Episode 34 "ステラ"
「くくく、今日は楽しい物を見せてくれたなぁ。女神であるボク........おほん、私の前であれ程の余興を見せるとは血が滾るって物だよ。」
真一達が職員室へと連れ出された後、何事もなく授業は開始され何時もの様に学校での一日を終えた。そしてステラ・ウィリアムは今一番に学校を抜け海斗へと事の続きを聞きに行こうとした矢先、真一の姿を捉える。
「む、アレは下級民の友か?かか、どれ、私が様子でも見てやろうか?」
カバンの中から小型のマイクロフォンを取り出し声を出そうとした刹那、真一の元に一人の男が現れる。ステラは無意識に身を隠し自分が何故隠れたのかを理解できなかった。
(ボクは何故、今?.....いや、それよりも、チラッと見たあの男...........)
ステラは尋常ではない何かをその男から感じ今一度、真一達がいる場所へと頭を覗かせる。
「何...........だと!?」
ステラは持っていたカバンを地面へと落とし真一の対面へと立つ男を凝視する。
(アレは.......人間か?......違う、天男の類だ。女神であるボ...私にひけを取らぬ程の美しさ、いや、認めたくはないが私以上にアレは神々しい!)
ステラは自身のカバンを拾い上げると直ぐ様、真一達の元へと走る。
「そこの下級民!!」
真一へと声を掛けるステラ。真一は振り向くとゲッと嫌そうな顔をした。
「女神である私に紹介せぬとは不敬だぞ、下郎!」
男には目を移さず真一へだけ話を掛けるステラ。表情は何時も通りだがステラの心情は激動していた。
(くっ、この天男、見れぬ!見ればボクの心が染まるのが分かる!女神であるボクは常に皆の上に立たねばならないのに、くっ)
一人称を偽る事すらも出来ない程のプレッシャーをステラは一人、感じていた。
時は少し遡り、真一が解放された頃、一通のメールが携帯へと届いていた。
「誰だって言っても今の俺には瀬名さんしかいないか。」
親は既に先に帰宅し頭を冷やすまで今日は帰って来るなと怒られた。
"今、お前の学校に向かってるが、何処で待ち合わせる?"
真一は何処か嬉しそうで悲しそうな表情を浮かべながらそのメールを返信した。
「瀬名さんとは、今日で最後にしないとな。」
真一は此れまで自分の迷惑に瀬名を付き合わせていた事に後悔を感じる。それと共に遊んだ日々は優々としたものだった事に何処か誇りを感じた。
「さて、瀬名さんと合流する為に行きますかね!」
校門を出る真一。その姿を幾人かの影は捉える様に見ているのだった。
「今日はステラという変人の相手ではないのか?」
瀬名は真一を見つけると開口一番にそう口に出す。
「いや、もうその件は白紙になったんだ........瀬名さん、此れまでありがとう.....そして、ごめんなさい」
涙を唐突に流す真一に困惑した表情を浮かべる瀬名。
「な、泣くなよ、一体どうしたんだ?」
「うぅ、すいません、オレ、海斗をぶん殴ってしまった.......それで、此れまで迷惑かけてまで協力して貰ったのに...台無しにしてしまってすいません!」
瀬名は表情を改め優しく笑う。周りの通行人達もその笑みにやられ頰を染めたり心拍を上げたりしているが瀬名は気にしない。真一の頭へと手を置き、ワシャワシャと犬の様に撫でる。
「はは、いいじゃねーか!これがまさしく青春って奴だろ!」
その優しさに真一は何処か心が安らぎ頭を今一番下げる。
「......おれ、ケジメつける為に田舎のじいちゃんが住む土地の高校で再スタートしようと思ってる。」
「そうか、それは寂しくなるな。」
瀬名は何処か寂しげな表情を浮かべる。真一はその表情に心動かされそうになるが首を振りパチンと頰を叩くと瀬名へと真っ直ぐと視線を上げた。
「....瀬名さんの隣に立てる様な立派な男になる為、瀬名さん、オレはそん時までアンタへと連絡は取らねぇ!こんな自分じゃあまた、瀬名さんに甘えてしまうかもしれない、だから「良いぜ!大人になってお前が俺に逢えるだけの強さを持ったと感じたのなら、そん時は一緒に酒でも飲もうぜ!」
瀬名はにっと笑い真一はその笑みにやられつつも頰を上げ笑う。すると背後から自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「そこの下級民!!」
真一が振り向くと最後の標的だったステラ・ウィリアムの姿があった。
「ゲッ」
(せっかくの良い締めで瀬名さんとの別れが出来る筈だったのにこの女........)




