Episode 31 "最後の一人”
「さて、話した通り、九条の件はかたずいた可能性が高いんだが?」
瀬名は真一を近場のお洒落な喫茶店へと呼び出し事の顛末を説明した。
「九条の件もそうだけど......何よりも気になるのは、瀬名さんのお母さんって何者!?」
真一は純粋にそう感じ口を開く。
「オレも知りたいくらいだ。」
コーヒーを口に含み微笑を見せる瀬名。周りの客はその笑みに魅せられ頬を染める。真一も頬を染めるが幾分か共に時を過ごしているおかげか前程の緊張は抑えられている。
「それよりも残りは一人になっただろう?最後の頭が可笑しい奴の情報をくれ。」
急かす様に言う瀬名。どうやら、周りから来る視線がうっとおしいのかイラだちを感じているようだった。
(正直な話、瀬名さんなら一言声を掛ければ、二つ返事で釣れるくらいには余裕だと思うんだけど....)
「ステラ・ウィリアム、こいつはオレ個人では一番ハーレムの中で容姿が良いと思う。ただ、前にも言ったとおり奇行が多すぎて周りから敬遠されてる。それに銀髪でめっちゃ目立つ。」
「日本人ではない.....まぁ、オレの容姿も日本人ではないが。それにしてもそいつはラノベハーレム物ならばダントツの人気キャラになるだろうな。戦隊で言う銀の戦士、すなわち最後のジョーカー的な存在は大概、小さい子供から大きな大人までかっこいいと感じる上手いポジションだからなぁ。」
真一は確かにと感じ頷く。そして二人は席を立ち会計を済ませると店を出た。
「真一、明日、お前の学校に行くから着いたらメールをする。すまないが、オレはこの後用事がある。じゃあな。」
そう言うとすぐに帰路へとつく瀬名。それを見届けると真一も同じく帰路へと着いた。
次の朝、学校へと登校すると校門前で九条香久夜が待っていた。
「真一さん、ちょっと。」
呼び止められ、自分へと着いて来るようにと手招きをされる。そして校内に入ると生徒会の使う教室へとつく。生徒会長でもある九条の特権で鍵を保有しているのだ。
「いい加減、用を言ってくれないか、九条。」
(まぁ、瀬名さんの事だって事が百パーなのは確かだな...)
真一は呆れた様に言う。九条はその表情を察っし、すぐさま一礼をすると本題に入ってくれた。
「おほん、早朝に呼び出してしまい申し訳ありませんわ。用事と言う程の物ではないのですが、最近、海斗さんとの交流が無くなったとお聞きして、新たなご学友が出来たとか、おホン、それで....」
遠まわしに瀬名の情報を聞き出そうとする九条に嫌気が指し、真一はストレートに言う。
「瀬名さんの事だろ?」
「え、えぇ......その、真一さんは瀬名様とよく共にお遊びになると聞いたので、あの、ぜひお次にお会いに為さる際には私も共にご一緒させて頂けませんでしょうか?」
礼儀正しく頭を下げポケッ卜から厚みのある封筒を自分へと渡して来ようとする九条。
(お金......だよな?そこまでするか、とは言えないよな。オレが女で同じ立場なら、あの人を自分の物にする為にこいつらと似た暴行に出ると思う。だが....)
真一は拳を握りその申し入れを断る。
「断る。そもそも九条、オレは海斗と友達だった時も余りおまえとは親しかった記憶はないが。」
そう、ハーレム要員は親友ポジの男、真一とはいくらかの会話はするが余り主人公海斗の様に深く関わる話には参加は出来ないのだ。唯一仲が良かった一ノ瀬月子でさえも今ではこの有様だ。
「それは.....ですが、私は何としても瀬名様とお会いしたいのですわ。会場で私、いえ、九条家を救っていただいた事に対しての感謝の言葉を........伝えたいのです!」
その気迫溢れる申し出に後ずさる真一。確かに瀬名の話を聞く限りじゃあ本当に救っている事からも九条の申し出を容易く断っていいものでは無いことを理解する。
「........俺から伝えておく。」
だが、真一はそれでも尚、瀬名と合わせる訳には行けないと感じそう口にした。
「そうですか........彼を抑えて下さる?」
真一の言葉を受け取った九条はすぐに冷めた表情になると真一を見下した目つきで凝視しそう口に出す。すると生徒会室に複数の同級生、正確には九条を守る為に派遣されている同い年のSP達が真一を拘束すると地面へと抑え付けられた。
「これだから下賎な出自の平民は嫌いなのですわ。平民にも海斗さんの様に真が通る殿方もいますが貴方は愚劣ですわね。それ相応の罰を与えた後、貴方から瀬名様の情報を聞き出すとしましょう。」
真一はその言葉を聞き自身の携帯へと保存されている瀬名の動画を思い出す。
「あぁ、聞き出すといいさ。オレの携帯の動画を見た後にな。」
抑えつけられながらもニヤケながらそう言う真一に九条は苦虫を噛み潰すような表情を取りSPの一人に携帯を回収し渡す様に指示をする。
(あぁ、お前の絶望する顔が早く見たいぜ。海斗.......次が最後だ。九条は此処で完全に堕ちたと確認出来た。お前の夢物語も終局へと向かう。)
真一は顔を地面に伏せ楽しむ様に静かに笑った。九条は携帯の動画を確認すると力が抜けた様に椅子へと倒れ、手に持つ携帯を落とし放心状態の様な姿になった。
「離して差し上げなさい........真一さん、先程の件は.....申し訳、ありませんでした。」
SPに真一の拘束を解くように指示する。涙目になりつつも縋る様な瞳を此方へと向けて来る九条。
「それでぇ?」
立ち上がるとパンパンと服を叩き落ちている自分の携帯を回収する。
「何でもしますわ......ですから、私が真一さんに先程した蛮行を許して欲しい、です....わ」
真一は口元を抑え意地の悪い笑みを浮かべている事を隠す。
(何でもしますねぇ........何でもねぇ?)
だが一度、真一は考えると落ち着きを取り戻したのか静かに口を開いた。
「そう、じゃあさ、死んでくれるかな?」
「それは......「無理でしょ?なら、何でも何て言葉を容易く言葉にしない方がいいよ。」
その言葉を残すと生徒会室を去り自分の教室へと向かう真一なのであった。




