表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様の娘  作者: 神崎右京
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/350

43、造物主④

 手元の歴史書にはなかった話に、アリアネルは身を乗り出して尋ねる。

 正義と戦を司る正天使の役割は――人類の敵である魔族を滅ぼし、魔王を打ち倒すこと。

 そのように書かれていることが殆どだったからだ。


(でも――そっか、そうだよね。初代正天使の時は、まだパパは魔王じゃなかったし、魔族なんていなかったんだから、正天使の役割は、魔族に関係ないところにあるはず――)


 人間が語る歴史が偏っている、と魔王が呟いた理由に納得しながら、元天使の横顔を見つめると、魔王は小さく嘆息した。


「人間同士で争いが起きたとき――どちらかが悪で、どちらかが正義ということは、殆どない。どちらも、互いの信念に基づく『正義』を掲げて武器を取る」

「!」

「人間界の理だけでどちらが正しいかを断ずることは難しい。どちらにも言い分があり、どちらにも正義がある。……だからこそ、戦争は長引き、どちらが勝っても負けても恨みが残り、再び不毛な争いが生まれる」

「…………」

「争いそのものを無くすことは難しい。……では、争いが起きたときに、『こちらが正しい』と人間界とは異なる理で、絶対的に断じる存在がいれば――争いは早く終わると思わないか」


 ぱちぱち、とアリアネルは大きな瞳を何度か瞬く。

 ゆっくりと言葉を噛みしめて咀嚼しているらしい幼子に、魔王はチラリと眼をやってから言葉を選び、補足する。


「正天使は、正義と――戦を、司る。……つまり、人間界における争いごとは全て、正天使が『こちら側の言い分が正しい』と断じた方が『正義』と断定され、正天使が『こちら側を勝たせる』と味方した方が勝利する」

「えぇ!!?な――何それ!?」

「つまり、()()の気を惹いた者は、どんな戦争でも最速で必ず勝てるということだ。――故に、顕現などしなくても、伝説上の存在として古来より人間界において『正天使』の存在は崇められ、常にその力を欲する権力者ばかりだった。……そういう愚かさこそ、正天使に最も嫌われる要素とも知らず、本当に人間と言うのは、愚かな連中だ」


 馬鹿にしたように言ってのける魔王に、アリアネルはあんぐりと口を開く。そんな超常現象にも等しい行為が許されると言うのか。


「で、でも――じゃあ、正天使が間違った判断をしちゃったら――!」

「しない。……しないように、造った。……必ず、どんな時も、理性的に行動できるように。決して情に流されて判断を誤ることなど無いように。他人に厳しく、己に厳しく、どこまでも公平で、公正で、誰よりも賢く清廉潔白な存在であるように――そう、造った」

「まるで、魔王様そのもののようですね」


 ゼルカヴィアが苦笑して呟くと、魔王はふっと視線を遠くへ投げる。

 天界における生殺与奪の権利を一手にしていた命天使と、人間界における『正義』の全てを手にしていた正天使。


(――確かに、俺たちは似ていたのかもしれないな)


 心の中で、静かに認める。

 似ていた。――似すぎて、いた。

 だから、互いを尊重し合い、対等に意見を交わし、共に世界をよりよく導くために行動し――


 ――その道を違ったとき、どうしようもない結末を、受け入れざるを得なかった。


「じゃあ――二代目の正天使が顕現したときは、お祭り騒ぎだったのかもね……」


 アリアネルはスケールの異なる話に呆気にとられながらも呟く。

 伝承としてしか残っていない『正天使』が目の前に現れたとき、時の権力者たちは歓喜したことだろう。

 初代はめったに顕現しなかったとはいえ、目撃例がなかったわけではない。伝承と同じく純白の羽を持ち、黄金の髪をした紅い瞳の人外の存在が、人間滅亡の危機に降臨して、自分は正天使であると宣言しながらもっともらしいことを言えば、確かに信じたくなってしまうのかもしれない。


「急に表れたはずの正天使が、どうして人間たちにこんなにも受け入れられているのか、の理由は分かったけど――じゃあ、心を操るような天使はいないの?」

「いないな。俺は造った記憶がない。――おそらく、今後も生まれないだろう」

「どうして?」


 きょとん、とアリアネルは目を瞬いて尋ねた。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ