Episode 18 "親友ポジにいる男が惨めすぎる“
瀬名の限界実験は今は置いといて一人の男の話をしようと思う。これから話す物語は瀬名が逆転世界へと迷い込む以前の話だ。
「もぅ、海斗は絶対に私と映画に行くんだからアンタ達はどっかに行きなさいよね!」
「僕が先に海斗を買い物にさそったんだ。君こそ横取りなんて無粋だとはおもわないのかい?」
「海斗、遊園地に一緒に行く約束したよね?」
「まぁまぁ三人共、そんなに喧嘩しないでよ「「「海斗は黙ってて!」」」
ラノベ主人公と言うものは大半、ある程度の期間を設けるとこのようなあるある場面へと遭遇する。そしてこの喧嘩の仲裁方法としては大概、第三者による介入が図られる。
「お、モテ男、今日もやってるねぇ〜。お嬢さん達も元気なこった。」
そして、この世界ではどうやらオレは主人公ではなく第三者である親友ポジションなのだ。
「助けてくれよぉ〜真一。」
「しょうがねぇーな。おい、お前ら、海斗が困ってんだから程ほどにしとけよ。日にち組んでローテすればいいだろ?な?」
とこのように主人公のケツをふくのが自分の日常と化していた。オレがこの人生を謳歌しているかだって?
「してる訳ねぇーだろ.......」
屋上で一人空を見上げながら放課後の校庭へと目を向ける。
「海斗ぉー!今日はぜったい、駅前の新しいケーキ屋さんに連れてって貰うんだから!」
「あら、抜けがけは宜しくなくてよ。」
などとテンプレな会話が部活動の掛け声と共に聞こえて来る。
「はぁ、気軽で良いよな、あいつらは。........さて、オレは後始末をしますかね。」
ラノベやエロゲの主人公が何故、イジメや嫌がらせを受けないか分かるか?それは親友が裏でしっかりと始末をしているからだ。
「上履きに画鋲ね、何とも古典的な事だな。」
海斗の上履きの中から画鋲を取り除き教室へと向かう。
「へぇ、此処までするか.....確かにあんだけ見せつけられてちゃあイラつきはするだろうけど」
海斗の机の上に花瓶が置かれていたのだ。
「あいつは確かに女たらしだけど、根は悪い奴じゃない....」
主人公の親友ポジと言うのは多方、聖人なのだ。スケベな奴もいるが必ず主人公がピンチになれば手を貸しあたえるだろう。たまにゲイなのではと疑われるが心が純粋なだけなのだ。
「....とうとう俺の方にも被害が出たか。」
自分の机の方にも花瓶が置かれている事に気づき近づくと手紙も置かれていた。
「痛ッ....」
手紙を開こうと手を入れればカッターナイフの刃が入っていた。手先からは血が流れ、ため息を吐く。
「手紙の内容は.....“たらし男のお零れを貰おうとする醜男は死ね”ね。」
(オレは.....いつまでこんな事を続ければいいんだ.....あいつは確かに親友で友達だけど....)
友達に見返りを求めるような発言をしては行けないとは分かっていようと言葉に出してしまいたいと思う自分に反吐が出そうになる。
「あんた、何しての?」
教室の扉を開く音がする。真一はそちらへと顔を向けると海斗の女取り巻きの一人、通称ツンデレ子が姿を現した。初期ではツン子と言う名称で呼んでいたが最近ではデレが強いのでデレ子と呼んでいる。
「デレ子」
「その花瓶、アンタ」
「あぁ、それが「最っ抵ね!」
デレ子は怒鳴る。真一は弁解を言葉に出そうとするがデレ子に頬を打たれると教室を出ていってしまった。
「オレじゃあ.....ないって言おうとしたんだけどな。」
花瓶を机へから叩き落し机を素手で殴る。
「クソッ!!」
(いつも.....いつもだ!オレばかりがこんな目に遭う.....オレは唯、小中ん時みたいに二人でバカしたりナンパしたりして失敗して笑いあったり.......あぁ、オレは.....)
何かが切れる様に真一の顔から怒りが収まる。
「取り敢えず弁解しよう.......」
何故、主人公を見捨てず必ず側へと駆けつけるのか?それは簡単だ。
(....友達だからだ。)
次の日、真一は腹痛を起こし遅刻した。一限目の鐘が鳴り教室へと入ると一同にいっせいに視線が注がれる。主人公、親友海斗とその取り巻きハーレムからの憤怒の表情、そして他男子生徒のよくやったと言う視線。何とも複雑な心情が渦巻いた。
「海斗!」
親友の名を呼ぶ。だが返ってきた言葉は痛烈な物だった。
「話をかけなでくれ、裏切り者。」
「話しを聞いて「ちょっと海斗に近づかないでよねぇ、ゴミぃ。」
そうよそうよと取り巻きのハーレムどもが自分を遮る。
「海斗、オレを信じらんねぇーのかよ!」
真一が叫ぶがぶーぶーと海斗の取り巻きのハーレムが愚痴を漏らし遮る。
(オレは.....何で.....海斗、何でそんな目つきでオレを見るんだよ....オレはお前を守って.....守って.....守る?....なんで、オレ...はは、守ってたんだろうな。)
糸が切れた様に涙を流し真一は語り始めた。
「なぁ、海斗。オレはお前の事を親友だと思ってお前とこれまでバカしてきたけどさぁ、お前は変わったよな。お前がオレがやったって信じるならそれで構わない。ただ忘れないでくれ....オレはお前の親友“だった”って事をさ。」
「真一.....」
真一は黙って自分の席へと戻っていく。その日からは簡単だ、主人公への嫌がらせが目につくように見られるようになった。勿論、ハーレムを築いているので直接的な物ではなく遠回しなものだが。
「アンタがやってるんでしょ!」
デレ子が自分の元へと来た。だが真一は冷たくあしらう。
「.....オレに話をかけないでくんないかな。」
冷めた目で鋭く睨みつけるとデレ子は後ずさりながら海斗の元へと戻っていった。
「はぁ、やっと解放されたはいいけど、何か胸に穴が開いた見たいだ。」
深呼吸をしながら屋上から見える景色を一望する。
「貴方、本当にそれでいいの?」
給水タンクの横から顔をひょこっと姿を現すハーレムの一人であるクール系女子、通称クーちゃん。
「お前は....海斗の所に行かなくていいのか?」
「私は今、貴方に質問をしているんだけど。」
その強気な物言いにイラつきを感じ無視をする事にした。するとクーちゃんは自身の横にまで移動し話しを始める。
「アンタがアイツの為にしてた事、見てたよ。何で言わないの?あいつはアンタを待ってるんだよ?親友ならしっかりとけじめをつけてきなよ。」
こう言った自分が正義だと言わんばかりのアドヴァイスは反吐が出る。
「ありがとう.....でも、俺たちの縁は此処までだよ。」
苦笑いを浮かべつつ、クーちゃんを残し屋上を去ろうとするが肩を掴まれ平手打ちを喰らう。
(デジャヴ感を感じる.....)
クーちゃんは涙を流しながら自分のネクタイを掴みうったえる。
「アンタのそんな辛い顔見てらんないんだよ!友達なんだろ?親友なんだろ!なら俺たちの縁は此処までだなんて言わないで真っすぐと向き合えよ!!」
センチメンタル全開な発言に心底吐き気がする。
「お前にオレの何が分かる!!!たかだか高校からつるみ始めたお前に!!」
感情が思いが言葉に出てしまい後悔を感じる。
「ごめん.......それとさっき言った事は忘れてくれ。」
胸の拘束を外し屋上を後にする。
「.....真一。」
クーちゃんはその後ろ姿を消えるまで悲しそうな表情で見つめた。
「はぁ、ダメだな、オレも。」
帰宅の帰りコンビニへとより買った熱いレモンティーを口へと流し込む。
「考えてもしょうがないか、何か新しい事でもしようかな.....」
そんな事を口走りながら歩いていると隣高である進学校へと差し掛かり大声が聞こえて来たので声のする方へと歩いて見る事にした。本来なら許可がなければ入れないのだが部活勧誘シーズンなのかセキュリティーがガバガバで何事もなく入る事が出来た。
「私は醜い.....姿をお見せする事は出来ませぬ。」
大声の正体はどうやら演劇部のデモンストレーションだった。
「私は其方の心遣い、そして中身に惚れたのだ。容姿など気にするものか!」
服装は貴族の男装、そして仮面をつける姫がいた。観客達はその演劇にのめり込む様に手を口に抑えていた。
「何を恥じることがあろうか_其方は誠に美しい_」
そして劇を見ていると姫は仮面を外した。途端、劇を見ていた複数名の自身含める新入生達と生徒達は息をする事も忘れ、姫の顔に見惚れた。あまりに美しくもあり儚いその端麗な容姿に。
「貴方に出会えて_私は_幸せでございます_」
頬に水を感じ雨が振ったのかと思い空を見上げるが晴天だった。
(雨....じゃない。.......涙が自然に....)
「以上で、演劇部の部活紹介を終わります!ありがとうございました!」
その台詞と共に現実に連れ戻された真一は胸を抑えた。
(一目惚れってものを初めて体験した.....あの人、男だったけど。)
自分はホモではないがアレの美しさは次元を超えている。男女共に魅了するだけの美しさ、優雅さをもっていた。
「.....周りの奴らが瀬名って呼んでいたよな、間違えない。てかあの人、何処かで見たことあるなと思ったらネットに一度、顔写真晒を晒されているのを見たことがある。」
すぐに封鎖になった事で有名だ。誰一人としてその写真を保存する事が叶わず、何故かその写真を保存したデバイスが全てウイルスやら故障で消えさったのは都市伝説だ。
(瀬名ジョンって名前はこの地域では都市伝説以上に有名だ。中学時代の名称は確か大天使って呼ばれていたよな?今は確か堕天使って呼ばれてるって噂で聞いたけど。)
中学時代の瀬名ジョンと言うのは天使の様に美しく皆に優しく危うく観光名所になるほどに高貴な存在として崇拝.....愛されいたと聞いた事がある。
だが、高校に入ってからはコロっと変わった様に目つきが鋭くなり他人を寄せ付けない雰囲気を出すようになったとか。勿論、美しいのには変わらないのだが。
「ってこのジョンきゅん愛好会とか言うファンクラブサイトに更新されていたんだけどさぁ.....登録者数が軽く日本の総人口を超えているんですが.....てか20ヶ国くらいの翻訳サイトにも繋がってるし。」
余談だがそのサイトの総支配人が瀬名一だと言うことは本人にのみ知る真実だ。
「この人の境遇は海斗と似ているけどそれ以上にヤバそうだな。」
同情するようにそのサイトを後にすると家へと辿り着いた。
「おかえりなさい、真一。」
「おにぃーちゃん!今日は海斗君は一緒じゃないの?」
リビングへと行くと母と妹がテレビを見ながらみかんを食べていた。
「四月なのにまだ新年気分かよ。今日は.....海斗はもう来ないよ。」
自分の部屋へと戻る為、背を向けそう答えると妹はつまんなーい!と叫ぶが無視をし自室へと入るとべッドへと横になった。
「瀬名ジョン.....海斗以上のイケメン。いや、イケメンって言葉を使うのはなんだか失礼な気がするな。それに正直、海斗と比べる事すらも痴がましい気がする。」
うーんと指を顎に当て考える真一。
「話しがしたい。一度でいい......アドバイスを貰えれば.....」
頭を抑えながら真一は目を閉じる。瀬名ジョンと言う存在は海斗と似て非なる物。だがヒントは得られる筈だと考えた。
「元親友だからこそ.......イジメだけでも.......止めて.....」
真一は疲れからかそのまま眠りへとつく。




