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理想の布団様とアメーバ人  作者: アルタ
第1章 異世界は意のままにならぬことの連続である
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1 プロローグ

息抜きでポチポチと着地点を決めないまま書いているお話です。ニッチ向けかつ自己満足でしかないので、あわないと思われましたらすぐに引き返していただきますようお願いします。

 ふと、『アメーバ』が自分の天職ではないかと思い至った。

 最大のお仕事は分裂して自分を増やすこと。自己完結型なので、お相手はいらない。ひたすら己を磨き、栄養を貯め、大きくなったら分裂する。単細胞生物になったことはないけれど、遺伝子レベルで組み込まれているはずだから、分裂出来ないということはないに違いない。こつこつと、ひたすらこつこつと。たまに突然変異なんかしちゃったりするのだろうか。

 ああ、まさしく天職だ。私向けの職種といっても過言ではない。


 事の発端は、理想の彼氏とやらについて考察したら『布団』に行き着いたという記事を見たことだったように思う。最初は冷たいと思っても、しばらくすると何も言わずに温かく包み込んでくれるあの包容力。離れがたさ。

 大好きです。布団様。

 人生に疲れた私の唯一の味方はあなたです。


「……というわけで、私、転生するならアメーバを希望しているんですよ」

「いやいやいやいや、訳わかんないから! いくらなんでも人間捨てすぎじゃない?」

 大空を舞う鳥になりたいとか、気ままに生きる猫になりたいという人間はいたけれど、アメーバとか予想の斜め下過ぎてありえんわ、と目の前にいる存在は慌てた。

「だから私、次の転生先で人間でなくても良いので。是非! アメーバでお願いします」

「だから君ね、人間だった魂ってのは結構、貴重で……」

「アメーバで」


 ここは、死後の世界とでもいうのだろうか。次の転生先を楽しみにしている魂の列が後ろにはずらりと並んでいる。私自身、いつの間に死んでしまったのか記憶に定かでないのだが、死ぬ寸前の記憶があってもちょっぴり怖いので、まあ良しとしておこう。起こってしまったことは変わらない。

 どこかのアトラクションのように、列の横には「初心者でも良く分かる転生システム」と題された掲示板が等間隔に立てられていた。それに書かれた説明によると、どうやら魂にはグレードがあるらしい。人間から人間への転生は簡単だが、魚やトカゲなどから人間に転生するのは難しいのはそのためで、ゆえに、魚は両生類に、爬虫類は鳥に、猿は人間になりたいと希望することが多いらしいのだが……そんなことは私の知ったことではない。

 今の私が希望するのはアメーバ一択。


 ぐっと握りこぶしを作って力説すると、目の前の神様の使いだかなんだか良く分からない存在はため息をついて、「君、もう少し頑張ったら天界人として馬車馬のように働けるのに……」と呟いた。なんか不穏な言葉を聞いたような気がするけれど、聞かなかったことにしておく。

 結局、「この世界じゃ、ダウングレードし過ぎになるからアメーバは無理」と職業選択の自由を否定され、私は異世界とやらに飛ばされることとなった。


「何で異世界!?」

「きっとアメーバよりも素敵な人(?)生が送れる! ハイ、次の方どうぞー!」

「もう人間は嫌なんですけどおおおおおお」

「大丈夫、人間じゃない! ハイエルフだから!」

「何そのファンタジックな設定!?」

 そう叫んだが、私の魂は問答無用で強制送還されたのだった。



◇◇◇◇◇



 転生って言うから、てっきり目が覚めたら若い両親がこちらを覗いているなんてシチュエーションを期待していた私が馬鹿でした。ええ、とても森の中です。ここ。

「よっこらせー!」

 まさかね、まさか……木の幹から生まれるとは予想外ですよ! と、そこまで突っ込んでおいて、前世の記憶がある自分に愕然とし、私は地面に突っ伏して絶望した。何で記憶が残ってるんだよ。せめてこういうときはゼロからスタートしたいと思わざるを得ない。主に私の精神衛生上。


 3分ほど現実逃避のために不貞寝してみる。自分の身体やら周りの状況を確認するのが先だと理性は告げているけれど、これを受け入れてしまったら負けのような気がするのだ。というわけで、ごろりと木の幹を背にして丸まってみる。しかし、夢から覚めることはなかった。

 地面に目を向ければ丈の短い草が生え、空を見上げればうっそうと生い茂った樹木が枝を伸ばして覆い隠している。夜露に濡れているのか、心なしか地面がひんやりとしていた。


「なんであんなコントみたいなやり取りで次の人生決まっちゃうかな」


 しかもハイエルフなどというファンタジーな存在である。某世界的に有名なファンタジー作品の映画に出てきたエルフとやらは大層な美形ぞろいで、見ていた私は胸を躍らせていたものだが、美形は遠くから眺めるに限る。まあ、自分が美人かどうかはまだ分からないのだけれど。

 仕方なしに起き上がると、髪についた砂がパラパラと落ちた。とりあえずは現状確認しよう。


 手を前方に伸ばし動かしてみると、白くて小さな手が目に入った。形の良い桜貝色の爪が大変愛らしい。背丈は多分百から百二十センチほど、ということは幼稚園児くらいか。0歳で森に放り出されても生きていけないのは分かるが、生まれてすぐこの姿というのはどう考えても違和感を拭えない。

 零れ落ちる砂を手ではたくと、肩口まで伸びた銀糸のような髪がふわりと舞う。エルフって金髪か銀髪がデフォルトなんですかね!? ここに鏡がないことが悔やまれます。できれば絶世の美貌などという厄介な顔立ちではなくて、普通を希望したい。

 性別は女。まあ、全裸にならなければ男といっても通ると思う。幼女だから。


 次に持ち物だが、まず身につけている白いワンピース、白い靴、白い下着。ゲームで言えば初期装備なのだろうけれど、よりにもよって汚れの目立つ白一色という事実がしょっぱい。着替えが欲しいなぁ。

 それから木の幹に入っていた肩掛け式のポーチと白紙のペーパーブランク一冊。ポーチは林檎2個分ほどの大きさで、可愛らしいオレンジ色をしている。材質は皮製だろうか、すべすべとした手触りが心地良い。白紙の本は真紅の皮製表紙に金色の箔押しがなされている。サイズはタバコの箱くらい。白紙の本があるなら筆記用具も欲しかったのだけれど、贅沢はいえないか。


 これからこの身体と持ち物で森の中をサバイバルしなければならないと思うと、正直無理すぎる気がして泣きたくなったが、ないものは逆さにしてもないのだ。嘆いていても仕方あるまい。女は度胸だとお母さんも言っていた。死んだら今度こそ本気でアメーバにしてもらうんだ!


 そこまで考えて、私はふとある可能性を思いつき、いそいそと本を鞄に仕舞いこんだ。おもむろに両手を合わせて「むむむむ」と唸る。

「いでよっ! 水うううううう!!」


 ……。


 うん、魔法は……使えないみたいね。



 3秒ほどしてから、私は再度恥ずかしさのあまり不貞寝した。

 だってさ、ハイエルフとか言われたら魔法使えるかと思うじゃん。ファンタジーの醍醐味じゃん。幼女ながらすごい魔力とか、チート能力を期待して何が悪い。中二病と言われようと甘んじて受けるよ!

 ぐすん。

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