Episode 21 "ツンとデレ”
ツンデレにもタイプと言う物がある。昔はよく暴力系にこの手のヒロインは収まっていた筈だ。だが最近では読者の暴力耐性の無さか減った気がする。
「いや、主人公に暴力振るう女とかないでしょ、デュフフ。」
との事らしい。個人的には旨みを得ている主人公に暴力を振るうヒロインには好感が持てるのだが、まぁ、価値観の違いだろう。
「俺ならツンデレのツンを綺麗に捌ける。」
瀬名はそう言った。勿論、彼の力量を疑う訳ではないが、彼はそのルックスに似合わず欲な所がある。アニメ好きなのはその一つだろうが彼の考え方と言うのはどうも人とズレている部分があるのは気のせいだろうか。
「それで、今日は確か、そのツン子って子が日直なんだろ?」
瀬名は真一と共に階段を下りながら話しをする。
「ああ、あいつはハーレムでもかなりの古株だから、瀬名さんでも手こずるかもしれません。」
「大丈夫だ、恋愛アニメ、女性向けアニメで鍛えたノウハウを使い乗り切る!」
瀬名は何処か楽しそうな表情をしていた。真一はこの人なら出来てしまうだろうと心の底から感じてしまう。
「良し、着いた。今日の最後の標的だ。」
真一は教室の前で言葉に出すと瀬名へと視線を送った。瀬名はその視線を受け取り教室の扉へと手をかける。
「もぅ、何で今日なの!私だって海斗と一緒にカフェに行きたかったのに!.....海斗ともっと一緒にいたい.....海斗ぉ......」
黒板消しで黒板に書いてある文字を消して行く一ノ瀬月子。
「それにしてもクソ真一の奴.....許せないわ。あいつ、海斗の親友の癖して嫌がらせするなんて本当に最低な奴よ。海斗が優しいから、優しすぎるからまだ学校に来れてるのに.......はぁ、どうすば海斗への嫌がらせを止められるのよぉ。」
一ノ瀬月子と言う女は中学時代からの付き合いだ。彼女は人と接っするとき、いつも強く出てしまう。その性格の所為で月子はいつも周りから孤立していた。だが、海斗はそんな彼女の性格を気にせず常に話し続けた。中学三年に上がる頃には三人で遊ぶ関係にまでなっていた。
だが、高校入学を得て時が経つに連れ海斗の周りには女子が溢れ変える。勿論、昔の様に話しはするが余り昔の様に長話しが出来なくなった。
そんなある日、忘れ物をしたので教室に戻れば海斗の机に花瓶を置く真一の姿を見てしまう。最初は真一ではないだろうと思った。真一は自分からしても親友なのだ。そんな彼がするはずがないと頭では分かってはいたが........
此れはチャンスだと感じた。
頭ではダメだと分かっていようと本能には逆らえなかった。一ノ瀬月子は理由が欲しかったのだ。
(私が海斗の唯一の親友になれば....彼女彼氏の関係でなかろうとずっと一緒に入れる....)
最低な人が誰なのかくらい自分が一番分かってる。でも、好きな人が出来ると乙女は盲目なる。その人に辿り着くなら何だってする。咎なら死んだ後に地獄で受ける。だから今だけは海斗と同じ世界で共に過ごしたいと強き思いが心を支配した。
だがその強き思いは夕日が差し込む教室に舞い降りた天使により塗り替えられる事になる。
ガラララララァ
「あっ.....」
一人の男が教室へと入って来た。その者はとても美しく夕日による赤色の様に私の心の色を滲ませていく。余りに儚くその表情を静かに見つめるてしまう。見ることを止められない。初めての感覚。
「ごめんない、お邪魔しちゃったかな?」
優しい笑みを浮かべるその天使、いや悪魔的な魅了を持つ者に心が惹かれて行く。彼の一つ一つの言動に自分は美しい琴音の音色を聞いているのではないのかと錯覚してしまった。
「あっ....ぜんぜんっ...だいっ」
緊張の所為か言葉を噛んでしまった。余りの恥ずかしさに穴にでも埋まりたいと感じるが穴などないので隠れる事も出来ない。夕日のおかげか赤面を幾分かは隠す事は出来ただろうと自分に言い訳をする。
「此処にもしかしたら転校するかも知れないんだ。」
瀬名はそう言葉に出す。もちろん転校する気などサラサラない。
「すっごい田舎の方に住んでたから、友達もあんまりいなくて.....さ」
ワザとらしく悲しい表情をしながら窓際へと立ち夕日を見る瀬名。
「わ.....わたしがっ......」
月子は瀬名の儚げな表情に騙され自分が彼の手助けになれればと感じる。そして瀬名は月子へと近づき手を差し伸べる。
「ボクとお友達になってくれませんか?」
その余りにも美しく凛々しい瀬名の姿に月子は心臓をドクンドクンと響かせ差し出された手を静かに恐るおそる握る。
「瀬名ジョン、よろしくね!気軽にジョンで良いよ!」
子供の様に無垢な笑みを浮かべ強く握られる手を見てとても愛おしいと感じた。.......自分の物にしたいと。一ノ瀬月子の頭には既に海斗の姿は無く瀬名に埋め尽くされていた。
「わ、わ、私は、一ノ瀬...月子...よろしゅくね....」
噛み噛みな自分に嫌気がさす。手を強く握り返し身体が勝手に瀬名を抱きしめていた。
「あ、あのっ?」
瀬名の焦る姿を見てもっと見たい離したくと感じる。どうすればこの瞬間を一秒でも長く出来るだろうと考える。瀬名はそんな彼女の唐突な行動に一瞬驚くがすぐに気を引き締める。
「そろそろ「いや.....です....」
反射的にそう言葉に出す自分に不思議と疑問を感じなかった。彼が何故かとても愛おしく離したくない。彼の顔を声を匂いを....全て、すべて、スベテ.....自分だけの物にしたい。そう本能が一ノ瀬月子と言う一人の乙女を襲っていた。彼女の瞳は何処か虚ろでヤンなデレ的な物を放出していた。
「おい、ツン子!」
真一は流石にこのままではまずいと感じたのか教室へと姿を現す。
「..............真一」
邪魔をするなと言わんばかりの視線を送る月子。だが月子にとって今、この場で一番言われたくない言葉を真一は言葉に出す。
「お前、海斗はどうした?海斗が好きなんだろ?」
瀬名は月子を離し真一を知らない誰かに話しをかける様に説明する。
「ごめんね、誤解させちゃったかな。海斗くんって人に不愉快な思いさせちゃったかなぁ。」
ワザとらしく落ち込む振りをする瀬名。その姿を後ろから見る月子は恨めしく真一を見た後、瀬名の袖をちょんと握り小さく告げる。
「大丈夫だよ。別に海斗が私が誰とハグしようと関係ないから。それに私と海斗は“唯の”友達だから。うんうん、ジョンが入ればもう‘アイツ’もいらないかな、えへへ。ジョンは気にせず“私”だけと接っすれば良いよ?私もそうするから。」
ツンデレのツンの壁を数十段階破壊しヤンへと昇格した月子の脳内は瀬名一卓に染まりきっていた。
「え〜と」
瀬名は中学時代の恐怖、再来を感じる。※“Chaos demerit 〜不屈の英雄〜番外編_第一幕”参照。
「おい、ツン子「ツン子じゃない!アンタには関係ないんだから私とジョンの時間を奪わないで!」
瀬名は月子の狂い具合に後ずさり、距離を取ろうとするが。
「もぅ、ずっーと一緒にいようね?」
抱きしめられる瀬名。愛らしい声と仕草とは裏腹に瀬名は後悔の念が押し寄せる。




