Episode 33 "海斗と真一"
「.........」
真一はスマホを制服のポケットへとしまい海斗を一瞥するとその場を去ろうとするが肩を掴まれる。
「待てよ、真一。」
その手を払い睨み付ける。
「........どのツラ下げてオレに話し掛けてる?」
真一はそう一言残すと御手洗いから廊下へと出た。海斗は追いかけようとするが足が言う事を聞かずその場へと立ち尽くすしかなかった。
(.........真一、俺は..........俺は、お前の.......友達だ!)
両頰を叩き気合いを入れる海斗。
「謝って、また前みたいにバカしようぜ!」
にっと笑い真一の後を追うように廊下へと出る。
海斗と言う男は根が真っ直ぐで困っている人がいれば必ず助けに入る人間だ。
主人公と言う存在は常に前向きで諦めない。前に進むからこそ、そいつは主人公になる。
彼奴は一度決めた事は諦めない。時折、この様に真価を発揮するからこそ異性を魅惑するのだ。
だが真一は此処でそのふざけた王道を受け入れる程、出来た人間ではなくなった。
(くるか?.......お前が行動を起こす時は必ず窮地に立たされた時だ.......もっともさっきの台詞がトリガーになっていたらの話だがな。)
真一は教室へと戻り席へと座る。横目でステラを確認し、もう瀬名さんによる介入がなくても歯車が進む事にため息を吐く。
(海斗が動く以上、ステラを墜とす必要が無くなった。...........瀬名さん、あんたにはかなり面白可笑しく助けられたが如何やら此処までの様だ。)
目の前には海斗が立ち、自身の胸ぐらを掴み自分を立ち上がらせる。クラスメート達は驚きの声を上げるが喧嘩の仲裁をするのではなくスマホを取り出し撮影を開始したり、呟きをしたりしていた。
「何のつもりだ、海斗?」
海斗は手を離すと頭を下げ自分に対し謝って来た。
「すまない!お前を疑って裏切り者呼ばわりして!」
真一は唖然とした表情を浮かべると海斗の肩を掴み笑みを浮かべる。
「真........いッ!?」
許してくれたのだと、自分の気持ちが届いたのだと感じた矢先、海斗は頰に鋭い痛みを感じる。そして後ろの机を巻き込みながら倒れた。
「お前はゴメンナサイを言えば何でも許してくれるとでも思ってんのか?」
拳を払い海斗を見下す。海斗は血を拭き立ち上がる。そして真剣に真一の瞳を捉え自分の気持ちを伝えた。
「許して貰えるなんて思ってない!だから、.......だから、俺に時間をくれ......もう一度、俺は、お前と」
告白の様な雰囲気にガヤがフューフューと野次を飛ばしてくるが二人の耳には入って来なかった。
「友達になりてぇ!!」
男泣きをしながら自身の気持ちをダイレクトに伝える海斗。本来ならば此処で俺も、と言い王道な締めをしても良いのだが割に合わない。
(.......お前といればテメぇのケツ持ちするのは何時も俺だ.....そして、それを当然だと思い込んでる奴ともう一度友達になれ、だと?)
「........反吐がでるぜ。」ボソ
そもそもイジメ問題でさえハーレムの中核と言って良い存在の蒼井が抜けた時点で解消されていた。そして、唯一のまともな友達(笑)、九条が抜けたら俺に戻るか.........ふざけてんのか?
「真一ッ!?」
もう一度殴られその場へと倒れる海斗。
「良い加減、俺をほっといてくれよ.........何時迄も世界がお前を中心に回ると思うな。」
海斗はその台詞を聞くと怒りの表情を上げ、真一へと殴り掛かる。
「お得意のハーレムプロテクションがなきゃ、何も出来ないもんなぁ!」
「ぐはッ!」
だが真一は拳を掴むとカウンターで拳を顔面へと叩きつけた。
「俺は.......諦めない......」
海斗は立ち上がる。瞳から光が抜けていない。
(これだから主人公って奴は........嫌いなんだ)
海斗は諦めず真一へと襲いかかる。今度は中腰に構え真一の懐へとタックルをかました。近くにいたクラスメートを巻き込みながら二人とその他は地面へと倒れ取っ組み合いが始まる。
「さて授業をっ、お前たち何をしている!!」
鐘がなり教室へと入って来た教師は喧嘩を止めようとするが止め切れず複数の教師を増援に喧嘩は幕を閉じた。
「お前達は一週間の停学だ。」
その後は、長時間、海斗とは別室で説教を喰らい親まで呼び出しを喰らう事になった。殴った事に後悔はない。それに海斗の目がまだ死んでいない事が気掛かりだが.........俺はこの学校にこれ以上在学すれば、同じ事が起きると説明し転校をする事にした。




