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理想の布団様とアメーバ人  作者: アルタ
第2章 お手製サバイバルグッズ
12/34

12 E:お手製のモリ

 身の心配をしても仕方がない。昨日、あれだけザクザク森の中を歩いたわけだし、こちらも命を貰うからにはノーリスクって訳にも行かないでしょ。

 というわけで、現在お手製のモリを持って川の前にいます。ええ、火かき棒に、堅い木の枝を括りつけたレベル1のモリを持って! いや、これで本当に獲れるんでしょうか。いえね、一応たくさん魚が泳いでいるスポットをみつけて、石で囲い込んだ簡易いけすは作ったんですけど……。


「こんなにたくさんいるなら網ですくえばいいじゃない!」

「モリで魚を取るのは男のロマンなんだよ!」

「ロマンで腹はふくれないっすよ~」

 私が何回チャレンジしても、するりと逃げられてしまうのだ。しかも、思いっきり石に突き立てて5本ほど枝を折っている。ボロ布を巻いているとはいえ、いい加減手も痛いし。いっそ手づかみか。いやいやいや、早まるな! あいつら思ったよりぬめるから。あと地味に歯の攻撃力が高いから。


 ゲームにおける『釣りシステム』はボタンを連打すれば大抵サクッと釣り上げてくれるという便利なものだ。でも、釣竿みたいに長くて引っかかるものを持ち歩くなんて、実際のところ4次元ポケットでもなければ無理のような気がする。だからといって、モリも現実的じゃないけれど。

 休憩のために、モリを手元において座り込む。疲れた。

「……ツルでも取ってきて編むかな」


 これぞまさしく泥縄だと思うのだけれど、どう考えてもこのままじゃ埒が明かない。

 目の前には美しい川、キラキラと輝く魚。これが旅行に来ているのならば、近くのお食事処で釣りたての焼き魚を食べさせてもらうところなのに、現実が恨めしい。

「おかしいなぁ、エルフなら出来ると思ったのに」

「出来るかっ!」

 むしろ、どうして出来ると思ったのか聞きたい。


 手ごろな石を掴んで積んでいると、なんとなく賽の河原をイメージしてしまって余計に落ち込んでしまった。積んでも積んでも鬼が蹴散らしにやってくる。されど石を積み続けるむなしさよ。

 ごろりと耐え切れずに崩れた石の塔を見ながら、アルオはよく日に焼けた褐色の頬を軽く手で掻いて首をかしげた。

「ますたー、もしかして魔法使えないの?」


 ……使えたら、とっくに使ってるわーっ!




 私のやったことしかできないのだというアルオは、同じく魔法を使うことが出来ない。そして魚を捕ることも出来ない。一度でも成功すれば、その体験を元に同じことを出来るようになると聞いたのだけれど、その一度のハードルが高いのだよ。

 アルオが言うには、エルフは魔法で相手の動きを鈍らせることができるそうだ。それなら簡単に仕留められるね! ……って、そっちの方が難しいがな!


 魔法が使えないなら仕方がない。自分の技を磨くか、道具を工夫するかのどちらかだろう。そして私は道具を工夫することを選んだ。

 まずは、木の枝。堅い枝で、なおかつ返し刃となる枝があるものを選ぶ。それから火かき棒との連結部分には、少し弾力のある樹皮を間に噛ませた。そして、それらを結びつけるツルは、簡単に解けないよう×の字を描くようにして巻きつける。本当はゴムやスプリングの方がうまくいく気がするんだけどね。


 私は、しばらく離れていたいけすにそっと近づき、そこで静かに待った。危険だけど……危険じゃないよー、自然物の一つだよー、と油断させるためだ。勿論影も落とさないように気をつける。そうしながらも、水面下をくるくると動く魚を観察した。キラキラと光を反射する鱗が綺麗だ。


 ザアアアアアっと水が流れる音がする。心地良い音に身をゆだねながら、魚を見る。ある程度大きいのは、きっと経験を積んでいるはずだから、若そうな魚を探し、じっと機会を待つ。

 動き疲れた魚が、動きを止める。その瞬間、ひゅっと落とすようにしてモリを繰り出すと、確かな手ごたえが返ってきた。

 体をくねらせて跳ねる魚の振動がモリを伝って手に響く。それがなんだか、生き物を手にかけてしまったという実感を連れてきて、正直なところ……重い。けれど、自分の手を汚さずしてサバイバルなど出来るわけがないのだ。だから仕方がない、仕方がないと自分を納得させた。


「ますたー、やったね」

 こそっとアルオがガッツポーズをとりながら小声で囁く。

「……うん」

 ビチビチと跳ね続ける魚を、ぼーっと見つめながら私は頷いた。どこか他人事のように感じてしまったからかもしれない。

 それから2匹ほど獲った。再び、最初に獲った魚を見ると、もう動いていなかった。


 なんだか疲れてしまったので、心なしかヌメヌメするモリをアルオに渡し、クララと食べられる実の採取へと向かう。採取は、手近にある実をもぐだけ。これなら簡単にクララに教えることができる。

「これがミニオレンジア。比較的低木に生るから、私でも採取できるんだよね」

 きゅっきゅと軽く拭いて鞄へ突っ込んだ。しばらくはこれにお世話になりそうだ。蜜柑を食べ過ぎたときのように、手が黄色くならないと良いけれど。


「ミニオレンジア」

 クララが、この世界の言葉で発音しなおす。

「みにおれんじあ?」

 それを私がなぞると、彼女は満足そうに頷いた。


 川から離れないよう、ちゃんと戻れるように、比較的見通しの良いところを歩く。日当たりが良いせいか、思っていた以上に豊作だ。少し高いところにある果実はクララが採取してくれる。うん、正直、私よりもよほどたくさん見つけてくるよ! やはりこういう作業は、飛べるほうが断然有利ですよねー。


「飛べっ! フラーイ! ジャンプ強化っ! 浮け! もういい、そこの果実、もげろっ」

「アルテミシア……見てるこっちが恥ずかしいでんがな」

 ここでふわっと魔法が発動するのが王道チート転生物語でしょうに、ちょっとは空気読んでくれてもいいのよ? と、まあ……当然ながら何も起こらなかったですけどね。ううっ、いたたまれない。



 ちなみに、両手いっぱいに戦利品(採取した食糧)を抱えて戻ったら、アルオも桶に山盛りの魚を獲ってました。

 精霊さんたちの方が私よりもよほどサバイバルに適応しているという。主としての威厳がありません。むしろ、弟子に半日かからず追い抜かれてしまった師匠のようなポジション……なんだかしょっぱいぜ。

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