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理想の布団様とアメーバ人  作者: アルタ
第2章 お手製サバイバルグッズ
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17 昨日の献立連絡帳

 甘いものを食べたら、脳に糖分が回ったのか昨日のことを思い出してきた。むしろ、やらかしてしまった記憶が浮上してきたというべきか。私は恩人の家を魚まみれにした挙句、庭でキャンプファイアー、お土産を差し出す隙を与えず焼きアユーナを食べさせ、先に寝るというね。もうね。

「穴があったら入りたい!」

 子供か、私は! とセルフツッコミしちゃうよ。体力の限界まで動きすぎだ。多分、彼は何か話があったのだと思うのだ。もしかすると私の質問に答えようとしてくれていたのかもしれない。


 学院産のカラシュ麦のクッキーをもう一枚口に入れる。

 このクッキー、購買部で買ったのかな。人気商品だと私の鑑定スキルが伝えてきたから、もしかすると並ばないと買えないものなのかもしれない。そんな貴重なものを手土産に持ってきてくれたというのに、私は、私はああああああ!

「恥ずかしいっ! でも、クッキー美味しい。あと1枚食べたら取っておくのよ、私」

 人気のクッキーならば、彼も食べたかったに違いない。……呆れられたかもしれない。私は聖人君子でもなければ、人格者でもないことは十分承知しているのだけれど、近しい人に嫌われるのは堪えるからさ。だから、自己完結型のアメーバになりたいと思っちゃったりするんだけどさ……。


 ずーんと落ち込む私にアルオは何か言いたそうにパタパタと周りを飛ぶ。百面相……という呟きが聞こえたような気がするけれど、どうとでも言うがいい。

 テーブルの上に突っ伏すと、クッキーの紙袋がガサリと倒れた。木でできたテーブルは冷たいのにどこか温かい。檜のような香りがすっと鼻から沁みこんだ。そうしたら、少し心が落ち着いた。


「アルオ~。……クラウス君何か言ってた?」

 紙袋を立て直す褐色の精霊さんをみると、ぷふーっと噴出した。え、何を思いだしたんでしょうか。

「とっても楽しそうにしていたよ。それと、もう一つ預かっているものがあるんだ」


 そういって彼が棚から持ってきたものは、1冊の本だった。厚みは5ミリほど、大きさはB6版くらいで、綺麗な装丁が施されている。表紙は皮のような手触りだけれど、とても軽くて堅い。蔦模様の形に金箔が押されていたが、タイトルは見当たらなかった。かわりに、スケジュール手帳のように留め金のようなものがついていた。

 マグネット式になっているのか、留め金に手を触れれば、いとも簡単に開く。真ん中は白紙。慌てて最初のページを開くと、『連絡帳』と丁寧な字で書かれてあり、その右下に『クラウディス・ルナガルデ』『アルテミシア』と二人の名前があった。

 次のページを開くと、『光の月37日』と日付が左上に記されている。そういえばセーブブックにも日付の記載があったと思い、鞄から取り出して広げた。


『<光の月35日>

 アルテミシアは体力が3上がった。

 魔力が10上がった。

 スキル「鑑定レベル1」を取得した』


 現在、鑑定スキルはレベル5まで成長している。37日は昨日の日付だから、今日は38日か。一月は一体何日あるんだろう。

 2ページ目に差し掛かったセーブブックを鞄に戻し、連絡帳の続きを読む。


『<ミーシャへ>

 僕は、色々言葉が足りなくて……聞きたいことも、不安なこともたくさんあると思うのに、なかなかゆっくり話せなくてごめんね。直接話すのが一番手っ取り早いけれど、今は話し言葉が通じないから、連絡帳という形にしてみました』

 クラウス君……!

 私は感激のあまり連絡帳を持ったまま震えた。なんていい子なんだろう。得体が知れなくてちょっと怖いなんて思ってしまった私をお許しください。よく考えたら、学生って昼間授業があって、夜も宿題があるのに、わざわざ会いに来てくれたんだよね。しかも、食べ物まで持ってきてくれて。


『左側のページが僕、右側のページがミーシャのエリアだから、書き込みたいときは念じながらページをなぞってね。消すときも同じ要領だよ』

 なんと、ある意味アナログな世界だと思っていたのに、スマホみたいなシステムなんですね。この本には魔法がかかっているのかなぁ。もしかすると、留め金も、中に書かれた二人以外外せないような仕様になっているのかもしれない。


『あと、川のあたりまでは結界を張っているけれど、完全に森の中が安全とはいえないからね。クララに護身用の道具や生活用品を買いに行ってもらうから、今日は大人しくしててね。ほんと、ビックリしたよ。無茶しすぎ』

 あっ、すみません。そして、クララの姿が先ほどから見えないのはそのせいだったのか。買い物……いいなぁ、ちょっと憧れる。


 前世でも買い物は好きだった。珍しいものや綺麗なものは見ているだけで癒される。初めて見るものはわくわくするし、使い勝手の良さそうな道具には、それが家にあったら生活がどんな風に変わるだろうと想像をかきたてられた。クララ、羨ましいぞ。引き篭もりの私といえど、商店街には興味があるんだからね。単に『魔術師・騎士・王族・貴族・宗教』がNGなんだからね。

 ……って、総額いくらぐらいになるんだろう? 私現金の持ち合わせがないんですが、現物支給か出世払いにしてもらえるのかな。まずい、借金からのスタートフラグが立った気がする。


『んー、場所が余ったから、今日の寮の献立を書くね』

 それって、食べ物に興味があるでしょう? といわんばかりの台詞だと思うんですが、正直否定できない。むしろ、この短期間でよくご存知ですねといわざるを得ない。大当たりだよ!。


『知ってのとおり、僕は学生です。学院のシステムは知ってるかな。満8歳から18歳までの間、勉強するところだね。その10年間は基本的に寮生活です。今日の夕飯は、モウブルのレッドシチュー、セザミンのパン、ミモザサラディーヌ、ミルク。昼は、ベーコンとタレスのパニーニ(=サンドイッチのこと)、あと、恥ずかしながら朝は寝坊して抜いたので分かりません』

 なんだろう……微妙に翻訳されているのか、うっすらと献立が判る気がする。そして何気に肉がっつり、コレステロール多めのメニューだな。魔法を使うとお腹が空くのだろうか? はっ……魔法でダイエット? 素敵すぎる!


 それにクラウス君も朝寝坊するなんて可愛いところもあるんだなぁ。隙のない立ち居振る舞いからは、慌てる姿が全く思い浮かばないよ。……なんて微笑ましく思っていたら、ふと、何かが引っかかった。この連絡帳、何かを連想させるんだよね。うーん、文通みたいな、いや、もっと甘酸っぱい何かを。

 思い出せないとなんだか気になって仕方がない。うーん、うーん。


「ますたー、今日は何する? おうちで何かする?」

 すっかり考え込んでしまった私に話しかけるアルオ。いや、今、なにかこう、むず痒いような何かを思い出そうとしているのだよ。

「今日はー家でーなんかー作るー」

 考えながら答えたものだから、生返事もいいところだ。

「何作るの?」

「んあー」

「マスター?」




 結局、その正体が『交換日記』だと思い出したころにはすっかり昼になっていた。交換日記って、古風にも程がある。そして甘酸っぱすぎる連想にのた打ち回ったのはここだけの秘密である。

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