス君から提供されるらしい。


 どう考えても美味しい話だ。でも、

『どうしてそこまでしてくれるの? 恩返ししたいけど、今の私じゃ返しきれないよ』

 正直、甘えっぱなしは心苦しくて仕方ないのだと主張する私に、彼はにこりと笑った。

『お礼と口止めと、あとは……今は秘密。それよりも、魔法どうする? 明日にする?』

 どうやらこれ以上語る気はないらしい。お礼は分からないけれど、口止めはあの( )内の名前かな。別に、言わないでって言ってくれれば、秘密にするのに。その辺の分別はあるよ。


『印象って、私が指定した雰囲気に出来るの?』

 本人が言いたくないなら、一旦引くことにして、私は質問をぶつけてみた。

『例えば?』

『かっ……可愛い……感じとか。あ、いや、別に、出来ないならいいんだけどね、ちょっと聞いてみたかっただけで。本当にね、ほんとだよ?』

 思わず小さな文字で隅っこに書いてしまう。でも、結構切実な問題で。水鏡しかない環境にいるせいか、自分の顔が気になってしまうのだ。女の子なら、ちょっと試してみたいとか思っちゃうんじゃないかなぁ。


 そんな私を不思議そうに見つめ、彼はコクリと頷いた。

『確かに、今のままカラーリングだけ変える印象魔法かけても目立ちそうだね』

 そんな大層な御面相ですか!?

 真っ青になる私。てっきり平凡な前世同様、平凡な顔をしていると思ったよ。


『やっちゃってください。よろしく!』

 かくして、私に印象魔法がかかったのであった。




「ますたー、髪の色が茶色ですぅー」

「見事に化けたっすねー」

 精霊達は意識すればどちらの姿も見られるらしいので、チェック役になってもらった。その間、クラウス君はごそごそと黄色い紙袋に手を突っ込んで何か探している。そして、ついに探し当てたのか、中から何かを取り出してこちらに差し出した。

 見ればそれは……小さな手鏡。


 おそるおそる鏡を覗き込むと、そこには可憐な雰囲気をもつ亜麻色の髪の少女がいた。


 が、しかし。


「うあああああ、これ、私もぼやけてよく見えないよ! 鏡仕事しろ!」

 見事に私も幻惑に引っかかって、見えないのでありました。目と鼻と口があるのは分かるんだけどね。っていうか、手鏡があるなら元の顔見ておけばよかったよおおおお。

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