表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/101

冬美雪の劣情 EP10

「お前らはあまりに酷かった......瀬名に面倒を見てもらえ。」


部長から告げられた言葉。生まれてから初めて私は幸運だと感じたかもしれない。周りの視線が嫉妬の嵐だが気にするものか。今回は私の勝ちだ。


「あ、あの、よ、よろしくおね、お願いします!」


だが1人邪魔だな。お前"ら"と言うのは何も私1人ではない。この女、春風奏を含めて瀬名先輩の指導を受ける事になるのだから。


(はあ.....私だけだったら良かったのに。)


「うん、こっちも宜しくねー」


しかもこの女よく見れば高校初日に私にぶつかった鈍臭い芋女だ。馴れ馴れしく私に話を掛けて来るなよ。


(あ、瀬名先輩がこっちに来る!)


三年の先輩方と話をつけた瀬名先輩が自分達の元へと歩いて来る。


「オレがお前達の担当の二年、瀬名ジョンだ。好きに呼んでくれて構わないが、'さん'や'くん'は必ず付けろ。」


「はい、」


小さい声で返事を返す春風。目元は前髪で隠されていてよく見えない。ハサミで切ってやろうかな、うっとおしい。


「はーい!はいはい!」


なるべく好印象を与えたい。元気系の女子高生で行くか。


「"はい"は一回でいい。」


お母さんの様な物言いに母性、いや父性を感じる。今直ぐにパパー!と甘えたいが流石にドン引きをされたくはないので自重をする事にする。


「じょ、ジョン君って彼女さんいるんですか!」


思い切って聞いて見る。周りの新入生どもも耳を澄ませ此方へと耳を傾ける。


「...........いない。」


最初の沈黙が腑に落ちないが、取り敢えず峠は越えた。


「へ、へぇー!そ、それじゃあ、今フリーって事ですよね...........やった!」


私は両腕を上げ万歳のポーズを取る。その横で芋女も小さくガッツポーズを取るのが見えた。


(この芋女も瀬名先輩に気があるのは見て取れる。なら、先に先手を打つしかない。)


「じゃあ私、立候補しちゃおうかな?かな?なんちゃって?」


思い切った発言。他の女子部員達からの殺意の視線。だが此処で挫けるわけには行かない。少しでも可能性があるのなら前進しなければ掴めるものも掴めない。


「バカを言ってないで練習をはじめるぞ。」


しかし瀬名先輩は気にする様子もなくそう言う。惨めだな、私。


(だけど此れからつきっきりで練習を見てくれるんだ、チャンスは何度でも)


「よかった、」


隣にいる春風がボソリと言う。


(は?.......今なんて言った、この芋女?)


私に対して良かったって言ったのか?芋女の分際で生意気だ。


「何か言ったか?」


瀬名先輩が芋女に対し答える。


「いえ、」


何処かその表情は初々しく歓喜に満ちた表情だ。頭に来る。瀬名先輩は私が頂く。お前は隅で草でも食ってろよ。しゃしゃりでてくんじゃねぇーよ。お前には可能性のカの字もない事を理解しろよ。


(此奴の面を見ていると無性に腹が立つ。)


発声練習の為、外に出されたはいいがやはり恥ずかしい部分もある。そもそも瀬名先輩の顔を直視する事がほぼほぼ不可能に近い。


「さしすせそ、たちつてとを大きな声で発声して見ろ。」


瀬名先輩の指示に従い発声練習を開始する。私は難なくこなしたが.........春風、いい加減にしろ。


「うぅ、すみません。は、恥ずかしくて.......」


「緊張する気持ちも分からなくはないが、お前は此れから演劇をして行く。羞恥心を少しずつ捨てて行く努力をしろ。」


瀬名先輩の指導を私以上に受けている。嫉妬で狂いそうになる。あぁ、デ○ノートがあれば即座に心臓麻痺にしてあげられるのに。


「確か.........冬美、だったか?お前は声量に問題は無いが、滑舌をなんとかすれば普通の演技が出来る様になるぞ。だから、日頃から滑舌の練習を怠るなよ。」


「は、はい!!」


嬉しすぎる。名前を呼ばれた。死んでもいい。いや、やっぱり良くない。この人に抱いて貰うまでは死ねない。いや、死なない。


「そ、そう言えば、せ、先輩ってアニメ、好きですか?」


先輩と対峙する際にはどうも緊張して上手く舌が回らない。


「其れは演劇と関係あるのか?」


今眉がピクリと動いた。先輩は隠しているんだ。


「い、いえ、先輩も男のだからアニメとか見るのかなぁって、はは」


嫌われたくない。此処は一時撤退だ。


「........まぁ、人並みには見るな。」


うぅ、やっぱり。嬉しい。見てるアニメの名前さえ出してくれれば私もチェックをする事が出来る。


「あの、例えばで良いんで、どんな名前のアニメを見るんですか?」


「あ、あの.......私も気になります。」


チッ、春風、お前は出てくんなよ。今私が瀬名先輩と話をしてんのが見えないのか芋女。


「そうだな.....フロ○トイノセンとか?ふふ、冗談だ。」


瀬名先輩は聞いたこともない名前を出す。ただ、笑った笑顔が素敵すぎて胸がキュンキュンした。


「其れって面白ろ「あの、エロアニメ、ですよね、」


どうやら芋女はそのアニメの事を知っている様だ。クソムッツリかよ、畜生が。台詞を遮んな。


「げっ!?分かるのか........」


あぁ〜もう!瀬名先輩の慌ててる顔も可愛いな、おい!


「さっきの発言は忘れてくれ。サイ○パスとかガ○スリンガーガールとかが好きなアニメかな。最近見てて凄く面白いと思ったのはサクラダリセって何を呑気に話をしてんだ、オレ。練習に戻れ、お前ら!」


瀬名はそっぽを向き1人練習へと戻って行く。色々な表情を見れて満足だ。多分今自分の顔を鏡で見たら大変な事になってるいるのだろう。横にいる春風も髪で全体が見えないが口元が尋常ではない程に緩んでいる。


(こっち系にやっぱり弱いんだ、瀬名先輩.........ふふ、そこを狙って行くしかない!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ