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理想の布団様とアメーバ人  作者: アルタ
第2章 お手製サバイバルグッズ
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13 E:お手製の火起こし器

 森の奥でガサゴソという音はしていたものの、懸念していた魔物には出会わなかった。この体では逃げ切れる自信がなかったので、ホッと胸をなでおろす。良かった良かったと、家に戻って玄関を開けようとしたら、手が震えていたけどね。基本的に私はチキンのようです。


「生還したどおおおおお!」

 勢い良く扉を開け収穫物を床に置くと、任務完了の達成感を噛み締める。ぐっと拳を握り、イヒヒと笑えば、アルオとクララが額に手を当てるポーズをした。それ、すごく……残念な子を見る目なんですが、ダメでした?

 でもね、でもね、着々とサバイバルレベルが上がっているからね! 帰る途中でセーブブックが光って、レベルアップを告げてくれたし。まあ……残念ながら、新しいスキルは覚えなかったけれど。できるなら、気配察知やら危険回避なんてスキルを授けてもらえると嬉しいなぁ。


 さて、本日の収穫は、ミニオレンジアの実32個・樹皮5枚・ウォーターメロロンの実3個・バターシアの実10個、そして未鑑定の魚20匹だ。魚は寄生虫がいる可能性もあるから、しっかり加熱しないと齧ることもできない。ゆえに鑑定も出来なかったのだ。いや、果実類も本当は火を通した方が良いのかもしれないけれど。

 火に関しては、帰る道すがらに良く乾いた木を拾ってきてある。昔やった火起こしに挑戦してみようかと思って。木くずを摩擦熱で燃やして作る方法は原始的だけれど、金属を打ち付けて火花を飛び散らせるよりは、安定して火を起こせると信じてる。虫眼鏡方式は肝心の材料がネックなのよね。一番筋力は要らなさそうだけどさ。



 休みたい気持ちを抑えて、冷たい井戸水で魚を丁寧に洗った。大量に手洗いすると手がひりひりするので、ハンドクリームが欲しいところ。さっき採ってきたバターシアの実が、いい感じに油分を含んでいたので、生活が安定したら作ってみたい。バターシアのみだと柔らかくなってしまうので、蜜蝋が欲しいな。でも、自分で蜂の巣取りは勇気がいるよなぁ。

 だめだ。欲しいものが留まるところを知らない。こんな欲にまみれた根性でアメーバ生活など出来るもんか。自重せねば。自重。


「ますたー、こっちの魚洗い終わったよー」

「じゃあ、あそこの葉っぱの上に並べてくれる?」

 はーい、と元気良く返事してアルオが向かった先には、床に敷き詰められた葉っぱ。本当は調理台の上で作業できればよかったのだけど、私の背丈では届かなくて。勿論葉っぱは丈夫なものを、綺麗に洗って敷き詰めている。

 包丁? まな板? そんな文明の利器があるならば、魚と交換していただきたい。切実に。


「ああっ、ダメだ。また物欲に支配される。足るを知れ、私」

「本当に見てて飽きないっすねー」

 魚を高々と持ち上げて自分に言い聞かせる私を見ながら、クララは無表情のまま呟いた。

「クララはもうちょっと豊かに感情表現をしてもいいと思うよ。というか、私のことはいいから、洗った果物を丁寧に布で拭いてね」


 私とアルオは魚係、クララは果物係をしている。

 そろそろ外も暗くなってきたので、夕飯の準備をしているのだ。火にくべられそうな木材には限りがあるので、なるべく先に魚の下ごしらえをしてしまおうと思ったのだけど、なかなか思うようには進まない。

「次はー?」

 じれたようにこちらをのぞきこんでくるアルオは、初めての体験が嬉しくて仕方ないらしい。


「次は火をおこします」

「魔法で?」

 くうううっ! 言うと思ったよ! ああ、予想はしていたさ。

「魔法なぞ、ない!!!」

 なんでもかんでも超能力に頼るの良くないよ。ほら、スランプとかあるかもだし、魔力がなくなったときに困るし? 第一、体を動かせばできることにホイホイ使うのって勿体無くないだろうか?


 私は、集めておいた木切れと細い蔓を組み合わせて、簡単な火起こし器を作成した。といっても、小学校の理科の時間で使ったような簡単なものだ。錐揉み式よりは少し作業が楽になるよう配慮した十字式(正式には舞きり式というらしいけど、あそこまで本格的ではないので十字式ということにしておく)だけれど、基本は死に物狂いで棒を回して摩擦熱で火をおこすというもの。一応下に乾燥した細かい木くずを敷いたけれど、これ本当に火がつくのかなぁ。

 ……考えても仕方ない。なせば成る。なさねば成らぬ。


 魔力を使わない生活なんて、なんか面白いねぇ~と、やたらご機嫌なアルオに、しっかりとこちらを見るよう促す。毎日やるの大変そうだからさ、日替わりでやってもらうと思うんだ。手の皮むけそうだし。本人力仕事が得意って言ってたし。お、押し付けようなんて思ってないんだからねっ。


「この木をぐりぐり回すと、ほら、ちょっと先があったかいでしょ?」

 軽くデモストレーションしてみせると、アルオは感心したように頷いた。この作業をもっと素早くやることで火をおこせるよと説明すれば、ワクワクしたようにしゃがみこんで待つ。

 あー、最初の一回は私がやらなきゃダメなんだよね。うう、実はデモストレーションだけで結構腕がだるいんですけど。


 でも焼き魚のためには動かないとね!

 物欲はともかくも、食には妥協したくないよ!

「こうやってえええええええ、まわしてえええええええ、まさつううううううう」

 近い未来に食べられるであろうホクホクの焼き魚を想像し、それを心の支えに私は必死で火をおこした。キャンプに行っても着火マンで火をつける文明の国に住んでいた身としては、甚だ不本意ではあるが。


 で。

 結論から言えば、成功しました。

 煙が出てきたときに、1回強く息を吹きかけすぎて木くずを飛ばしてしまうというアクシデントはあったけれど、なんとか小さな種火は確保できた。それを徐々に育てて大きな火にし、家の前にちょっとしたキャンプファイアーもできた。


 しかし、誤算はそこへたどり着くまでに1時間近く回し続ける破目になったことだ。

「腕が……上がらん!」

 手がだるいというか、指先に力が入らないのだ。石器時代の人は筋肉が発達していたのだなと、感心せざるを得ない。

 ゾンビのように手をだらんと下げている私の横で、アルオはキラキラとした視線をこちらに向けてきた。うん、明日は君に頼むからね。明日頑張ろうね。本当に明日は頼むよ!

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